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【Night 40】託す希望




おもむろに後ろを振り返ってみる。目に見えているのは、呆れるほど高い木々と、長らく人の整備がされていないであるう、獣に踏み荒らされた獣道だった。自分達が今足を置いている都市の道に、ああいった獣道が繋がっていることが少し滑稽だった。

「……会えるんですかぁ?」

不安そうに訊いてきたのはテリカだ。頭に巻いていた包帯はいつの間にか、ほとんどが落ちてしまっている。コート以外は、有事前のテリカに戻っていた。

「……さあな」

素っ気ない返事を返したのは、ナギだった。白い息を吐き、ひたすらに進んで、テリカを先導している。呼吸は速い。

「……でも、そう信じて行くしかねえよ」

そう言ってナギは、変わらず前身を続ける。

すると。

「……ナギさん」

「あ?」

「……ヨウタさん、大丈夫ですかねぇ……?」

テリカが心配そうにそう告げた。

するとナギは、急に歩みを止めた。あまりにも急だったので、ついていっていたテリカがナギの背中にぶつかりそうになった。

「ちょっ、ナギさん……?」

ナギはしばらくどこか遠くを見ていたかと思うと、やがてこう言った。

「あいつは大丈夫さ。護ろうという思いが強いからな」




「ゲームって何だよ!」

「どういうことだ……?」

うるさい。後ろがうるさくて集中できない。きっとそうだ。そのせいに違いない。

ヨウタは混乱する頭をなんとか正常に戻そうとしていた。落ち着け。落ち着け。あれは影だ。自分の弟や妹ではない。あれは、人類の敵なのだ。

『……どうしたの、ヨウタ兄?』

すると、トウマの影がささやきかけた。

『今日は一しょにやってくれるよね?』


───今日はいっしょにやってくれるよね!? 「サバイバーコネクト」!


「……くっそ……!」

ヨウタは拳を握りしめた。掌に爪が食い込んで痛い。震える。寒い。熱い。

言葉が何度も、頭の中を跳ね回る。そのたびに、触発されたかのように記憶の断片が飛び散る。母親の顔、画面内のキャラクター、立ち尽くす影……。

「ヨウタ君、大丈夫かい?」

すると、後ろから細川が声をかけてきた。しかし、聞こえていない。

すると、細川はヨウタの肩を思い切り叩いた。

「しっかりするんだ。君にも目的はあるんだろう? あの影が何なのかだって、まだわかってないじゃないか。それに、あの影に為す術なく敗北した人たちに今報えるのは、君しかいない」

もうすぐ40歳になる人の声とは思えないくらい、力強く、決意のこもった声だった。

「だから、ヨウタ君……」

「……ありがとうございます」

すると、ようやくヨウタが冷静さを取り戻したようで、細川の方を向いて、少し笑ってみせた。細川も、それに答えるように笑った。

そして今度は影の方を向き、力強く言い放った。

「……よし、そのゲーム、のった。だけど条件がある」

『何かな~?』

「……もし僕たちが勝ったら、今まで影が捕らえてきた人類全員とまでは言わないから、ここにいる僕たちの近親者全員を解放しろ」

『……かいほう? しんだのに?』

『……いや、多分ヨウタ兄は気づいてるよ』

マリの影に何かを伝えた後、トウマの影はこちらを向いて、言う。

『……いいよ。うらみっこなしだからね』

そして、遅れてマリの影が宣言した。

『じゃ、スタート!』

そして、2人はどこかに言ってしまった。

「何だったんだ……」

「どうすればいいんだ?」

それに少し遅れて、後ろの人たちが次々と口を開き始める。

ヨウタは息を大きく吸った後、後ろを振り向いた。大人がたくさんいる。普段なら、こんな場面はまずないだろう。

そして、吸った息を勢いよく吐き出すように、叫んだ。

「……アダプターはおそらく、赤いランプのような形をしています。そして、そのランプの下にスイッチはついているはずです。なので、各階10人ずつで探してきてください」

すると、先程まで口々に喋っていた大人達は、少しずつその音量を小さくし、階段への扉へと向かっていった。

細川もその1人だった。しかし、彼は思い出したかのようにヨウタに近づいてきた。

「ヨウタ君」

「……何ですか」

「何でアダプターの形状がわかったんだい?」

「……僕がやっていたゲームのアダプターの特徴を言ったんです。実はあの影は、僕の弟と妹の影で、あの影に取り込まれるまではそのゲームを一緒にプレイしていました」

「なるほど、だからか」

細川は納得したかのように頷き、そして言った。どこか哀れむような声だった。

「さて、ヨウタ君。僕たちも探すよ」

「……はい」

2人は、ドアに向かっていった。




「なかなか見つからないね」

4階。先程までヨウタ達がいた場所。細川の懐中電灯で照らしてみると、思ったよりも物が散乱していた。脚の折れた机や、元々何だったのかわからない鉄くず。さっき来たときによく足をぶつけなかったな、と思った。

「僕はこの瓦礫の中を探してみる。君は奥の方を見てきて」

細川はヨウタに言った。結局あんたが指示してるじゃないか、と思いつつも、ヨウタは従った。

このビルは5階建てでありながら意外と広く、奥まで行くと細川の懐中電灯の光がかなり小さく見えた。おそらく細川もヨウタのことが見えていないであろう。ヨウタは光源を持っていなかったから、なおさらだ。

懐中電灯といえば、とヨウタは考えた。

ヒカリは大丈夫だろうか。いや、ヒカリだけでなく、ナギとテリカも。まさか、ヒカリはもう影に捕まってしまってはないだろうか。そうであれば、もう絶望的だ───。

そんなことを考えているうちに、ヨウタの体は何か硬い物にぶつかった。壁に辿り着いてしまったか、と思って前を見る。

……何だこれは? 元からこうなのか? いやいや、いくらなんでもそれはない。

ヨウタの目の前には、確かに壁があった。それは間違いなかった。

しかし、その壁は、影のように真っ黒だった。

「……何だろう……」

ヨウタはその壁に、得体の知れないおののきを感じた。これに近づいてはいけない、と本能が示していた。

すると。

「おーい、ヨウタ君、こっちに来てくれー」

タイミングのいいことに、細川が呼んできた。ヨウタは迷わず向かった。

行ってみると、そこには興奮気味の表情をした細川が。そして彼の手に赤いアダプターがあった。ランプがついている。

「君の言った通りだ。赤くて、下にスイッチがついている。お手柄だぞ」

それを聞いて、ヨウタは思わずニヤけてしまった。まさかこんな大人から褒めてもらえるとは。

しかし、その余裕はすぐに消える。

「よし、次だ」

細川が立ち上がったその時。

向こうの方で、突如、ガタン、という音がした。見てみると、ドアが開き、少し背の高い女性が息を切らしていた。

「細川さん! ようやくいた……!」

「どうした!?」

細川は先程の余裕がまるで夢だったかのように叫んだ。

「大変です! 1階から2階にかけて、影がうじゃうじゃいます! 私以外の全員……取り込まれました……!」

2人の表情が急変する。

「アダプターはまだ、1階に1つ残っています……多分……」

女性の声がみるみる弱まっていく。

すると、細川は女性の元まで駆け寄った。

「……2人で行こう」

「え?」

「2人なら、どちらかがおとりになっている間に、起動できる。大丈夫だ。囮は僕がやる」

「でも……!」

「なに、こんな年寄りが生きててもしょうがないさ。それに、勝ったらみんな元に戻れるんだから」

そして、今度はゆっくりとヨウタの元に歩いてきた。

「……細川さん?」

ヨウタは何やら嫌な予感がした。

「……ヨウタ君。どうやら、ここで一旦お別れのようだ」

頭を強く打ったのかと勘違いした。

パニックになった自分を落ちつかせたのは細川。ヨウタが指示できるようにさせたのも、細川。

そして、頼れる仲間達の元に辿り着けたのも、細川にビルの1階で会ったからだった。

ヨウタには、ここから1人でできる自信はなかった。

「……なんで、ですか」

「勝つためだ」

即答。

「……僕が行きますよ」

「いや、君は残ってくれ」

即答。

「……どうしてもですか?」

「どうしてもだ」

即答。

「………」

ヨウタは、頭の中の境界がぼやけていくのを感じた。

理性と感情の境界が。

「…何でなんですか!? 細川さんは武者野さんに負けない統率力と人望がある! だったら残るべきです! どうして……どうしてそんな、自分から行くんですか!? こんなすぐに、すぐに終わるなんて……ありえないですよ!?」

本音を言えなかった。

言い終わると、その本音も薄れて、頭の中で消えてしまった。

すると、細川はヨウタにさらに近づいて、肩に手を置いた。体温が伝わってきた。

「君には、あの3人がいるだろう?」

はっとした。言い返す言葉はいくらでもあったはずだった。しかし、口に出すことができなかった。

「君たちになら、あの影との戦いを任せられる。君たちなら、人類を勝利に導いてくれる。君たちなら、僕たちの希望を託せられる」

一言一言が力強かった。遠くの方にいた女性も、うんうんと頷いている。

「そういうことだ。君たちは脇役じゃない。影に勝ったという歴史に名を刻む主人公であるべきなんだ」

「……細川さん……」

「僕には脇役がちょうどいいんだよ」

そして、ヨウタが再び顔を上げたのを確認すると、細川はにっこりと笑った。そしてきびすを返し、女性と一緒にドアの向こうに消えた。

あとはただ、戦闘中とは思えない静寂が広がるだけだった。

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