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ep5 宴

主人公と王子役イメージ(AI作成)

挿絵(By みてみん)

【3】



 里一番の館の、大広間の台座の上。コハクは借りてきた猫のように縮こまっていた。彼女の目の前では今、里をあげて盛大な『魔女復活祭』が繰り広げられている。

 宴の主役はコハク。彼女は深紅のドレスを着せられ、玉座とでも言うべき豪華な椅子に座らされ、崇め奉られている。 


「深焔の魔女さまの復活だぁ!」「麗しき魔女、コハク・インフェルドさまの復活に祝福を!」


 当のコハクは、ただ苦笑いを浮かべるだけで精一杯だった。そこへ、彼女に寄り添って立つ中年女性が声をかけてくる。


「コハクお嬢さま。ご気分が優れませんか?」


「あ、いえ、」コハクは慌てて恐縮する。「ボクは大丈夫です、領主様」


 頭には三角帽子を被り、ローブのような暗色のドレスを身に纏った現領主は、魔女貴族という言葉がぴったりの女性だ。まさしく魔女の里〔マギアヘルム〕の領主に相応しい。


「今は現実を受け止めきれずに大変でしょう」領主は言う。「〔魔女のほこら〕での三百年間の長き眠りからお目覚めになったばかりで、ましてや記憶を失ってしまったコハクお嬢さまに、いきなりこのような宴など酷なことです。察するに余りあることです」


「いえ、そんな......」


「お体にも障りましょう。しかし、先ほどもご説明申し上げた通り、これは伝承通りの事象なのです。そして貴女の復活を、あの神々しき光景を、この地の誰もが目の当たりにしました。〔マギアヘルム〕としては何もしないわけにはいかないのです」


「で、ですよね〜」


 コハクは力無く笑いながら、先ほど領主から小一時間ばかりかけて受けた説明を、頭の中で振り返ってみる。


 ここは〔テルストリア〕という国の自治領で〔マギアヘルム〕という場所。マギアヘルムとは『魔女郷』のことで、どうやらこの世界には魔女がいるらしい。つまりこの世界は、生まれ変わる前にいた世界とはまったく別の世界。魔女がいて、魔法が存在する世界なのだ。これだけでも驚愕の事実だが......。

 何よりもコハクが驚かされたのは、自分がその魔女の血を引いている特別な人間だということ。かつてウィッチ・クイーンと謳われた伝説の魔女『深焔の魔女』の娘だということ!

『深焔の魔女』の娘が、どういう理由で三百年間も眠っていたのかはわかっていない。だが、三百年後に目覚めることは伝承通りだったという。

 なお、『深焔の魔女』は、ここ〔マギアヘルム〕を創設した初代領主でもあった。なのでコハクは初代領主の令嬢にもなるのであった。


「......情報量が多すぎる上に、ひとつひとつの情報に威力がありすぎる。てゆーかボクの転生は伝承と関係あるの?そもそもボクはなんで言葉も文字もわかるの?それに今のボクって何歳なの?どう見ても見た目は女子高生か女子大生ぐらいだよね?」


 コハクはがっくりと首をもたげた。事実の衝撃度に心身の疲労感が半端ない。しかし一方で、色々と腑に落ちてもいた。これまでに起こった不可思議な現象の何もかもに、根拠が裏付けられたように思ったのだ。


「コハクお嬢さま」 


「......」


「コハクお嬢さま」


「......あっ、は、はい。......えっ?」


 領主の呼びかけに顔を起こすと、コハクは一驚する。いつの間にか彼女の面前に、複数の若い男たちがズラリと並んでいた。


「コハクお嬢さま」


「は、はい?」


「よろしければ、彼らと少しお話をしていただけますか?」


「は、はあ」


「もしご気分が優れないならばお断りいただいても構いません」


「あ、はい......」コハクは断ろうかと思いながら何気なく彼らの顔をよく見てみた。


 彼らはコハクの視線を受けると「ああ......」と息を漏らす。彼らのコハクに向ける眼差しは熱を帯びていた。それは魔女への崇敬だけではないように思われた。


「いかがなさいますか?」と領主。


「あ、あの、その前に!」何かを感知したコハクはやや焦って確認する。「この人たちはその...どういう人たちなんですか?」


「彼らは皆、優秀な若者たちです」領主が即答した。


 コハクの胸に不信感が生じる。何かを誤魔化されたと思った。


「領主様」コハクの声のトーンが下がる。「ここにいるのは全員男の人です。若くて優秀な女の人はいないんですか?」


 自分でも気づかないうちに、コハクは領主を睨みつけていたようだ。領主は一驚して黙ってしまうが、数秒の間を置いてから観念した。


「本当のことをお話いたしましょう」


「やっばり、何かあるんですね?」


「はい。コハクお嬢さまのおっしゃるとおり男しかおりません。それには意味があります」


「どんな意味ですか?」


「彼らは皆、コハクお嬢さまの婚約者候補です」


「そうですか......えっ、こここ婚約者!?」


 コハクはびっくり仰天する。自分が伝説の魔女の娘ということでまさかとは思ったが......いきなり結婚相手を見繕うなんて! 


「絶世の美少女であらせられる貴女には及びませんが、彼らは皆、容姿も能力も粒揃いの男たちです。さあ、コハクお嬢さまのお眼鏡にかなうのはどの殿方ですか?」


「えええ!?」


「さあ、コハクお嬢さま!」


「おい!」とここで突然、こちらに向かって誰かの怒声が上がった。

 コハクも含めて皆が一斉にそちらへ視線を移すと、ひとりの男が肩をそびやかして歩いてきていた。彼の目は領主を見据えている。


「なんだ、ナイジェルか」と領主。


「なんだじゃないよ、バーさん」


 ナイジェルは領主の側まで来るなり大きく溜息をついた。


「な、ナイジェルさん」とコハクは気づく。彼はコハクを領主のもとまで案内してくれた男だった。


「申し訳ありません、コハクお嬢さま。バーさんが不快な思いをさせてしまったでしょう?」


「バーさんと呼ぶのはおよしなさい!このバカ息子!」領主が割って入る。


「バカはアンタだろうが。目覚めたばかりで記憶喪失のところにつけ込みやがって。いくら伝承通りの魔女さま復活だからといって、準備が良すぎるだろうよ。まったくとんだバーさんだよ」


「だからバーさんと呼ぶなと言っているでしょう!」


「はいはい」ナイジェルは領主を軽くてあしらうと、コハクに向かって手を差し出した。「コハクお嬢さま、こちらへ」


「は、はい」


 コハクは彼の手を取り、席を降りた。ナイジェルは軽く頷いてから、大広間に向かって顔を向ける。


「宴は終了だ!コハクお嬢さまはお疲れなので早々に退がらせてもらう!」

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

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気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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