天使に施し (2)
■あらすじ
無職のおじさんAは、ある日突然、天使の姿をしたかわいらしい少女に変身した。
変身した彼は別人を装い、大家の孫娘リツの取り立てを免れた。
■登場人物
A
・30歳、無職、男性
・ある日突然、天使の姿をしたかわいらしい少女に変身
・その容姿をフル活用して生きていくことを決意
・主人公
金取リツ(カンドリリツ)
・17歳、女子高生、大家の孫娘、アルバイトで大家の仕事を手伝う
・可愛い物好き
1
彼にまともな服をあてがうため、リツは彼を連れて金取邸に向かった。
金取邸はアパートに隣接する一軒家だ。
金取邸にはリツとリツの祖父母夫婦が暮らしている。
祖父は金取ノボル(かんどりのぼる)、祖母は金取セツコ(かんどりせつこ)という。
2人はアパートの大家だ。
金取邸は木造で、屋根は瓦。
引き戸を引くと、木の床の廊下と、その奥に畳の部屋が見える。
リツが帰着を知らせた。
「ただいま」
すると奥からノボル爺とセツコ婆が出てきて、リツを出迎えた。
2人は、まだまだ元気な老夫婦、という感じだ。
ともにきれいな白髪で、肌は少し焼け、顔にはしわがある。
歩き方は機敏で、老いを感じさせない。
祖母の髪はくるくるしてボリューミーだ。
祖父はおおかた禿げ、側頭部に少しだけ髪が残っている。
セツコ婆が心配を口にした。
「おかえりなさい。リッちゃん、あんた大丈夫かい?怪我してないかい?」
「ばあちゃん。大丈夫だよ。あいつビビりだし。」
「そうはいってもねえ。あんたは女の子なんだし、相手は大人の男でしょ。何かあったらと思うとあたしゃ怖くて、怖くて。」
続いて、取り立ての成果について訊いた。
「それで、あの人は家賃払ってくれそうかい?」
「いやあいつ、いなかったよ。逃げたみたい。その代わり、」
リツは彼のことを紹介した。
「この子がいたんだ。ほらこっちおいで。」
彼はリツの後ろに立っていた。
リツは彼の背中を押して、自分の横に立たせた。
ノボル爺が訊いた。
「リッちゃん、この子どうしたんだい。この子は一体…」
リツは知っていることを伝えた。
「わかんない。Aさんの部屋に居たんだ。記憶喪失なんだって。とりあえず服をどうにかしようと思って。」
彼はリツに連れられて、リツの部屋に向かった。
2
リツは自分の古着を彼にあてがうつもりだった。
部屋を探しても見つからなかったので、リツは服を探しに部屋を出て行った。
「ばあちゃーん、〇〇どこやったか知らなーい?」
彼はリツの部屋に取り残された。
彼はそわそわした。
彼が女子の部屋にお邪魔するのは、これが初めてだった。
彼の予想に反して、リツの部屋はかわいらしい。
数か所にぬいぐるみが飾ってある。
多くの家具にピンクや白が使われている。
カーペットが敷かれ、その脇から茶色く枯れた畳が顔を出している。
物は多いが、整理整頓され、部屋は小奇麗に保たれている。
白いワンピースを持って、リツが帰ってきた。
「おまたせ。これどう?」
それを着ることを想像して、彼は恥ずかしくなった。
「、、、」
「なんで?ダメ?」
彼はもじもじしていた。
「あの…それを着るのはちょっと恥ずかしいというか、似合わなそうというか」
リツは笑い出した。
「アッハッハ。そうなの?大丈夫、大丈夫。恥ずかしくないって。絶対似合うから。」
リツは彼に近づいてシャツの裾に触れた。
「シャツ脱がしてもいい?背中どうなってるか見せて。」
彼は断った。
「あ、いや、自分でぬぎます!」
シャツを不器用に脱いで、彼はリツに背中を向けた。
リツは彼の背中を観察した。
リツが触れると、羽は小さくびくっと揺れた。
「本物…あなたってやっぱり天使様なの?」
彼はやはり、何も覚えてない、わからない、と答えた。
リツは彼の背中を確認して、特別な仕立てが必要だと判断した。
仕立てはセツコ婆がやってくれた。
彼がそのワンピースを着てみると、ぴったりだった。
久々にまともな服を着て、彼は安堵した。
3
お昼時が迫っていた。
金取家の人々に昼食に誘われ、彼も共にすることにした。
食卓はやや雑然としていた。
壁沿いには背の高い棚やラックが置かれ、食器や調理器具、家電が所せましと並んでいる。お菓子の入ったレジ袋がいくつか、S字ハンガーを使って吊り下げられている。
中央にはテーブルと椅子が配置されている。
通路がやや狭い。
テーブルの上には調味料がたくさん置かれている。
配膳が始まると、テーブルの上はさらに手狭になっていく。
「いただきます。」
リツは彼に祖父母を紹介した。
「こっちがセツコばあちゃん、こっちがノボルじいちゃん。」
彼は立ち上がって、あいさつした。
「あの、さっきは服、ありがとうございました。ごはんまでいただいちゃって」
セツコ婆は言った。
「いいのよ。年寄りのあたしにゃ、あれくらいのことしかできないんだから。ちゃんと着れてよかった。しかしまあ、天使様ってのは本当にベッピンさんだねえ。」
リツは彼に訊いた。
「ところで天使ちゃん、どこか行くアテはあるの?」
(お、これはもしかして…?)
4
彼に生活のアテはない。
実家からの仕送りは途絶え、貯金も底を尽きている。
本来であれば働いて生活費を稼ぐ必要がある。
しかし彼は金取家に期待していた。
今日、彼は非常に愛らしい姿を手に入れた。
その容姿によって、彼は今着ている服を手に入れた。
生活のアテさえも獲得できるかもしれない。
彼は唾を飲み込んだ。
「あ、ありません。」
リツは続けた。
「何も覚えてないんでしょ?もしよかったら、思い出すまでこの家にいるのはどうかな?」
リツはノボル爺とセツコ婆の方を見た。
彼は念じた。
(頼む…!)
ノボル爺が反応した。
「そりゃ居候って事かい?どうだろうね、セッちゃん?」
セツコ婆が答えた。
「あたしゃいいと思うよ。行くアテがないなら、ほっとけないよ。」
「やった」
リツは隣に座っている彼に抱き着いた。
「よろしくね!天使ちゃん」
かくして彼は生活のアテを手に入れた。
それは彼が期待した以上に簡単だった。
彼は確信した。新しい人生は順風満帆だ。
彼は思わず笑みをこぼした。
2025/07/04
祝!書き直し元のストーリーにやっと追いつきました。