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【Night 49】我が家(前編)




人類とは、実に憐れな生物だ。

ヒカリの父親の影は、目の前で繰り広げられる合計を俯瞰ふかんに眺めながら、そう思った。

先程まで〈ゲッタ〉が戦っていたビルから、大勢の人間がぞろぞろと出てきた。

「……何だったんだ……?」

「急に黒い空間に閉じ込められて……」

たいていの者は、自身に何が起こったのかをよく理解できていなかったようだ。

しかし、1人だけ、理解能力が別格な者がいた。

「みんな落ち着け! これはおそらくあの影がやったんだろう。それで自分達は、今まで閉じ込められていた……」

皆にそう言い聞かせるように言った後、武者野は1人、小さく呟いた。

「……閉じ込められているとき……ヨウタ君の声が聞こえたような……」

そう。彼の耳には確かに、ヨウタの声が聞こえていた。いきなり黒い壁に取り囲まれた空間に瞬時に移動させられ、戸惑っている時に、「……何だろう……」という声を聞いていた。

「細川さん……ヨウタ君……どこに行ったんだ……」

『……行きなさい』

父親の影は、いつの間にか周りに群がっていた影たちに合図を送る。いずれも、武者野たちにそっくりな影だ。捕囚する能力がある。

合図を聞いた影たちは、蜜を見つけた虫のように武者野たちに向かっていった。

「!!」

武者野が驚く間に、周りの人間たちは影と同化してしまった。

「……ありえない」

そこでようやく、武者野はヒカリの父親の影を見つけた。その表情は驚きから、即座に嫌悪へと変化した。

「お前が……首謀者なのか?」

武者野は影をまっすぐ見て話した。しかし、ヒカリの父親の影は答えない。

「……何が目的なんだ?」

『君が知る必要は無い』

影は冷酷に言う。人間には一切容赦しない、と言わんばかりに。

「……お前たちがどうしようとも……我々は最後まで諦めない……」

『″我々″? ″私″の間違いだろう?』

影は揶揄からかうように武者野に言い放つ。その武者野は痛いところを突かれたような苦い顔になる。

『……憐れな物だ。人間は群れないと何も出来ない。群れて初めて誰かを傷付けることが良い所だ。そして其れ等を全てうしなっても、合理的な判断をようとずに、僅かな希望にすがる。見ていて非常に憐れだ』

武者野は理解できなかった。なぜこの影は、こんなことを言っているのか。こんなことを自分に言って、何のためになるのか。

そんなことを考えている刹那せつな、影もまた、何かを思い出していた。

それは、彼と、″人間の方の彼″の記憶だった。




───お前の親父、真っ黒じゃねえか!

───お前黒くないのかよ?

───この皮の下に実は黒い皮があるんじゃねえの?

少年は、学びを共にする者から虐げられていた。その数5人前後。しかし少年にとってはもっと多く感じられた。

彼の父親は肌が異様なほど黒かった。というのも、父親は朝早くからどこかに出かけ、日差しが照りつける中でスコップやらドリルやらを地面に突き刺し、いつも黒人と見間違えるほどの黒い肌のまま帰ってきていた。

そのおかげで、彼の父親の黒い肌を知ったクラスメイトたちは、早速彼を気味悪がり、やがていじめ始めた。もちろん、助け船を出す者はいない。皆が彼を″自分たちと違う何か″と捉えており、同情することはなかった。

それは担任、親でさえもそうだった。彼の話をいかにも親身になって聞き、わかった、それは辛かったね、手を打つよと言っても、何も変わらない。ただクラスの奴らに罵声を浴びせられ、机にゴミを置かれる日々が続いたままだった。ここで彼は理解した。担任は出世、親は安寧にしか興味がないのだと。自身に関係ない事など、彼らにとってはどうでもいいのだ。

この頃から、彼の人間に対する失望が芽生え始めた。

その影響からか、彼は妄想へと逃げ始めた。ある日、1人で寂しく下校していると、彼の前には背後の夕日の影響で、彼の足下から近くの家の壁まで伸びた影が映った。

彼はこの光景に何とも言えない好奇心を持ち、妄想を広げていった。あの影が突然、シールを剥がすように地面から立ちあがること。自分と話し、この境遇を共有すること。そして、そんな事も忘れ、2人で息が切れるまで遊び尽くすこと。どれも、彼の生活を陰鬱な物から立ちあがらせるのには十分だった。

しかし、人にはこれは話せない。話したところで、馬鹿らしいと一蹴されるだけだ。むしろ、今の自分よりもさらに酷な境遇に落とされるかもしれない。

ならば、創作物ならどうだろうか。

彼にとっては、この発想はいい加減な物だったのかもしれない。大人には「夢物語」で片づけられるだろう。だが、児童ならどうだろうか。自分に共感してくれる者も、現れるだろうか。

少年はいつの日か、絵本作家を志していた。




その頃、私は人間たちの下で、ひっそりと住まいを確立していた。嫁も見つけ、子を授かった。

そんな時だった。

自分達に″共同体″がいることを知ったのは───。

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