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ep1 プロローグ(1)

「ちゃんと綺麗にしてるじゃん」


 日野虎白は友人の部屋を見回しながら感心した。


「コハクがうるさく言うからな。ちゃんと一人でもキレイにしてんだよ」


 颯はドリンクの入ったグラスをテーブルに二つ置くと、自分も床に腰を下ろした。


「もう半年前だっけ?ハヤテが一人暮らしを始めた時はビックリしたよ。なんだかんだハヤテはまだしないと思ってたからさ。あ、飲み物ありがとう」


 虎白はグラスを口に運んだ。


「俺だって大学生の間は実家にいるつもりだったんだ」颯はテーブルに肘を置いて頭を掻く。「姉貴と妹にブチ切れられたからなぁ〜」


「でも、その原因は......」


 虎白は正面に座る友人に向かって、じと〜っと怪訝な視線を貼りつける。


「ああーそうだよそうだよ」

 颯は両手を上げて降参のポーズをとる。

「原因は俺のせいだよ、俺の女遊びのせい。実家にも連れ込んでたからな。わかってるって」


 もはや開き直ったのか颯は明るく笑った。

 そんな友人に虎白はため息を漏らすが、すでに慣れっこだった。親友はそういう男だ。


「昔からハヤテはよくモテるから、つい遊んじゃうのかもしれないけどさ......もっと女の子のことを大切にしないと、いつか自分自身に返ってくるかもよ?」


「なんだコハク、俺のこと心配してくれてんのか?」


「それは心配するよ!実家を追い出されるくらい遊ぶって、よっぽどだよ??」


「姉貴も妹もカタイからなぁ〜」


「ハヤテが軽すぎるんだよ!」


「わかったわかった。これでも今は控えてるほうなんだから」


「でも、今度の彼女とも別れちゃったんでしょ?」


「それはあれだ、どうも合わなかったんだよな。ちょっとこう、俺には重いっていうか、真面目なんだけど思い込みが激しいタイプでさ」


「ちゃんとやさしくしてあげてた?」


「そのつもりだけど」


「ホント?」


「なんだよ、疑うのか?」


「気になっただけだよ」


 虎白は腕組みして口を尖らせる。彼は本気で颯のことを心配していた。そのうち修羅場になって刺されたりするんじゃないか?そんな想像さえ働いてしまう。


「まあ、俺も反省はしてるよ」


 わかっているのかいないのか、颯は頬を掻きながら一応の反省の色を表した。それからグラスを手に取り一口飲むと、今度は彼のほうが虎白に意味ありげな視線を向けてきた。


「なに?」と虎白。


「いや〜こうやって改めて見るとさ......」

 颯は虎白をしげしげと見つめて言う。

「コハクの女装姿もすっかり様になったなーって。完全に男の娘ってやつだよな?いや、コハクの場合は声も高くて女声だし、もはや完全に女の子だな。しかもカワイイし」


「そ、そうかな?」


 虎白は少しモジモジした。嬉しかった。


「そのうえ料理も得意で裁縫まで得意って......おまえは古き良き大和撫子かっ!」


「やまとなでしこ!?」


「ぶっちゃけおまえなら抱ける、いや、結婚したいぐらいだわ」


「なっ!」


「でもさ」


「?」


「昔は色々あったけど......」

 颯は感慨深さを滲ませる。

「今日久しぶりにコハクに会って、コハクが自分らしくやれてるみたいで良かったよ」


「ハヤテのおかげだよ」

 虎白は即答する。

「あの時イジメられていたボクをハヤテが助けてくれたから」


「たまたまだよ、たまたま」


 颯は遠慮するように手を横に振った。


「たまたまだったとしても、事実は事実だから」


「それは、まあそうだけど」


「あの頃は本当に色んなことが重なって塞ぎ込んでいたし......」


 コハクは遠くを見つめた。


「ちょうど親が......」と言いかけて颯は言葉を飲み込む。

「悪い。あんまり思い出したくないよな」


「ううん、全然平気だよ」

 コハクは微笑を浮かべる。

「確かに当時は親が亡くなってショックだったけどね。そのあと親戚の家に預けられることになって、最初こそは戸惑いもあったけど、本当に良くしてもらったから」


「おじさんとおばさんがイイ人で良かったよな。それに従姉の杏奈ちゃんはコハクのこと大好きだからな」


「杏奈お姉ちゃん、本当にボクのこと可愛がってくれたからね。ボクの趣味にも理解を示してくれたし、本当に特別な人だよ。でもね?」


「ん?」


「ボクが変われた最初のきっかけは、やっぱりハヤテなんだよ」


 コハクは親友に誠実な感謝の眼差しを向けた。


「お、俺は」と颯は照れくさそうにする。

「できることをやっただけだよ」


 そのまま颯がソワソワしていると、虎白は悪戯っぽくニヤリとする。


「これで女癖さえ悪くなければねぇ......」


「おっとまたそこに戻るか」


「ちゃんと一途だったら、ボクもお嫁さんに立候補しようか、なーんてね」


「おいおいマジか」


「女遊び、やめられる?」


「無理だね」

 颯は謎のドヤ顔を決める。

「それは俺の人間としての幅ってやつだからな」


「幅にも限度があるんじゃない?」


 二人はじ〜っと見つめ合うと、どちらともなくプッと吹き出した。

 親友二人の楽しそうな笑い声が部屋に響く。なんの変哲もない、平凡だけど幸福な時間。

 彼らは平凡な幸福に満たされていた。それが間もなく見るも無惨に破壊されてしまうことも知らずに......。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

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気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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