しがない学生、戸惑う。
思ってたよりも早く投稿出来ました。
俺は、佐々木 貴幸。
地元の短大に通う、しがない学生だ。
どこにでも居るモブキャラ的な俺に、つい先日、全く相応しくないイベントが起きてしまった。
一目惚れ。
…そう、一目惚れだ。
一体、この世に何人の人が、一目惚れをした事があるのだろう。
わからないが、はっきり言える。
決して、多くは無い!!
ウィンドショッピングとかで、物に一目惚れするのとは、訳が違う。
…人、だ。
動きもすれば喋りもする、感情のある一人の人間なのだ。
俺が、彼女について知っているのは容姿と声、この二つしかない。
なのに、どうしてこうなってしまったのか…。
「…はぁ」
マリアナ海溝よりも深いため息を吐いた時。
「どうした?そんな顔して」
前の席の高橋が、振り返って言った。
柔らかそうなふわふわの茶髪に、色素の薄い垂れ目。
それに加えて、穏やかな口調と良く響くテノール。
今流行り(もう過ぎたっけ?)のイケメン草食系の奴は、腹立つ事に性格も良い。
ここまでくると、最早存在自体が嫌みに見える。
八つ当たりでもしてやろうとか思ったが、ぽやぽやした表情で首を傾げられて、毒気を抜かれた。
くそっ!天然め!
「…お前って、人生得してるよな…」
「いきなり何だよ!」
「別に…、ただそう思っただけ」
ぷいっと外方を向くと、何だよ~と拗ねた声が聞こえた。
うるさい、拗ねているのはこっちだ!
「ブハッ!お前ら本当、見てると飽きないわっ」
いつから居たのか、倉本が腹を抱えて笑っていた。
黒髪眼鏡の、絵に描いた様な知的クールキャラだが、実は勉強が一番出来ない。
テスト前になると、高橋に泣きついているのをよく見る。
「あ~、腹痛ぇ」
「お前、いるなら声くらい掛けろよな」
眦に浮かんだ涙を拭っている倉本をじろりと睨むと、ゴメンゴメンと軽く謝られた。
…全く、気持ちが籠もってない。
「んで?貴幸ちゃんは何を悩んでいるんですかね」
「そうだ!どうしたんだよ、一体」
ニヤニヤ笑みを浮かべて面白がってる倉本と対照的に、高橋が真剣な顔して詰め寄ってくる。
正直、話そうかどうか悩んだが、逃げられそうもないので、思い切って打ち明けようと決心して口を開いたが。
「いや、まぁ、その…、一目、惚れ…っていうの?を、してしまいまして…?」
やけに、たどたどしく打ち明けてしまった。
てか、自分で言ってて何だけど、何故に疑問系だよ。
二人の目を見て言えなくて、俯いていた顔を上げると。
そこにはニヤニヤ笑みを深めた倉本と、目をまん丸にして驚いている高橋の顔。
この瞬間、俺は軽く後悔した。
高橋はともかく、倉本には言うんじゃなかった、と…。
続きます。たぶん。