表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/55

【Night 41】ビル




一方その頃、ビルの外では。

「そろそろ、疲れてきたかも、しれません……」

「ったく体力ねーな、お前」

2人が延々と足を進めていた。

彼女らは、もう自身がいったいどこにいるのかわからなくなっていた。先程まで田園風景が広がっていたかと思うと、次の瞬間には都市群に変貌している。その目まぐるしさと、ここ数日ずっと歩いてきたのもあって、疲労がかなり蓄積していた。

「ちょっと……休憩しません?」

「だめだ」

「なんで、です、かぁー」

テリカは息を切らしながら、途切れ途切れに言った。

「お前、ヒカリが心配じゃねーのか?」

「そりゃ心配ですよ、でも……はぁ、はぁ、私たちがこうやって移動してて、弱ったところを後ろから、なんてされたら、ど、どうするんですかぁ?」

「……」

途端にナギは何も言い返せなくなった。確かにその通りだと思ったからだ。

これをみて勝機だと思ったのか、テリカは一気にまくし立てる。

「休みましょうよー。ナギさんだってもうヘトヘトですよね? そんなんで影と戦えるんですかぁ?」

「うるせえ」

「えっ?」

テリカは驚いた。しかし、驚いたのはナギに怒られたからではない。

いつもより、静かな声だったからだ。

「オレは……もう、負けるわけには……失うわけには……」

1人呟くナギを見て、テリカは大いに困惑した。その一瞬だけ、疲れも忘れた。

「……負ける? 失う? どういうことですかぁ?」

テリカが訊く。するとナギはテリカをまじまじと見つめるような表情をしたあと、彼女から目をそらした。

「……忘れてくれ」

テリカはそれ以上詮索できなかった。

その代わりに、ふと思ったことを言った。

「ヒカリちゃん……無事だといいですねぇ……」

すると、その言葉に反応するように、ナギが口を開いた。

「無事じゃなきゃダメだ」

「ですね」

これはテリカも同じだった。ヒカリは無事でなければならない。もし何かあったら、信じて残ってくれたヨウタに申し訳が立たない。

そしてまた歩みを進めた。テリカの疲れはいつの間にか消えていた。

夜空を見てみる。ずっと気がつかなかったが、幾多の星々が点々と彼女たちを照らしていた。なぜなのかはわからないが、自分は応援されている、と感じた。

すると。

「あ、あれ、私たちがいたビルに似てませんか? もしかしたら戻ってきたとか?」

テリカが指差す先には、自分たちがいたビルと同じ赤茶色をしたビルがあった。戻ってきたと安堵しているテリカとは裏腹に、得体の知れない寒気が、ナギの後ろを走った。

「……どこだ? どこで道を間違えた?」

ヒカリに会いたいナギにとっては、戻ってくることは時間の無駄に等しかった。ここにヒカリがいないことは確定している。今更戻ったってしょうがない。

「……行くぞ」

ナギはテリカの背中、コートの布を引っ張った。えっ、とたじろぐテリカだったが、仕方なくついていくことを決めた。

その時。

「……ナギさん」

「何だ」

「……あれ」

「だから何だよっ……」

テリカは震える手で、どこかを指差した。

ナギが振り返って見てみると、テリカがビルを指差していることがわかった。そしてそこには、信じられない光景が見えた。

「……は?」

「窓から……何か出てますよ……」

窓から出てきている黒い木の枝のようなもの? が、窓に覆い被さるように絡まっていた。かと思うと、それは瞬く間に窓から活動範囲を伸ばし、ビルを包み込もうとする勢いで広がっていく。

「……どうする?」

ナギはテリカにたずねた。

「……ナギさんが決めてくださいよ」

そう返された。

ナギは悩みに悩んだ。自分は今、ヒカリを探している。だから、こんな場所に時間を費やしている暇なんてない。

しかし、第六感が言っている。自分はここに行かなければいけない、と。

「ナギさん! ビルの入口が!」

テリカが叫ぶ。見ると、あの黒い木の枝が、根を張るようにビルを浸食していっていた。そして、その手はドアに伸びようとしていた。

(もう考えている時間はない……!)

「行くぞ」

「えっ?」

「行くぞ! ついてこい!」

「ええっ!?」

まずナギが、そして追うようにテリカがビルを目指して走る。

ドアが半分、黒で埋まる。ナギは必死に足を動かす。力があまり入らない。動け。動け。あと少しだ。あと少し、手を伸ばせば届く。

目の前に入口が迫った頃、ナギはヘッドスライディングをかました。ドアはガラス張りだった。取っ手を掴んでも、おそらくドアは開かない。

何かを察したのか、テリカが叫んだ。

「ナギさん、危ないですよぉ!」

「オレは既に肩を怪我してる。もうちょい怪我してもどうってことねぇ!」

その言葉と、ドアのガラスが砕け散ったのはほぼ同時だった。

「……てて」

ナギは身を起こした。ただでさえ暗かった周囲が、さらに闇で包まれたような気がした。

「テリカ! いるか!」

「ここですぅ……」

すると足下から弱々しい声が聞こえてきた。

「何も見えねぇ……しくじったか?」

ビルの中は、深淵からさらに深淵に潜ったような暗さだった。暗闇に慣れていた目でも、何も見えなかった。

ナギはくちびるを噛んだ。こんな危険を冒してまで、ここに来たんだ。何もなかったら意味がない。それに、出口を塞がれた。もう戻ろうにも戻れないのだ。

すると。

「ナギさん、これ使ってください」

いきなり、目の前に丸い光が照らされた。光の円の中には、ナギの姿を形どった影ができていた。

「スマホの光です。これで前に進みましょう」

「……サンキュー、テリカ」

ナギが少し沈んだ声で言ったその時。

『えー、光源あったんだー』

どこからか、声が聞こえてきた。

『〈ナク〉、ひかり、あったところで、わたしたちの、あいてじゃない』

2種類あった。1人はごく普通の女子の声、そしてもう1人は、少し刺激してしまえば壊れてしまいそうな声だった。

そして。

スマホの光で浮き上がっていたナギの影が、少しずつ浮かび上がっていた。シールを台紙から剥がすように、ゆっくりと、ゆっくりと。

『やっぱり来てくれると思ったよ』

そして、その影は、完全に自立し、白い目が刻まれた。

『ナギちゃん』

「ナギ……さんの…、影……」

テリカは思わず震えた。そして、その影響で、スマホを落とした。

「あっ……」

テリカは拾い上げようとした。

すると。

「……ナギさん……?」

驚くべきことに、ナギはテリカ以上に震えていた。怒りともとれるし、不安とも恐怖ともとれた。顔が見えなかったので、なんとも言えなかった。

「てめぇ……なんでそんな喋り方してやがる!」

聞いたことのない声だった。

いや、よく聞いたらナギのものだったが、あまりにも低すぎた。

『えー、怒っちゃった? サプライズのつもりだったんだけどなー』

テリカは混乱した。この喋り方をしているのが、ナギの影? なんで、こんなに差がある?

しかし影は続けた。

『あ、ナギちゃん、全然気にすることないよ! 人は本来の正確のままで良いんだからね!』

本来の性格……?

震えるナギをよそに、テリカはただ呆然とするしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ