回る、不思議。
長い暗闇を抜けると、そこには光り輝く観覧車があった。
赤、青、黄色。
三色が順番に変わっていく。ゆっくり、ゆっくりと回るそれに、人は乗っているのだろうか。
あまりの美しさに見とれていた前田がふと考えた。
「もっと近づいてみよう」
近くで見上げる観覧車は、予想以上に小さかった。
子供用なのか。
前田はあごに手を当てて、探偵のように考える。乗客がいないか確かめる。一つ一つ回ってくる。
いない。いない、いない。誰も乗っていない。
なおも回り続けるそれに、前田はだんだん乗りたくなってきた。
「勝手に乗っても平気かな?」
人はいない。客も従業員も、自分以外、誰もいないのだ。
「いいよな」
足を進める。右から流れてくる個室のドアを開け、中に入る。ドアを閉めて座席に腰を下ろす。
「ふぅ」
思わず、ため息が出た。理由はわからないが、とても疲れていた。椅子に背をあずけて、全身の力を抜く。大きく息を吸って。長く、ゆっくり吐く。目を閉じる。視界は闇に包まれる。
暗い。
黒いものがだんだん大きくなって押しよせてくる。
「――っ!」
とっさに目を開けた。
怖かった。
疲れた身体を休めるのに眠ろうとしたのだが、なぜかそれが怖かった。
前田は窓の外を見る。何も見えない。前田が乗っている観覧車から放たれる光以外は、何の明かりもないのだ。
「ここは、どこなんだ?」
ようやく落ち着いてきた。
おかしい。
何かがおかしいのだ。自分がいるこの場所はどこか変で、でもそのどこかが前田にはわからない。
考える。
無意識に手をあごに当てる。わからない。
しばらく考えていると、前田が乗っている個室は地上に近づいていた。前田は降りるかどうか迷ったが、結局、降りることにした。
再び見上げる。静かに、しかし確実に回っている観覧車。
赤、青、黄色。
このままずっと輝きながら、回り続けるのだろうか。
前田は瞳を閉じた。目の前にある観覧車の色を、まぶたの奥で思い出す。
最初に赤。次に青。黄色が続いて、また赤に。
目を開けると、ちょうど青く光っていた。
前田は観覧車に背を向けて、闇へと歩き始めた。
こんにちは。田崎史乃です。
読んでいただけたら、嬉しいです。
ありがとうございます。
この作品の「前田」は『なんかそんな気分』の「前田」とは、関係あるかもしれないですし、ないかもしれないです。
決して、名前を考えるのが面倒だったとか、そういうことではありませんよ。多分……。