表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/55

【Night 47】ナギ(後編)




その小さな女の子の名前は、ヒカリといった。どうやら親に黙って外に抜け出したら、帰れなくなったようだ。やはり、異変が起きているのは、自分だけではないらしかった。

「え? ひと……?」

ヒカリは戸惑っていた。自分のことをあの「何か」だと思っていたのだろうか。

「おいおい、いきなり何すんだよ」

ナギは余裕ぶってみせた。自分が途端にダサく思えてきた。最低な奴だと感じた。

気がつけば、ナギは乾いた笑い声を出していた。自分の経験に比べればヒカリのことなどまだましに思えたのか、それとも自分のことを嘲笑ちょうしょうしていたのかはわからなかった。

そして、ナギは遠くの方を見た。正確には、地平線間際にあった2つの星を見ていた。その2つだけが、他の星から離れて孤立している。ナギにはその2つが、とある2人の人物に見えた。

……シュンタ。エンリ。オレはどうすればいい?

答えは帰ってくるはずもなかった。帰ってきたら苦労しなかった。ナギはそれに対して、どういうわけかいらついた。

だから、最初は、この幼女に現実という物を思い知らせてやろうと思っていた。帰りたいと願うこの子に、無理だとはっきり言う。そうして自分と同じように、絶望のどん底に落としてやろう、と。ヒカリという名前も、覚えておくつもりはなかった。

今思えば最低なことをしていた。いい年した高校生が、幼稚園児に言い放つことではなかったと後悔している。シュンタが好きだったプラレールの話題まで持ち出してする話ではなかったと感じている。

そうしてナギはその場を離れようとし、エンジンをふかした。これでいい。これでいいんだ、と。必死に自分に言い聞かせていた。

その後、予想外のことが起こるまでは。

「ううっ……うわあああ」

猛烈に音を立てるエンジン音を通り越して、ヒカリの泣き声が聞こえてきたのだ。

無視するのは簡単だった。ただそのまま、足を踏み込むだけでよかった。そうすれば、ヒカリの元からは離れられた。

だが。

ナギの頭にはまたしても、あの声がまとわり付いていた。

───待って! ナギ、行かないで……!

「………」


自分はここでも、無視するのか?

自分はここでも、保身のために逃げるのか?


ナギはゆっくりと振り返る。目線の先には、泣き顔でこちらを見ているヒカリが映る。

「……はぁ」

ナギは大きくため息をついた。

「わかった、わかった。来ていい。来ていいから泣くな」

結局、ナギは彼女を仲間に迎えることに決めた。逃げるのではなく、ちゃんと、守るべき対象として。もしかすると、ナギ自身が望んでいたことなのかもしれない。もしかすると、リベンジの機会を求めていたのかもしれない。

シュンタ、エンリ。オレはもう逃げられないっぽいな。この運命からは───。




テリカという人物にも出会った。エンリのような優しい目をしながら、それでいてどこか執着心の強い雰囲気を出している少女だった。

その少女の喋り方は独特だった。敬語を常に使用して、なおかつその語尾も特徴的だった。どこか抜けているというか、ぼんやりしているというか、何と言えばいいのかわからなかった。

ただ、ナギはその平和ボケしたような口調が気に食わなかった。こんな状況でのんびりしているとは。自分の境遇も知らないで。

ナギはそのことを、少女に言った。すると、鋭いことに、その少女もナギの口調を指摘した。

ナギは憤慨した。ショウタを馬鹿にされたような気がした。今すぐ発言を撤回させたいと思った。

でも。

───それでも、間違った選択をしないように…。

間違った選択をしないように、正しい判断を下さないといけない。もう二度と、間違った選択をしないように。

テリカが襲われていた時に影に向かっていった。

ヨウタの影が2人を追い詰めていた時にも突進した。

自分が、後悔しないために。

自分が、納得するために。

───今度は、オレのターンだ。

───行くぞ! ついてこい!

無理して立ち向かって。

───ナギさん?

───あ、すまん。

困ったときは人に訊いて。

そんなことばかり繰り返していた。

テリカ。

オレもお前と同じだった。

お前と同じように、本来の自分の喋り方じゃなかったんだよ。

ヨウタ。

オレもお前と同じだった。

お前と同じように、大切な人を目の前で失っているんだよ。

ヒカリ。

オレもお前と同じだった。

お前と同じように、帰りたかったんだ。

あの平和な日常へ。

……ただ、オレがお前らと違うところが1個だけある。決定的すぎる1個が。

それは、お前らがそれを克服できているけど、オレはずっと引きずったままでいることだ───。




「……そして、今の今に至るってわけね」

エンリは地に手をつくナギを見下すように言った。地面ばかり見ていたナギは、2人がどんな目をしているのかわからなかった。

「罪滅ぼしのつもりだったのかな?」

足音が聞こえる。一歩一歩が地面を抉っているようだった。

やがて、その足音はナギのすぐ前で止まった。

すると、次の瞬間。

「!?」

ナギの髪が、上にぐっと引っ張られた。ものすごい力だ。何かクレーンのようなもので引っ張られているのではと感じるほどだった。

俯いていたはずのナギの頭は上に上がり、前を向いた。エンリと目が合った。腕の様子を見るに、エンリがナギの頭を引っ張り上げたようだ。

「でも結局、誰も守れてないじゃん」

心臓に穴を開けられたような気がした。呼吸ができない。ただ目を見開き、震えることしかできない。

「自覚してよ。あんたには人を守る力なんてないんだよ」

大人しげなエンリの口から出たとは信じられないほど、冷たく鋭い言葉だった。その言葉のナイフが、ナギに追い打ちをかける。ナギはもう自力では立っていられなく

「じゃあ、大人しく影の身体の中で過ごしてなよ。そうすれば、誰も傷つかなくてすむから」

ナギの頭から力が抜ける。それと同時に、ナギは地面にへたり込んだ。

「……!」

だがすぐに、意識を取り戻すかのように、ナギは顔を上げた。

「待っ……!」

だがそこには、何もなかった。エンリも、ショウタも、移り変わっていた景色も。

ただあるのは、暗闇のみ。墨汁の中に、自分だけが浮かんでいるようだった。

「……!」

ナギは立ち上がり、走ろうとした。2人を見つけ出すためだ。

その時だった。

ナギの身体が痺れた。

(っ!……なんで……?)

何かを口に出そうと思った。しかし、口が動かない。身体も言うことを聞かない。糸が切れたように、自分の身体が倒れていく。

(嘘だ……ここで……終わるなんて……)

やがて視界が途切れ、何も感じなくなった。

ナギはいよいよ自分の終末を自覚し、そして……諦めた。

───自覚してよ。あんたには人を守る力なんてないんだよ。

ついさっき言われた、エンリの言葉。

でも……確かにそうかもしれない、と一瞬だけ思考してから、ナギの意識は完全に失われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ