守りたい日常
新学期がスタートした。
でもやる気はゼロ。
その理由は俺の平凡な成績と目立たない容姿が関係している。
生まれてから十五年。
これまで特に意識も困ったことも無かったんだが、高校生活で始めて格差を感じている。
席に着いた。
右隣には知的な和風女子が座っている。
清楚。
凛として内面からくる美人だ。
俺は正気では右側を向けない。
左隣には健康的な洋風女子が座っている。
優雅。
蛍光灯の下でも輝きが収まらかい美人だ。
俺は見えないオーラで左側を通れない。
真後ろには野獣の心を抱く運動万能の男子がいる。
猛獣。
息遣いは獲物を狙う捕食者そのもので終始姿勢を崩すことは許されない。
そして前はお伽の国の王子様が如く男子が鎮座。
覇者。
見る者を跪かさる威圧が自由に立つことを許さない。
そんにルックス成績良しの中心にモブ顔である俺は座っている。
早く席替えが来てくれと願わんばかりだ。
授業中に四方から圧迫を感じるのは分かってもらえただろうか。
いや分かってはいない。
問題はむしろ休み時間なんだ。
仲良きことは喜ばしいこと。
授業が終わるとすぐに始まる会話の銃弾に撃たれ、俺の胸や頭を突き抜けて穴だらけだ。
──俺は空気。俺は空気。俺はスライム。
自意識を保つ為に唯一覚えた防御魔法を唱え続け耐える日々を暮らしている。
そんなクラスの人気者の真ん中に、ちょこんと配置されていたのが悪かったのだろう。
ある日のこと。
グニャりと視界が歪んで次に視界が戻ると、周りの四人と共にどことも知らない部屋へと転移していた。
震える俺。
絵になる四人の立ち姿。
異世界定番の王との会話が始まり、いよいよ始まるんだなと皆の声に反応してステータスが表示されていく。
勇者、剣闘士、賢者、聖女。
定番が出尽くした。
うんうん、そうだろうと納得の職業欄に皆がご満悦。
もう魔王でも倒せそうだよね。
でも最後に俺の番だしなんて用意していると、王が強い一言を放った。
「……お前……いる?」
眩い光。
発動条件を満たしたのか。
それとも場にいた全員の意見が満場一致したからだろうか。
強い拒否力からグニャりと視界が揺れた。
そして再び元の世界へ。
逡巡する間もなく追放されてしまったようだ。
「授業を始めるぞ。」
先生が教壇に立ち黒板にチョークを走らせる。
生徒も静かにノートを取り出した。
俺は周りを確認する。
前後左右は空席状態でポツンと真ん中には俺一人。
違和感しかない。
誰も違和感を抱かない。
授業は始まっている。
元からいなかった者として時間が進んでいく。
放課後。
もやもやして授業など全く見に入らなかった俺はようやく落ち着きを取り戻してきた。
そしてステータスを確認して無かったことに気付く。
すぐに還されたしステータスはないのかな。
半分諦めつつ唱えてみる。
開いた。
職業はモブ。
スキルは……。
自宅の部屋に戻ると、ベットに腰掛けた。
残った四人の顔を思い浮かべる。
俺のすきるは実生活で役には立たないくせに集中力は求められるのだ。
心をおちつけると自分が授かったスキル名を唱えてみることにした。
「エピソード」
四人が魔王を倒したその後の物語。
黒い画面に白い文字となって現れ、異世界に渡った四人のその後が文となって流れ出す。
王子様はどこぞの姫とくっついて国を大きくしたそうだ。
野獣は冒険者となり火竜を倒し歴史に名を残したそうだ。
洋風女子は神として祀られ慈愛に満ちた人生を送ったそうだ。
和風女子は叡智を極め不老不死となって世界を見守ったそうだ。
遠くに行っても近寄りがたい存在だ。
やはり持っている人は成すことも違うよな。
羨ましいよ。
まっ、なりたいかと聞かれれば、なりたくはないけどね。
四人のエピソードに小説の大作を読み終えた気分に浸る。
モブには平均より少し上くらいで丁度良い。
君たちは頑張って。
俺はこれからもモブの人生は変わず続けていくよ。
そう考えるとあの時、送り返してくれた王様には感謝だな。
マッチポンプに要らぬ謝辞をしつつ最後に感想を述べる。
「てことは、席替えは望まなくても良くなったな。」
終




