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ep7 しあわせ

「しかし」とナイジェルは改めてコハクに頭を下げた。「本当に申し訳ございませんでした」


「いや、そんな、ナイジェルさんのせいでもないのに」


 コハクは手を横に振って恐縮するが、ナイジェルは頭を上げて小さく顔を振る。


「元はと言えば俺のせいなんです」


「息子のナイジェルさんが、領主さまからの縁談を断ったからですか?」


「先ほどの、母が用意したコハクお嬢さまの婚約者候補の男たちなんですが」


「?」


「彼らは全員、一人残らず〔テルストリア〕の貴族なんです」


「貴族??」


「要するに政略結婚なんですよ」ナイジェルはきっぱりと言った。「俺の縁談話も同じです。息子の俺ならまだいいですが、よりにもよって伝説の魔女さまのご令嬢に政略結婚させるなんて......いや、だからこそその価値が最大限になると考えたのでしょう。コハクお嬢さまは初代領主のご令嬢でもありますから」


「領主さまは焦っているのでしょう」アンはナイジェルを諌めるように補足した。「近年、〔マギアヘルム〕の人口は減少し、衰退の一途を辿っていると言っても過言ではありません。この地を何とかしたいという領主さまの思いゆえなんだと思います」


「まさかアンがバーさんの肩を持つとはね」


 意外な顔をするナイジェルに、アンは微笑を向ける。


「バーバラさまでしょ」


「バーさんでいいんだよ、あの人は」


「でも......」アンはコハクに視線を戻す。「私は、コハクお嬢さまにはご自身の幸せを掴んでいただきたいと思っています。魔女がどうとかは関係なく、です。だってコハクお嬢さまも、一人の女の子なんですもの」


「畏れ多くも、アンはすっかりコハクお嬢さまへ情が移ってしまっているようです」


「た、大変失礼いたしました」アンはコハクへ頭を下げる。


「い、いえ、そんな」コハクは慌てて頭を上げてくださいとジェスチャーする。


 アンが顔を起こすと、三人は同時にクスッと吹き出して笑い合った。

  

「幸せか......」コハクは虚空を見つめる。まだ転生したばかりで地に足も着いていない。でも、自分はこの世界で、女の子として新たな人生を歩んでいくことになるんだ。そのうち誰かと出会って恋をして、付き合って結婚するなんてこともあるのだろうか......。


「ところで」とアンが水を向けてきた。「このあと、湯浴みをなさいますか?」


「ゆ、湯浴み??」コハクはびっくりする。


「よろしければ、私がお供いたします」


「で、でも......」


「遠慮なさらないでください」ナイジェルが安心させるように言う。「実は当屋敷の裏の森を少し行ったところに温泉があるんです。そこも俺の許可した人間しか入れません。だからアンとゆっくり入ってきてください。疲れも取れますよ」


 ナイジェルとアンが歓迎の極みの笑顔を輝かせる。もはやコハクに断る術はなかった。


「じ、じゃあ、お言葉に甘えて......」


 コハクはまだ、女に生まれ変わってから一度もお風呂に入ったことがなかった。ドレスに着替える前に体は拭いたが、バタバタしていて風呂どころじゃなかった。

 アンの誘いに、躊躇する気持ちは山々だった。だけど......コハクは覚悟を決めた。先々のことを考えると、そうも言っていられないのだ。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

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