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天使に変身  作者: だあ
7/10

天使を満喫 (3)

■あらすじ

無職のおじさんAは、ある日突然、天使の姿をしたかわいらしい少女に変身した。

彼は別人を装い、家賃の取り立てを免れるばかりか、大家の金取家に居候することに成功した。


■登場人物

金取リツ(カンドリリツ)

・17歳、女子高生、大家の孫娘、アルバイトで大家の仕事を手伝う

・可愛い物好き

・今話の主人公


A

・30歳、無職、男性

・ある日突然、天使の姿をしたかわいらしい少女に変身

・その容姿をフル活用して生きていくことを決意

・金取家の人々からは”テンちゃん”と呼ばれる

・ゲームやSNSでは”エイちゃん”と名乗る

・いつもの主人公(今話は違う)


金取セツコ(カンドリセツコ)

・おばあちゃん、主婦、リツの祖母

・背中の羽のせいで普通の服が着れないAのために、服を仕立ててくれる


金取ノボル(カンドリノボル)

・おじいちゃん、老後に大家業、リツの祖父

1


金取リツ、彼女の家には、数日前から天使が居候している。

金取家の人々はその天使のことを”天使ちゃん”、縮めて”テンちゃん”と呼ぶ。

”テンちゃん”は金取家が所有するアパートの部屋から見つかった。

”テンちゃん”には住む家も、服も、記憶さえもないらしかった。

そこで、金取家は”テンちゃん”を引き取った。

彼女は”テンちゃん”のことを妹の様にかわいがっている。


彼女は学校帰りに、”テンちゃん”がアパートから出てくるところを見かけた。

”テンちゃん”は絵にかいたような天使の姿をしている。

頭の上には天使の輪が浮いてほのかに光り、

背中からは真っ白な羽が生えている。

”テンちゃん”はとても可愛い。

色白で、髪は長い金髪、瞳は青く、目はぱっちりとして、きゃしゃな手足がすらっと伸びている。

背格好からして、13,14歳くらいだろう。

彼女のお古の白いワンピースがとてもよく似合っている。

「おーい、テンちゃん」

彼女が呼ぶと、”テンちゃん”はビクッとして振り返り、手を控えめに振り返す。


彼女は”テンちゃん”と合流した。

”テンちゃん”が何をしていたのか、彼女は訊いてみた。

すると”テンちゃん”は答えた。

「何か思い出せないかと思って、アパートを散策してみたんです」

「そうなんだ」

彼女は”テンちゃん”に成果を訊いた。

「何か思い出した?」

「いえ、何にも…」

”テンちゃん”はやや伏し目がちになった。

彼女は”テンちゃん”のことを不憫に思った。

(そうだよね…何も覚えていないのって不安だよね)

彼女は”テンちゃん”を励ました。

「大丈夫、きっとすぐ思い出せるよ」

「はい…」

彼女は”テンちゃん”に訊いた。

「そうだ、コンビニ寄ってかない?アイス買ってあげる」

「ほんとですか?やった」

”テンちゃん”は彼女に笑いかけた。


2


”テンちゃん”が見つかったアパートの部屋には、もともとAという住人がいた。

Aは無職の中年男性、親の仕送りで生活していたらしい。

しかし、Aの親が将来を案じて仕送りを切ってしまった。

おかげでAは家賃を滞納し、彼女が家賃を取り立てに行く羽目になった。

結局、Aは家賃を払うことなく失踪し、代わりに親が払ってくれた。

現在もAの居所はわからないが、親と連絡を取っているらしい。

彼女が見かけたAはいつも清潔感がなかった。

髪やひげを整えることもなく、服はほぼ寝間着だった。

Aは気が弱そうで、目をそらし、ボソボソ話す人だった。


別の日、彼女が学校から帰ると、ノボル爺が誰かと電話していた。

ノボル爺は時折、相槌を打つ。

セツコ婆は台所で夕飯の支度をしている。

魚が焼ける匂いがする。

”テンちゃん”は居間にいる。

横になって、ちゃぶ台の脇からテレビを見上げている。


(この子、天使っぽい見た目だけど、やっぱり普通の子だよね。家の手伝いはほとんどしないし、何か天使らしい使命もなさそうだし)

彼女は”テンちゃん”にあいさつした。

「ただいま」

すると”テンちゃん”は起き上がって彼女に抱きつき、彼女に笑いかけた。

「おかえりなさい」

彼女は”テンちゃん”の頭を撫でた。

(まあ、可愛いから何でもいいか)

そこへ、ノボル爺が電話を切って、居間のちゃぶ台の前に座った。

すると”テンちゃん”がノボル爺に訊いた。

「なんの電話だったんですか?」

「なんだいテンちゃん、気になるのかい?」

「あ、いや、その…」

”テンちゃん”はまごついている。

ノボル爺は答えた。

「テンちゃんが見つかったアパートの部屋の住人、Aさんっていうんだけども、

その人がテンちゃんと…なんちゅーか、入れ替わり?…でいなくなったんよ。

で、親御さんが今度、部屋の荷物を引き払ってくれるって」

リツは訊いた。

「で、結局いつ来るって?」

「来週の土曜10時ごろ。家のインターホン鳴らすように言っておいたから」

「了解」

ノボル爺はAについて訝しんだ。

「にしてもAさん、一体何があったんだろうねえ。そうだテンちゃん、何か知らないのかい?」

”テンちゃん”は伏し目がちになって答えた。

「ごめんなさい。何も覚えてなくて…」


彼女もAの件については不審に思っていた。

突然失踪して、帰ってこず、しかし連絡は取れる、そんなことはあるだろうか?


3


彼女はしばしば、”テンちゃん”と風呂を共にする。

ある時、風呂上がりの”テンちゃん”の髪と羽から水が滴るのを、彼女は見かけた。

”テンちゃん”はどうやら、髪の乾かし方を知らないようだ。

背中に生えている羽を洗うのも、苦労しているらしい。

彼女は”テンちゃん”のお風呂を手伝ってあげることにした。

すると”テンちゃん”はお礼に、彼女の背中を流してくれるようになった。

”テンちゃん”との洗いっこは楽しい。しかし気がかりなこともある。

先日、”テンちゃん”が彼女の胸を触りたがったので、彼女は触らせてやった。

その時の”テンちゃん”の雰囲気がいつもと異なるように、彼女は感じた。

なんというかギラついていた。

触りかたもいやらしかった。


風呂場には彼女と”テンちゃん”がいる。

彼女は風呂椅子に座っている。

”テンちゃん”は彼女の後ろに立って、彼女の背中を石鹸のついた手ぬぐいでこすっている。

風呂場の湿気で、鏡は白く曇っている。

鏡を手で拭うと、拭った部分から”テンちゃん”の顔が見え隠れする。


彼女と”テンちゃん”はふと目が合った。

彼女が笑いかけると、”テンちゃん”も笑顔になった。

(可愛いなあ)

”テンちゃん”が言った。

「お客様、お加減はいかがですかー。痒い所ありませんかー」

彼女はおばあちゃんの口調で答えた。

「はあい、ちょうどいいよお。ありがとねえ」

”テンちゃん”はクスクスと笑った。

しばらくして、彼女の背中を流し終えると、”テンちゃん”が切り出した。

「あの、今日は…」

”テンちゃん”がまた彼女の胸に触ろうとしていると、彼女は察した。

「ダメ」

「何がですか?」

「おっぱい触るのはダメ」

すると”テンちゃん”はねちっこくせがんだ。

「えー、どうしてですか?」

「どうしてって…イヤなんだもん」

「イヤなんですか…なんで…?」

「イヤったらイヤなの!」

「女の子同士なのに?」

「うん…」

彼女が断り続けると、”テンちゃん”は断念した。

「そっかあ…」

彼女は”テンちゃん”に訊いた。

「どうしたの?急に人が変わったみたいで怖いよ」


4


風呂上がりの脱衣所、彼女は”テンちゃん”の髪と羽をドライヤ-で乾かしている。

彼女は風呂場での出来事を思い返している。


(テンちゃん、ちょっと怖かったな…しつこくて、スケベなオッサンみたいだった)

”テンちゃん”の内面について、彼女は分析した。

(オッサンというか、そう、ダメな大人って感じ。家の手伝いはしないし、よく寝転がってテレビ見てるんだけど、言葉遣いや受け答えはしっかりしてる。見た目と真逆)

”テンちゃん”に関する謎を、彼女は思い返した。

(不思議なのは内面だけじゃない。どうして記憶喪失になったんだろう。出会ったとき、なんでまともな服を持ってなかったんだろう。なんでAさんの部屋にいたんだろう。Aさんは今どこで何してるんだろう。この子は一体、何者?)

”テンちゃん”の正体について、彼女は考えた。

(Aさんの娘?知り合い?それとも単に居合わせただけ?…なんかどれもビミョー)

彼女はしばらく悩んだ。


答えが見つからず、気が付くと思考は停滞していく。

”テンちゃん”は椅子に座り、こちらに背を向けたままじっとしている。

”テンちゃん”の長い金髪は風を受けてさらさらとなびく。

「まだー?」と問う”テンちゃん”に、「もうちょっと」と答える。

彼女は思考をあきらめかけている。


しかしふと、彼女の脳裏にノボル爺の言葉がよぎった。

「テンちゃんが見つかったアパートの部屋の住人、Aさんっていうんだけども、

その人がテンちゃんと…なんちゅーか、入れ替わり?…でいなくなったんよ。」

彼女は手を止め後ずさる。

(入れ替わり?…Aさんがテンちゃんに入れ替わった?…つまり…変身した?)

2025/08/17

物語がようやく佳境に入りました。

物語をちゃんと完結させることができそうで、少しホッとしています。

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