2 問わない疑問
「グギッ…ギギ…ギギイィ!」
バサッ、ドスッ
「ギ、ギギ…ギヤャァ!!」
「ふぅ」
少し滑る肌色の体液をふるい落とし、剣を鞘に戻した。
大きさは手のひらぐらい、立派に育ったミミズといったところか。
相変わらず口を大きく開けて跳ねてくる。
まったく、ミミズのくせに。
躊躇していた日々ってあったか?と思えるほどの時間か経ったような気もする。
遭遇に慌てることも、退治することに戸惑いも無くなった。
もうこれが日常だと言える。
「こいつら何なんだろうな」
長から定期巡回の騎士様へ報告がされたのは、半年以上前だ。
退治しろ、とも、生け捕りにしろ、とも、いまだ指示は無い。
「ミミズじゃあな、どうするもねぇか…」
(毒のある根をかじる…)
(……いや、さっきのヤツはただかじっただけじゃない。破片もなにも残ってなかったぞ?あれは…食べた、のか?)
何かとんでもないことを想像しそうな自分がちょっと怖い。
勢いよく頭を振ると、軽く伸びてから、まだ半分も済んでいない見回りを続けるべく俺は歩きだした。
◇◇◇◇◇◇
この森はぐるりと山に囲まれている。
程よく雨季乾季があり、山々に降った雨がそのまま川となって流れ込んで、濁流が森を破壊するなんてことはない。一筋たりとも川が無いのだ。
雨水は例外なく地中を通り、森の中央にある一番大きな湖に湧きだす。
溢れることもなく、雨季には湖の周囲、山々との中間辺りに、まるで余分な水を吐き出すかのように、いくつかの池が出現する。
乾季には自然と干上がるし、そもそも出現する湧水場所が決まっているので、こちらは踏み荒らして貴重な水源を汚すことのないよう印を付けておくだけだ。
楽過ぎて、ある意味おかしいのかもしれないが。
周囲の山は特別高いわけではないが、険しいため山越えは難しい。
勇猛な動物が稀に越えて来るが、人が成功したというのは見たことも聞いたこともない。
人が向こう側と行き来するための道は洞窟が一つあるだけだ。
それを知っているのは所有者である王族と幾人かの騎士、そして管理をしている俺たち一族だけ。
あちら側の出入口は見つからないように隠されており、その洞窟自体も惑わすように内部がいくつもの道に分かたれている。
知らない者は入り込めないし、こちら側の出口には腕の立つ者が門番として交代で立ってもいる。
ここは、楽しいことは無いが争いごとも無い、安心安全な森なのだ。