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追放された天才魔導具師、辺境から星の海へ〜魔法と科学で港町を世界一の宇宙港へ成り上がらせる〜  作者: 黒崎隼人


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番外編「星降る夜の祝祭と、繋がる未来」

 ストライダー3号機が見事に星の軌道へ到達したその夜。

 キイの町は、まるで王国全土の祭りが1つに集約されたかのような、空前絶後の熱狂に包み込まれていた。

 広場には無数の焚き火が焚かれ、海風に揺れるランタンの優しい光が、石造りの家々を黄金色に染め上げている。普段は静かな波の音さえも、吟遊詩人たちの奏でる陽気な音楽と、数千人の人々がグラスをぶつけ合う歓声にかき消されていた。


「おい、レオン! こっちに来て、1杯やろうぜ! お前さんがあのバカでかい鉄の塊を空に飛ばしたって、まだ信じられねえよ!」


「領主様、アリア様! こっちは最高の真鯛が焼けてますぜ! 今日は俺の奢りだ、たらふく食ってくだせえ!」


 広場を歩く2人は、すれ違うたびに漁師や商人たちから次々と声をかけられ、その手に酒杯や串焼きを押し付けられた。

 アリアは顔を赤らめながらも、町の人々からの祝福を嬉しそうに受け取っている。その表情には、かつて衰退していく町を憂いていた時の暗い影は微塵もなく、未来への確かな希望が満ち溢れていた。


「すごい熱気ね。王都の建国祭だって、ここまで盛り上がらないわよ」


 シルヴィアが、冷えた果実酒が入ったグラスを片手に、優雅に歩み寄ってきた。彼女の周りには、投資の成功に気を良くした他領の商人たちが、ご機嫌取りのように群がっている。


「シルヴィアのおかげだよ。君がこの見学会の経済効果を的確に計算し、インフラを整えてくれたから、こんなに多くの人が笑顔で祝うことができている」


 レオンが労いの言葉をかけると、彼女はふふっと上品に笑った。


「商人の基本よ。人が集まる場所には金が落ちる。あの塔がそびえ立ち、定期的に空へ火柱が上がる限り、このキイの町は『星のまち』としてのブランドを永遠に保ち続けるわ。……もっとも、それもあなたが絶対に諦めなかったからこそ、生み出せた価値だけれどね」


 シルヴィアはグラスを軽く青年のそれに当て、チンという澄んだ音を響かせた。


 広場の隅では、ドルトンとガルドが、屈強な漁師たちを相手に腕相撲大会や酒飲み競争を繰り広げていた。

 建築ギルド長の太い腕が男たちを次々と薙ぎ倒し、錬金術師が俺の魔力酒の方が強いと豪語して、怪しげな光を放つ液体を振る舞っている。彼らのような偏屈でアクの強い職人たちが、これほどまでに地元の住民と打ち解け、共に笑い合っている光景は、数ヶ月前には想像もできないものだった。


「見て、レオンさん」


 アリアが、広場の奥に建つ真新しい宇宙ふれあいホールの方を指差した。

 そこには、地元の子供たちや魔導学校の宇宙探究コースの生徒たちが集まり、彼が広場に設置した大型の投影水晶板に釘付けになっていた。


 水晶板には、3号機が宇宙空間から送ってきた、最初の映像が映し出されている。

 真っ暗な虚空に浮かぶ、美しく青い星の姿。そして、そこから自分たちの住む王国、さらにはこのキイの町がある辺境の岬までが、信じられないほどの鮮明さで捉えられていた。


「あれが、僕たちの住んでいる星なんだ……」

「すごい! 本当に空の向こう側に、魔導具が届いたんだね!」

「僕も大きくなったら、レオンさんみたいに空を飛ぶ船を作るんだ!」


 目を輝かせて歓声を上げる子供たちの姿を見て、青年は思わず目頭が熱くなるのを感じた。


『俺が作りたかったのは、単なる鉄の塊じゃない。あの子供たちの目に宿るような、未来への純粋な憧れと、常識を打ち破る可能性そのものだったんだ』


 彼は、そっとアリアの手を取った。

 彼女は少し驚いたようにレオンを見上げたが、すぐにその手を強く握り返した。


「アリア。君がこの町にいなかったら、俺は2回目の失敗で心が折れていたかもしれない。君と、この町の人々の不屈の祈りが、俺たちに空を飛ばせてくれた」


「何を言っているの。レオンさんが、私たちに『失敗を恐れない強さ』を教えてくれたんじゃない。私たちはただ、あなたたちと同じ夢を見せてもらっただけよ」


 夜空には、満天の星が瞬いていた。

 その星々の中の1つに、彼らが今日送り届けた5つの新しい星が紛れ込んでいるはずだった。


「これからが本当の勝負だ。王国の物流を変え、通信網を広げ、誰もが宇宙を手軽に利用できる時代を作る。俺たちのストライダーは、そのための第1歩に過ぎない」


「ええ。どこまでもついて行くわ、レオンさん。星の果てまで、一緒に」


 2人は、焚き火の暖かな光に包まれながら、静かに空を見上げた。

 キイの町の祝祭は、夜が明けるまで終わることはなかった。それは、1人の天才の挫折から始まり、数え切れないほどの困難を乗り越えて繋がった、新しい時代の夜明けを祝う、世界で最も美しい宴だった。

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