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【Night 6】絶体絶命




「あ、終わった……」

倒れ込む2人の前に現れた、無数の黒い影。目や口はなくても、こちらを見下ろしているということはわかった。

「……」

ヒカリは泣き出しそうな顔をしていた。こんなところで終わるとは。

「くっ……!」

するとナギは、咄嗟にヒカリを抱きしめた。

「今度こそ……!」

(こんどこそ……?)

ヒカリはナギの発言がよくわからなかった。しかし、そんなことを考えている場合ではない。

2人は死を覚悟した。

「………」

だが、不思議なことに、影は2人にそれ以上近づくことはなかった。そのかわり、興味をなくしたかのように目線を移し、多くの影は出て行き、一体だけが店の奥に消えた。

「あれ……?」

2人は呆気にとられていた。

「……なんで、たすかったの?」

「さあな。でも、命があるならいいとしようや」

2人は安心して、一気に肩の力が抜け、再び倒れ込んだ。

だが。

「!」

「どうしたの?」

「いやさ、あいつら、バックヤードの方に行ったよな……?」

ナギにこう言われ、ようやくヒカリも思い出した。

「テリカが危ないぞ……!」




「ふぁぁ……もう食べられませんよぉ……」

その頃、テリカは山のように積まれた商品を、同じく山のように積まれた包装紙のゴミの塊にそっくり変えてしまっていた。

「一気に食べたら、眠くなってきましたねぇ……ふぁぁ……」

テリカはそう呟き、ナギとの約束も忘れ、眠りにつこうとしていた。

その睡眠を阻害したのは、ドアが勢いよく開けられた音だった。

「……え? なに? なに?」

テリカは体を起こし、ドアの方に向かっていった。

「ナギさんですかぁ……? それともヒカリちゃん……?」

まだ眠気が残った声で、2人の名を挙げる。しかし、返事はない。

体にいうことを聞かせながら、テリカはなんとかドアの前まで来た。しかし、まぶたを開けることができない。眠すぎる。

「どっちかってことはわかってますよぉ……」

そう言って目を擦り、開いたその時。

見たことない黒いものが、目の前を覆っていた。

「えっ…どっ……」

テリカは急に体の倦怠感けんたいかんの除去を感じた。

そして、危機感の高揚も感じた。

「どちら様ですかぁぁぁっ!」

テリカは走った。奥へ、バックヤードのなるべく奥へ。

(確かバックヤードって、裏口ありましたよね……?)

奥にはすぐ着いた。裏口もあった。

しかし、開けることはできなかった。先程、テリカ自身がヒカリとナギの突然の来訪にびっくりして、バックヤードの商品棚をひっくり返してしまったのだ。

商品棚が前に倒れているドアは、当然開かない。そこらへんの物理法則が無視されてもし開いたとしても、倒れた棚が邪魔で、外に出ることができない。

にも関わらず、黒いものは近づいてきている。よく見ると、人間にそっくりだった。形だけは人間と変わりなく、まるで人間の塗り絵を黒く塗りつぶしたかのようだった。

「こ……こないで……ください……」 

その時、テリカは近くに倒れてあったモップを見つけた。

もはや考えている時間は無かった。

テリカはそのモップを拾い上げ、高々と振りかぶった。後ろの壁にモップの先端が当たり、ガツン、と音がした。目を力強く閉じた。

(………!)

そして、その黒いものめがけて、一気に振り下ろした。

しかし、空振った感触がした。

(外した……!) 

テリカはその場にへたり込んだ。

黒いものは、そんなテリカを覗き込むように、じっと見ていた。

(殺される……!)

汗と涙が、とめどなく溢れる。

もう逃げ場は無い。


その時。


「おい! 化け物! こっちだ!」

遠くから、男らしい女性の声が。

(……何で……!?)

ナギのものだった。声のした方に目をやると、ナギとヒカリがいた。

「そいつはオレたちの大事な仲間だ! 手を出すんじゃねぇっ!」

ナギは黒いものに向かって叫んでいた。だが黒いものは、お構いなしにテリカをじっと見つめている。

「あいつ……聞こえてねぇのか。なら……」

「無茶ですっ! ナギさん、素手じゃないですかぁっ!」

「うるせぇっ!」

そう叫ぶと、ナギは素手のまま、黒いものに突進してきた。

すると、黒いものはきびすを返し、裏口とは反対側、ナギとヒカリが入ってきた方の扉から、素早く出て行った。

「うおおっ!?」

ナギは勢い余って、テリカとぶつかった。痛かった。でも同時に、生きていることを実感できた。

後ろからヒカリもやって来た。

「だいじょうぶ?」

テリカは、何かを刺激された。

「う……うわああああ」

ヒカリとナギの2人に抱きつき、大声で泣き始めた。

「お、おい、痛い痛い」

ナギが悲鳴を上げた。

少し嬉しそうな、恥ずかしそうな、そんな声だった。




「ありがとうございますぅ……」

店内の陳列スペースに戻ってきた3人。テリカはまだ、何度もお礼を告げていた。

「もういいって、しつこいから」

(ナギさん、ちょっとうれしそう……)

ヒカリは子供ながら(全員子供だが)、そう感じ取っていた。

「しっかし……」

ナギは飲み物が置かれている棚の上、店のロゴがデザインされた時計を見た。時計の短針は「1」を指していた。

「もうこんな時間か……」

すると、ナギは2人の方を向き、こう言った。

「もう寝ないとな……」

「で、でも、さっきの黒いものが来たらどうするんですかぁ!?」

「そうだな……」

「もう……あんなものに……襲われるのは……」

そこまで言って、テリカは倒れ込んだ。いや、寝た。

「ねちゃった……」

「……はあ、こいつ……さっき襲われたばっかなのに、もう爆睡してやがる……しゃーねーヒカリ、寝るぞ」

そう言うと、ナギも床に寝転んだ。

「だいじょうぶなの……?」

「ああ。もしあの影が襲ってきたら、そん時はそん時だ」

そう言って、ナギも寝息を立て始めた。やけに大きかった。

そうして誰も起きている者がいなくなると、小さな小さな少女に、大きな大きな不安が押し寄せてきた。

「うっ……うっ……」

小さな小さな少女は、小さな声ですすり泣き始めた。本当は、大きな声で泣きたかった。好きに泣きたかった。

正直に言うと、テリカだけでなく、いや、テリカよりも、ナギの方が怖かった。

でも、言えなかった。ナギの顔を見ていると、言えなくなった。

「……どうしよう……」

すると、ガラス張りのドアの向こう側に、黒い影が見えた。

「…………」

そこで、ヒカリの意識も途切れた。

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