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天使に変身  作者: だあ
8/10

天使の秘密 (1)

■あらすじ

無職のおじさんAは、ある日突然、天使の姿をしたかわいらしい少女に変身した。

彼は別人を装い、家賃の取り立てを免れるばかりか、大家の金取家に居候することに成功した。

しかしある時、彼の正体がAである可能性に、金取リツが気づいてしまった。


■登場人物

A

・30歳、無職、男性

・ある日突然、天使の姿をしたかわいらしい少女に変身

・その容姿をフル活用して生きていくことを決意

・金取家の人々からは”テンちゃん”と呼ばれる

・ゲームやSNSでは”エイちゃん”と名乗る

・主人公


金取リツ(カンドリリツ)

・17歳、女子高生、大家の孫娘、アルバイトで大家の仕事を手伝う

・可愛い物好き

・彼の正体がAである可能性に気づいた


金取セツコ(カンドリセツコ)

・おばあちゃん、主婦、リツの祖母

・背中の羽のせいで普通の服が着れないAのために、服を仕立ててくれる


金取ノボル(カンドリノボル)

・おじいちゃん、老後に大家業、リツの祖父


男2人

・男子大学生

・オンライン対戦ゲームでAと知り合う

・ネットでの呼び名は”ベーヤン”と”シイタケ”

1


彼はリツと一緒に風呂に入った。

その際、彼はリツの胸を触りたいとせがんだが、リツがそれを断った。

風呂上がりの2人は今、脱衣所にいる。

彼は、彼の髪と羽を、リツにドライヤ-で乾かしてもらっている。


彼は椅子に座って、リツが彼の後ろに立っている。

ドライヤーはけたたましい音を立てて、彼の頭に風を吹き付ける。

彼の視界の端で、風になびく髪の毛が見える。


(しかし、髪を乾かすのって時間かかるな…)

彼はドライヤーが終わるのを待ち焦がれていた。

(風呂場で洗いっこするのは楽しいんだけど、この時間はつまらんなあ)

彼はリツに声をかけてみた。

「まだー?」

するとリツが答えた。

「もうちょっと」

それから少し間を置いて、風が止み、ドライヤーの音が遠のいた。

終わったのかな、と思い振り向くと、リツは少し遠くに立っていた。

リツは完了の合図を告げた。

「はい、おつかれさま」


それからというもの、リツは少しよそよそしくなった。

リツは、彼と一緒に風呂に入ってくれなくなった。

これまで、リツが彼を風呂に誘っていた。

今では、彼から風呂のことを切り出しても「今日はちょっと」と流される。

さらには彼からのボディタッチを避けるようになった。

これまで、彼は機会があればリツの手を握ったり、ハグしたりしていた。

今では、彼がそういうそぶりを見せると、リツが身をよけるようになった。


2


数日が経過した。

近々、彼の両親がやってきて、アパートの彼の部屋から荷物を引き払うことになっている。

部屋を引き払うことを、彼は少し寂しく感じた。

彼のAとしての人生の幕を閉じるような気がした。

そこで彼は最後に、パーッとやることにした。

その日、彼はゲーム仲間の男2人組、”ベーヤン”、”シイタケ”と遊ぶ約束をしていた。

彼はいつも通りゲームをするだけでなく、酒とつまみを用意するつもりだった。


彼は台所にいる。

抜き足差し足、音を立てないようにそーっと歩く。

台所には、彼の他に誰もいない。リツは学校、老夫婦は居間だ。

老夫婦の和やかな話し声が時々聞こえる。


彼は音を立てずに冷蔵庫の扉を開けた。

「おじいちゃん、ごめんよお。この姿じゃ酒は買えないんだ」

彼は缶ビールを一本取り、服に忍ばせた。

彼はまた音を立てずに台所から出ようとした。

しかし誤って椅子に足の指をぶつけてしまった。

「ん?なにかしら?テンちゃんかな?」

セツコ婆が様子を見に台所にやってきた。

セツコ婆は彼を見つけて言った。

「どうしたの?おなかすいてる?何か作ってあげましょうか」

彼は振り返って言った。

「あー、いや、大丈夫ですー。ハハハ」

彼はカニ歩きで台所を脱出し、言い残した。

「それじゃ、遊びに行ってきまーす」

「遊びに行くの?いってらっしゃい…そんな急がなくても」


彼は足早に外に出た。

彼はコンビニでおつまみを買い足し、アパートの部屋に向かった。


3


彼はアパートの部屋にいる。

彼と”ベーヤン”、”シイタケ”はいつものごとくオンラインゲームを楽しんでいる。


ディスプレイはゲームの目まぐるしい戦闘シーンを映している。

キーボード、マウスは彼の手によってガチャガチャ、カチカチ音を立てている。

机の脇の方には、缶ビールとおつまみが並べられている。


「あーダメだー!負けだー!」

彼がそう言うと、”ベーヤン”、”シイタケ”が励ました。

「ドンマイ、ドンマイ」

「次頑張ろう」

彼はビールの方に目をやった。

「さてと」

缶のノブを引いて開封すると、炭酸の抜けるときの小気味良い、プシュという音が鳴る。

「乾杯!」

そう言って彼はビールをごくごく、2,3口ほど飲んで、息を吐いた。

”ベーヤン”は彼に訊いた。

「いい飲みっぷりだね。何飲んでんの?」

「ジュースです」

しかししばらくすると、彼は酔っぱらい始めた。

「そう、そのリツっていうゴリラ女があ、胸ぐら掴んできてえ。あ、でもその女、おっぱいでかいんすよお。えへへ」

”シイタケ”が彼を心配した。

「エイちゃん、大丈夫、酔っぱらってない?あれもしかしてお酒だった?」

彼は言った。

「ダイジョーブッ!あれはジュースれすよお。もしお酒でも、私ハタチ超えてるんでえ、心配しなくても大丈夫れすよお」

”シイタケ”は提案した。

「今日はもう終わりにしよっか?」

彼は嫌がった。

「えー、もう終わっちゃうんですかー、ケチ―」

”ベーヤン”が彼をたしなめた。

「エイちゃん、子供がお酒を飲んじゃだめだぞ。また今度、シラフのときにやろうな」


”ベーヤン”、”シイタケ”の2人は通話を抜けた。

彼はしばらく無言でおつまみを食べ、追加のビールをあおった。

そして彼は眠りについた。


4


彼は夢を見ている。

夢は彼が変身する前、Aだった頃のものだ。

両親からの仕送りが打ち切られ、彼は生活のアテを求めていた。

彼はコンビニのアルバイトの面接を受けている。


彼はコンビニのバックヤードにいる。

彼とコンビニの店長は丸椅子に座り、向かい合っている。

脇には事務机があり、彼の履歴書が置かれている。

隅に置かれたテレビが歌番組を放送している。

天井の蛍光灯は、一片の影も作らないよう、あたりを入念に照らしている。


「それで、どうでしょうか」

彼が訊くと、店長は答えた。

「んー、せっかく志望してくれたところ申し訳ないけど、今回は不採用で」

「あ…はい」

店長は続けた。

「君はその年で無職、養ってくれる人もいない。それなのにシフトは週3?生活できないんじゃないの。そんな最低限しか頑張ろうとしない君が、きびきび働いてくれるとは思えないんだよね」

「はい」

店長はさらに続けた。

「一回考え直して、良ければまたうちを志望してよ。そうしてくれると、うちとしても助かる。人手不足なんだよね」

「あ、ありがとうございます」

店長は面接を切り上げた。

「それじゃ、また来てね」

ありがとうございます、と言って彼が立ち上がると、店長が声を上げた。

「お、カナちゃんだあ。可愛いなあ」

テレビの歌番組に出演しているアイドルのことらしい。

アイドルはインタビューを受けている。

「イロハさん、昨年は大躍進の年でしたね。何か躍進の秘訣などありますでしょうか」

「ありがとうございます。去年を恵まれた年にすることができたのは、応援してくれたファンの皆と、サポートしてくれた周りの大人達のおかげです。皆にお返しできるように、曲も歌もダンスも、もっと頑張っていきます!」

インタビューが終わり、アイドルはパフォーマンスの準備をする。

「そうですか、今年も期待してます。…いやほんとに立派ですよね。まだ17歳とは思えません。さあ、それでは披露していただきましょう。イロハ・カナさんで、メタモルフォーゼ」

アイドルが歌い始めると、店長もそのアイドルを称えた。

「ほんと、偉い子だよ」


夢はそこで途切れた。

だんだんと意識が戻り、部屋のドアを強くノックする音が聞こえてきた。

「テンちゃん、いるー?出てこれるかなー?鍵開けちゃうよー。合鍵もってるからねー」

アパートの部屋に、リツが訪ねてきた。

2025/08/27

いよいよ最終章、完結まであと2話です。

あと2話、毎日投稿していきます。

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