好きなものはすき
長くなってしまいました。
うまい終わり方も思いつかなくて(汗)
それでも、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
「一緒にかーえーろっっ!」
「えー、いいの?彼氏。ここ最近、全然一緒に帰ってないでしょ?」
はぁ。またか……。
私には、付き合って1年の彼氏がいる。
もちろん、彼のことは好きだ。
でも、この感情が何なのか……よくわからなくなる時がある。
彼氏は、優しくて、面白くて、ほんとにいい人なんだけど。
好き、とは断言できても、大好きとは断言できない。
愛してるなんて場外。
「いいの。最近は、一緒に帰らないって決めてるから」
そう。彼とは、しばらく距離をおくことにした。
私は、彼のことが好きだ。
でも、彼のことを何も知らない。
血液型も、好きなものも嫌いなものも……秘密も知らない。
そんなので、好きなんて言える?
ましてや、大好きなんて…断言できないでしょ?
大体、ほとんど知らないのに大好きなんて言われても嬉しくないだろう。
そう思うのは、私がそうだから。
だってそうでしょ?
何も知らないくせに、大好きなんて言われても何も嬉しくない。
その人が好きになったのは、本当の私じゃないから。
彼氏の前となると、本当の、素の自分ではいられなくなる。
正直、無理をしているのかもしれない。
そんなに、無理してまで彼と付き合う理由なんてあるのかな。
「あ……」
友達と別れた後、バス停で彼に会う。
なんでこんな時に、って思う。
「寒くない?」
優しい言葉。
気づかないの?
私、貴方を避けてるのに。
無視して通り過ぎる。
彼は、隣りで黙って空を見上げたまま立ってた。
あれ?今のバス……。
「ねぇ。バス、行ったよ」
「ほんとだ。まぁいいや。次があるから」
あっそ。と、冷たく返す。
傷つけちゃったかな?
でも、彼はそのまま、優しい目をして笑ってた。
なんなの?なんでなの?意味わかんない。
私のどこがいいわけ?
こんなに冷たくて、可愛気のない奴のどこがいいの……。
「あのさ」
ん?と、彼がこっちを向く。
私は、彼を見ずに言う。
「一緒にいるの疲れた。もうやめよ」
彼がどんな顔をしているのかわからない。
驚いてる?それとも、別れられて嬉しいって喜んでる?
「そっか。じゃあ、やめよっか。お前がその方がいいって言うなら、そうしよ」
バカじゃないの。
「じゃあね」
来たバスに、彼を見ないまま乗った。
「またな」
そう背中越しに聞こえた声は、最後まで優しかった。
次の日、学校に着くと、彼は友達に囲まれていつもみたいに笑ってた。
彼は、私なんかいなくても平気なんだ。
私なんか、いてもいなくても同じだったんだ。
何……このモヤモヤした感じ……。
なんだか、すっごく……イライラする。
そんな変な感情を抱いたまま、もう1ヶ月が過ぎようとしていた。
帰りのバス停。12月はすごく寒い。
そういえば、この前までなら……。
「寒くない?」って、優しい言葉が聞こえてたのに。
「寒いよ、バカ……」
バカなのは、私の方。
何も知らない?
知らないのは、私だけ。
彼は私のこと、ちゃんと理解してくれてた。
一緒にいると疲れる?
あの人の隣りがどれだけ居心地のいいものか、私が1番知ってた筈なのに。
バカ。
彼が好きになってくれたのは、本当の私。
私が好きになったのは、本当の彼。
素の自分でいられないのは、彼に嫌われるのが怖かったから。
無理してまで、彼と付き合ってたのは、それだけ彼が好きだったから。
別れたあの日…彼の優しさに気づけなかった私が1番バカ。
寒くない?って、優しい言葉も、素っ気ない態度をとっても隣りにいてくれたことも、わざとバスに乗らず、私の乗るバスが来るのを一緒に待っててくれたことも……全部全部、私をおもってやってくれたこと。
なのに私は……。
あんな酷い態度で彼を踏みにじって、別れを告げた。
なんて愚かな人間。
大好きって断言できない?
嘘よ。
別れた次の日、モヤモヤしたのは彼がいつもみたいに笑ってたから。
イライラしたのは、私だけ傷ついてるみたいで悔しかったから。
本当は、今でも忘れられないくらい大好きなくせに。
涙が溢れてくる。
失ってはじめて気づく。
彼は私がいなくても平気?
違う。そうじゃなくて、私が彼がいないとダメなの。
彼は私がいてもいなくても同じ?
私には、彼がいるといないでは大違い。
彼の優しさが当たり前すぎて、気づけなかった。
こんなに自分勝手で、素っ気なくて、可愛気のない私を、ちゃんと理解してくれて、好きだって言ってくれるのは彼くらいしかいない。
自分勝手ってわかってる。
もう彼は私に呆れてるかもしれない。
新しい彼女をつくって、笑ってるのかもしれない。
それでも、好きなものはすきなんだ。
伝えなきゃいけなかった、ありがとうもごめんなさいも、まだ何も伝えられてない。
大好き。今ならそう、断言できるのに…。
彼のことが、本当に大好き。
勝手に泣いて、勝手に傷ついて。バカみたい。
それなのに、今でも彼が好きだなんて。
あの時の言葉。やめよって言ったのは私。
だけど、私は何ていってほしかったの?
いやだっていってほしかった?
彼のこと、ためしたかった?
本当に自分勝手。
後悔しても遅いのはわかってる。
だけど、涙がこぼれ落ちるたびに、後悔が溢れ出す。
バスに乗るのも忘れて、その場で泣き続けた。
人の目なんて気にする余裕はないし、車の通り過ぎる音もきこえない。
だから、気づかなかった。
「寒くない?」
不意にきこえてきた懐かしい声。
「あ……」
優しく笑う彼。
どこか哀しげで、それでも、温かくて。
「寒い。寒いよ。バカじゃないの」
彼を見上げると、いつもみたいに……。
ううん、戻れないのはわかってるけど、寂しくなって、また涙が溢れてきた。
「あのさ」
ん?と、彼がこっちを向く。
私は、彼を見たまま、涙を拭いながら。
「………ありがとう。ごめんね」
彼は、え?という顔をしている。
「でも……大好きなの……」
彼は何が起こっているのかわからないようで、黙ったままこっちを見ている。
「バ、バカじゃないの。本当にバカ。バカバカバカバカ……っっ」
背の高い彼を、拳で叩く。
「もう、遅い?もう、ダメかなぁ?」
涙をこらえる。
彼は驚いた顔をした後、いつもみたいに優しく笑った。
そして、自分のマフラーを私にかけると、優しく手を握った。
優しくて、温かくて、隣りにいると居心地がいい。
「クリスマスにはどこ行きたい?」
にっこり微笑んで、彼がそう言った。
また涙がこぼれ落ちる。
やっぱり私は、彼が大好き。
好きなものはすき。
なにがあっても、嫌いにはなれないの。
色々あるから、恋なんだよね。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。