ep2 プロローグ(2)
ガチャッ
二人が談笑しているところへ、いきなり水を差すように部屋のドアが開いた。二人は驚いてそちらへ振り向く。
「ど、どうしたんだ?」と颯が突然の来訪者へ向かって尋ねた。どうやら彼の知り合いのようだ。
「ひょっとして......」虎白は勘づく。「ハヤテの元カノ?」
虎白の言葉は颯へ囁いたものだったが、女が反応する。
「私はハヤテの彼女。てゆーかコイツがアンタの浮気相手??」女は颯を睨みつけた。
「ちょっと待て」颯が立ち上がる。「リコとは昨日別れたよな?いやその前になんでここに入って来ることができたんだ?」
「これよ」女はキーを手に持って見せた。「スペアを作っておいたの」
「い、いつの間に!?」
「もちろんハヤテに気づかれないようにだけど」
「お、おまえ、それ、悪質なストーカーと同じだろ......」
「はあ!?」女はキーを思いきり颯に向かって投げつけた。「加害者のクセしてなに被害者ヅラしてんのよ!このクズ男!!」
「お、おい、近所迷惑になるから騒ぐなって」
「もう浮気はしないって約束したわよね!?」
「あれからはもう女遊びはしてないって昨日も言っただろ?」
「浮気がバレる前に私のことを捨てたってだけでしょ!」
「違うっての!」
「じゃあその女は誰よ!?」女が虎白を指さした。
「ぼ、ボク??」虎白は仰天する。
「待て待てコイツは男だよ」颯はうんざりしたように溜息をつく。「被害妄想もいい加減にしてくれ」
「ひがいもうそう?今アンタ、被害妄想って言った??」
ただでさえ怒っていた女の怒りのボルテージが俄然急上昇する。どうやら悪いスイッチを押してしまったようだ。
「だから落ち着けって」と颯は鎮めようとするが、手遅れだった。
「私が今までどれだけ辛くて苦しい思いをしていたかわかる!?それがすべて私の被害妄想のせいだって言うの!?」
「そ、そこまでは言ってないだろ」
「いいや、あなたは思ってる!私が傷つくことなんてどうでもいいと思ってる!」
「そんなこと思ってないって!そうやって勝手に思い込むのはやめろ!」
「思い込み??」
「思い込んでるだろ。そもそもコイツは男だし」
颯は虎白の肩に手を置いた。
「そ、そうです!」何か言わなきゃと虎白も声を上げる。「ボクとハヤテは同性の友達です!」
「ああ、そういうことなのね......」
女は妙に静かな反応を見せる。不気味だった。
「リコ......?」
「ハヤテもその女も、私を惨めで可哀想な女だと思ってバカにしているのね......」
「お、おい、なにを言ってんだ?」
「もう耐えられない......」
「リコ?」
「ころしてやる......」
「えっ?」
「殺してやるっ!」
女は肩に下げたバックから何かを取り出すと、バッグを床に投げ捨てた。
「なっ!?」と二人が目を見開いたのも束の間、女は颯に向かって勢いよく突っ込んできた。
「あああ!!」
颯と女が折り重なるように床に倒れた。いや、正確には少し違う。二人の間には虎白の小柄な体が挟まっていた。すんでのところで虎白が親友の盾になっていたのだ。
「ごふっ......」
虎白はえずいた。大量の吐血とともに。彼の腹部には、刃渡り二十センチの包丁が見事に突き刺さっていた。
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結局、彼は病院到着前に亡くなった。凶器は肝臓を貫通し、大動脈や脾臓までをも損傷していたという。
虎白の記憶の最後にあるのは、急激に薄れていく意識の中、自分の名前を叫ぶ親友の声だった。
こうして、火野虎白の人生は、まだ若くしてその幕を閉じたのである。閉じたのであったが......。
何の因果なのか、どんな運命なのか。彼はこれから、別の者として新たな人生を歩むことになるのである。
しかもそれは、この世界の話ではなかった。
ここに今、転生した魔女の物語が始まる。
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