3 微睡みの中
朝飯の後から見回り始め、昼頃には休憩のため一番大きな湖へ行く。
燦々《さんさん》と照りつける陽射しを遮るものもなく、存分に浴びることのできる唯一の場所だ。
剣を湖水で洗い、道々摘んでいた果実をかじりながら、俺は今日もゴロリと寝転がった。
顔だけはちょうど木陰に入るように狙っているので、眩しさで辛くなることはない。
むしろ木漏れ日に、水面を渡る風に、小鳥のさえずりに、湖畔での一時は疲れを癒すのだ。
とはいえ、
(暑くなってきたな)
緩やかではあるが、四季があるので、冬は寒く夏は暑いのだ。
(明日は休みだし、泳いでみるかなぁ)
湖の中央には1本の巨樹が立っている。
幹は大人5人で囲めるかどうかというほど太く、枝は水平に伸びたかと思うと唐突に天へと向きを変えている。
どこも白くツルツルと滑らかで傷も朽ちもない。
葉は唯一、枝の先端にだけ生い茂り、鳥たちの休憩場所となっている。
花が咲かないし実もつけない。
しかも小島に立ち育っているのでは無い。かなりの深さのある湖底に根を下ろしているのだ。
大きさといい輝くさまといい、自分のものではないが、この森自慢の巨樹である。
昨夜のいつもの鍛練が厳しかったせいなのか、眠くなってくる。
まだ見回りが残っているというのに。
(明日は……)
閉じようとする瞼に抗えず、ユウイは微睡みへと落ちていった。
蒼と碧の織り成す世界で、やわらかな光が漂うように揺れている。
ゆっくりと、何かが横切っていく。
ぼんやりとしたまま、ユウイは眺めていた。
ふと(…夢、か…)そう思ったが自由に身体を動かせる訳でもない、ただこの夢の続きが楽しみだった。
暫くしてユウイは泳ぎだした。
多種多様な水草に煌めく金や銀の鉱石。そして目の前に″白″が見えてきた。
(…ここ、は)
驚きにドクンッと跳ねた。ずっと辿り着きたいと思っていた。毎年挑んで、毎年敗れていた。湧水地点。……あの樹の根元。
(…あぁ…触れるこ…とができ…る?)
到着した場所はいくつもの根が密集していた。ユウイはまるで歩くように周囲を漂い、中へ入れそうな空間を見つけた。
(……)
そこは幻想的で美しい場所だった。
中央の湖底から湧く大小さまざまな泡と真っ黒な石。
それが踊るように動き回っては樹の根に当たり色を弾かせる。
黒が金や銀へと変わっていくさまに見とれながら、ユウイは強制的に目覚めさせようとしている力に気付いて抗うことなく目を閉じた。