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ピンク髪の男爵令嬢の断罪の話

作者: 山田 勝

「アナよ!これから断罪を始める」


 学園の庭の噴水近くで断罪が始まった。アナとは公爵令嬢にして殿下の婚約者のアナタシア様のことだ。


 私は男爵令嬢のサリー。公爵令嬢と二人並んで断罪を受けている。


 さきほどから断罪が始まっているが、

 誰の断罪かさっぱり分からない。


「アナよ!いくらこの男爵令嬢の髪が奇抜なピンクだからって噴水に落とすのはやりすぎだ!」


「ちょっと、あれは事故だって言っているのだからね!」


 殿下の宣言に、侍従候補っぽい奴が続く。


「フ、イジメられている側の証言はあてになりません。

 アナタシア様、いくら、男爵令嬢の顔が小癪で阿呆そうな顔なのに成績だけは良くて目の上のタンコブだからって、突き飛ばすのはやりすぎです」


「ちょ、ちょっと、小癪って何よ!」


 アナタシア様を呼び捨てなのは幼なじみの騎士団長の息子か?


「だぜ?たがが田舎令嬢のお上りさん。服のセンスが滅茶苦茶で今時フリルの服はないわ~て、俺でも分かるけど、やり過ぎだぜ!」


「ちょっと、あんたの服装だって、肩章にトゲトゲがついているじゃない!」

「フウ、これが格好いいのだ。田舎者にはわからんのよ」


 そして、一番腹が立つのが、アナタシア様の義弟にして同学年の誰だっけ?


「そうです。義姉上、身分の差があれど学園では平等です!髪がドピンクだからって、粛清を行うのは良くないです。ピンクだって、いえ、サリー嬢だって、差別されまくって人格が歪んだはずです。僕たち高位貴族は慮るべきです」



「ちょっと、差別されてないのだからね。人格が歪んだって何よ!あんただって、髪、緑なのだからねっ!自分を客観視しなければならないのだからねっ!」


「え、これは普通の髪の色です」


 義弟君の髪はド緑だ。どう見ても自然の髪色でないだろう。

 皆、話を聞かない。


 私は隣で一緒に断罪を受けているアナタシア様に小声で話しかけた。


「ちょっと、アナタシア様、いつもこんな奴らの相手をしているの?」

「ご想像にお任せしますわ」


 多分、王子は馬鹿真面目なタイプであろう。


 どうしてこうなったかって、ほんの五分前に遡る。




 ☆☆☆回想


「ピ、ピンクですの?髪がピンクですわ!」



 学園の庭園を歩いていたら、突然、金髪の上級生に指をさされて口を開けて言われた。



 時々我が男爵の家系でピンク色の髪の子が生まれる。

 領地にいたときは誰も指摘しなかったが、どうやら王都では珍しいらしい。


 とにかく何て答えればよいのだろうか?


「ええ、ピンク髪なのだからねっ!」


 私は男爵家とはいえ、領地の男の子と遊んでいたからこんな口調になった。



「そうなのね。染めていないわよね」


「当たり前なのだからねっ!」


 その時、強風がヒューと吹いてきた。


 ヒュ~ヒュルルルル~


「キャア!」


 と上級生がよろけて、私を押した。


 私だけバシャン!と噴水に落ちたじゃない。


「ち、違いますの!私じゃございませんわ!いえ、私ですけど、そういう意味じゃないですの!」


 人が集まって来たわ。


「まあ、公爵令嬢アナタシア様が・・・まさか、粛清?」

「粛清された相手は、男爵令嬢のピンク、いえ、ピンクの男爵令嬢?」

「ついに始まったか・・・アナタシア様の学園支配」


 野次馬が勝手なことを話しているじゃない。


 だから、私は弁解したじゃない。


「違うのだからねっ!こ、これは、じ、事故、だ、だか、だからねっ!」


 噴水の水が冷たくてブルブル震えたから言葉が途切れたじゃない。


「震えている。これはイジメじゃない?」

「口封じ?公爵令嬢怖いわ」


 また、勝手なことを言って、


 その時、殿下と取り巻きたちがやってきた。



「アナ、どうした?・・・まさか、ピンク?」


「ちょっと、ピンクって名前じゃないのだからねっ!」


 如何にも侍従候補と騎士団長の息子と弟っぽい奴らが言い放ちやがった。


「ずぶ濡れじゃないですか?」

「まさか、アナタシアが?」

「義姉上、ここは学園です。いくら公爵令嬢でも許されません」


 側近達も次々にアナタシア様に疑念を持つじゃない?


 すると、殿下が察したようでアナタシア様に言うじゃない。


「アナ、如何に奇抜な髪色で何か騒動を起しそうな顔をしてヒラヒラの服を来ているからって、噴水に落とすのはよくないぞ」


「そうです。アナタシア様、頭悪そうで成績だけは良いからって噴水に落とすのはよくないです」


「そーだぜ。ちょろちょろ動いて落ち着きがない如何にも田舎令嬢だからってやりすぎだぜ」


「義姉上、いくらピンク髪だからってそれだけはしてはいけません」



 カチンと来たじゃない。アナタシア様を姉と呼ぶ男の髪は緑じゃない?


「ちょっと、あんたの髪も緑じゃない?人の髪のことを言ってはいけないのだからねっ!」


「な、何だって・・・・」(ポッ)



 何?義弟君顔が真っ赤になって・・・


「そ、そんなこと言われたのは初めてだ・・・」


「じゃあ、今日、記念日だからね。緑記念日だからねっ!」

「えっ、二人の記念日・・・」



 もう、退散しよう。変な空気になった。

 逃げようとしたじゃない?


 すると、アナタシア様があたしのドレスの裾を掴むじゃない。



「お待ち下さい。濡れたままですわ。私がドレスを・・・キャア」


 あたしの勢いにドレスを掴んでいた手が離れて私はバランスを崩して倒れたじゃない。

 私は、ゴロゴロと転げ回って勢いを殺した。


 そうだ。昔は丘の上からゴロゴロ転がって遊んでいたのだからねっ!



「アナ、そこまでその奇抜なピンクが憎かったのか?」


「陛下に・・報告するしかありません」

「おう、アナタシア、それはいかんな・・・」

「義姉上・・・そのサリー嬢をいじめてはダメです」


「だから、事故だからねっ!」


 こうして、私は逃げる機会を逸して断罪を受けている・・・




 ・・・・・・・・・・



 すると、アナタシア様が私に提案した。



「サリー様、話会いは大事ですわ。何とか殿下を説得しますわ。協力して下さいます?」


「もちろんだからねっ!」


 公爵令嬢が私を見つめて言うじゃない。

 そうだ。アナタシア様とは立場が違えど共闘できるような気がしてきた。


 人は何故、争うのだろう・・・きっと、ちょっとした誤解から始まる争いもあるはずだ。


 すると、騒ぎで集まっている中に第二王子が割って入ってきた。

 あれは、兄のものを欲しがるタイプか?


「兄上、アナタシア姉様にその物言いはないです。この男爵令嬢の狂言でしょう」


「狂言ではございませんわ!事実として私がサリー様を押したのは確かですわ」

「そーだからねっ!勝手に決めつけちゃいけないのだからねっ!義弟とキャラ被っているのだからねっ!唐変木!」


「なっ!ピンクはともかく、ね、姉様はそんな言い方はしない!グスン、グスン!」


 逃げ出した。あれはシスコンをこじらせたタイプか?



「何が起きているか?ルードリッヒ、王太子候補として婚約者を庇わないのか?」

「伯父上!」


 大公がやってきたじゃない。


 しかし、アナタシア様が・・・


「ですから、大公殿下は関係ございません。仲裁を頼んではおりませんわ」


 断固拒否したじゃない。やるじゃない。なら、私も。


「そーだからね。この変人と思ったらやっぱり変人だったが定番だからねっ!」


「な、何だと!今日は帰る!」


 そして、二人で目力を効かせて、殿下と側近達を詰問する。


「殿下!話を聞いて下さいませ!その耳は飾りでございますか?」

「そうだからね。兎のように聞きやがれだからねっ!」


「なっ?アナよ・・・」

「アナタシア様」

「アナタシア」

「義姉上・・・」


 その時、また邪魔が入った。


「何事か?」

「何をしているの?ルードリッヒ?」


「父上、母上!」


 どうやら国王夫妻だった。


 事情を話し、場を改めて話会いになったが、奴らは納得しなかった。


 しかし、アナアナが、


「納得しなくてもいいですわ!婚約は保留ですわ。それに、サリー様を庇いながらディスっている自覚がないのが問題ですわ!」


 と言ってくれた。


 その後、陛下が王宮の賢者にピンク髪について調べさせてもらった。


 何でも、何かを引き寄せる力があるようだ。





 今日も、薔薇のトゲにドレスが引っかかっているところを侯爵令息に見つかった。


「ご令嬢、私が助けて差し上げよう」

「不要ですわ。ダーゥン様、私にお任せ下さいませ」


「アナタシア様・・・」


 どうやら田舎領地で人が少なく縁を結ぶ機会が少ないので男を引き寄せる力があるらしい。


「助かったのだからねっ!アナアナ有難うだからねっ!」

「アナアナはお止め下さいません!」


「書記になったのだから仲間だからねっ!」


 私は生徒会書記になり。アナアナの監視がつくことになった。


 こういう束縛は大歓迎なのだからねっ!




最後までお読み頂き有難うございました。

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