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【Night 39】似た者どうし




「……は?」

ナギは状況が理解できなかった。

自分が落ち込んでいる間、いつの間にかヒカリが窓から飛び降りていた。

それも、4階から。

「……っ!」

ナギは即座に窓に走り、身を乗り出して下を見る。幸か不幸か、その下には何の姿もなかった。

「くっそ……!」

「また、ですか……」

すると、テリカの声が聞こえてきた。

「……ようやく……ようやく会えたと思ったのに……」

ヨウタからも、悔しさがにじみ出ていた。

すると。

「追うぞ」

ナギはテリカの肩に手を置き、後ろから告げた。

「……ナギさん」

「まだそんなに遠くに行ってないはずだ」

ナギは、既に決意を固めているようだった。テリカとヨウタがナギの表情を凝視する。先程の落ち込みは消え、目には光が宿っている。

完全復活した、と言いたいところだが……ヨウタは、あることに気がついていた。

「……ナギ……震えてるぞ……」

テリカの肩に乗っているその手が、小刻みに震えていた。

それと、口には出していないが、顔がどこか自身のないようなものになっていた。怯えている、という表現が正しいのだろうか。わからないし、そんなことを考えている暇はないが。

そして、これをヨウタは見たことがあった。

テリカとの戦いの前、そしてヒカリと再会する前、ショッピングモールを出た際に見た顔だった。

「……ナギ……あまり無茶は……」

ヨウタがナギの身を案じて言った瞬間、ナギは凄い目でヨウタを睨んだ。

「は? お前、あいつが心配じゃねーのかよ」

「いや、そんなことは……でも……」

「でも、何だよ?」

「……でも……ナギにまで何かあったら……」

するとナギは、ヨウタをまっすぐ見てこう言った。

「お前はすげえよ」

「……え?」

「いつも客観的に物事を見て、今いる仲間を1人でも護ろうとする。お前だって、弟と妹を失って、それどころじゃないのにな」

「……」

少し下にうつむき、つぶやくナギ。

「……オレだってそうだ。オレだってそうなのに、なんで……」

そしてナギは、ヨウタをもう一度まっすぐ見た。

「なあ、ヨウタ……オレたちって、似た者どうしだったんだな……」

「似た者どうし……? どういうことですか……?」

意外にも食いついたのは、話題に直接関係ないはずのテリカだった。

しかし、ナギは答えなかった。

代わりに、ヨウタに言った。

「オレとテリカはヒカリを捜しに外に出る。お前はここに残って、あの議員と行動しろ」

「わ、私もですか?」

「……え?」

「あいつらはまだあの影の恐ろしさをわかってない……そんな気がする。頼んだぞ」

「……わかった」

そうでもないだろう、と言いたかったが、今はナギの言うことを聞くことにした。

「じゃあ、またどっかで会おうぜ」

「ヨウタさん、ご無事で!」

「……うん」

こうして3人は、別行動を取り始めた。

心臓が、激しく波打っていた。




「ん……」

頭が痛む。上手く呼吸ができている自覚がない。今自分はどちらを向いているのか、それすらもわからない。

ヒカリは倒れ込んでいたその体を、ゆっくりと起こし始めた。地面に足をつけて立っているという自覚はある。ただ、あたり一面が真っ黒で、まるで延々と続く深淵の中にいるようだった。

『おきた?』

すると、どこからか声が聞こえてきた。

「!」

この声は。

この自分にそっくりな声は。

「〈クラヤミ〉……ちゃん……?」

『よかった』

すると、ヒカリの前に、白い目が浮かび上がってきた。黒い空間の壁から人間の形が形成されるようにも感じた。彼女の体は黒いのに、その輪郭がはっきりと見えた。

『名まえ、おぼえててくれたんだ』

するといきなり、ヒカリはクラヤミとは反対方向に走りだした。そして、何かにぶつかる。ヒカリは、その何かを必死に叩き始めた。

「だれかっ、だれか……」

『むだだよ。ここはふつうののたてもののへやに、わたしたちの世かいの″ぶっしつ″でさらに作ったへや。この″ぶっしつ″はかたくてこわせない』

それを聞いて、ヒカリは壁を叩くのを諦めてしまった。

そのかわり、壁に手を当てて、言った。

「なんで……なんでヒカリを、つれてきたの?」

………。

…………。

……………。

答えない。

『……おわらせないと、いけないから』

と思ったら、答えた。

ヒカリは壁から手を離し、振り向き、クラヤミの元まで走った。足に何かがまとわりつく。そのせいで転びそうになった。

「おわらせるって……ナギさんは? テリカさんは? ヨウタさんは?」

『……………みんな………かげにのみこまれないといけない……』

クラヤミはヒカリにそう告げた。間がもどかしくもあり、かと思えばそうでもなく、もどかしかった。

「………」

ヒカリはひどく落ち込んだ。

そんなヒカリを見てか、クラヤミは取り直すようにこう言った。

『……じゃあ、こうしよう。みんながわたしたちのかげにかてたら、だいじょうぶだよ』

「……」

『……さあ、みてみよう。どちらがかつのか……』




「どうしたんだい、ヨウタ君?」

細川が心配してくる。しかしヨウタは、ヒカリのことがどうしても気にかかっていた。

ナギとテリカが行っても、もう会えないだろう。普通に考えたらそうだ。でも、テリカとの戦いの前には会えた。それは偶然なのか、それとも……。

「約束通り、2グループに分かれたよ」

細川の声がもう一度耳に入り、ヨウタはようやく冷静になった。

そう。実際のところ、ヨウタは武者野を信頼している。あれだけの人気があれば、統率力は抜群だろう。だから、武者野グループと細川グループに集団を分け、ヨウタ自身は細川グループについた。細川の補佐をする予定だったが、一度影と戦っているヨウタの方が指揮が向いているだろうということで、急遽リーダーとなったのだ。自分は補佐が1番しっくりくるんだよ、という細川の言葉は、どこか印象に残るものがあった。

「……ありがとうございます」

「どうしたんだい? 何か気にかかることでも……?」

「いや、何でもないんです」

ヨウタは細川にそう言い、また考え込んだ。

細川には、ヒカリの失踪は伝えていない。メンバーの不安を煽らないためだ。

多くの人命を優先するならば、細川グループの行動を第一にすべきだ。でも、自分たち───特にヒカリ───はどうやらこの異変に適応する力を持っているらしい。

そう考えたら、自分たちを優先すべきなのか? 細川グループは……捨てるべきなのか?

そう考えた時だった。


窓の外を見ろ


「!!」

突如、頭の中に声が響いた。これが……「虫の知らせ」というやつだろうか。

とにかく、ヨウタは窓の外に身を乗り出した。

「どうした?」

「一体何が?」

それを見た他のメンバーも、ヨウタの周りに寄ってきた。窓の外を見ながら、来るな、と思っていた。

だがその思案は、すぐに吹っ飛んだ。


『久しぶりだね』

『ヨウタ兄、げん気?』


え……?

嘘だ……嘘だ……。

「トウマ……マリ……なんで……」

ヨウタの眼前には、かつての弟と妹がいた。

「うわっ!?」

「あれが影か……」

後ろの人たちにも見えるらしく、各々が驚いている。

『今からみんなにはぼくたち影の中に入ってもらいま~す!』

トウマの影が元気よく言う。しかし、ヨウタには気にかかっていることがあった。

(何で……2人とも、喋れるんだ?)

前会ったときは、〈ゲッタ〉と名乗る自分の影しか喋れなかったはず。

でも今は、2人の影は饒舌じょうぜつに喋っている。

(くそ……トウマとマリを取り込んだからか?)

『でもそれじゃ面白くないので……ゲームをしましょう!』

「ゲーム?」

「ふざけてるのか?」

後ろから野次が飛んでくる。だがヨウタにはほとんど聞こえていなかった。

そして、ヨウタはもう一度驚かされることになる。

『このビルの中に、各階10こずつ、合計50このアダプターを隠しました! わたしたちの影がみんなを取り込む前に全部き動できたらみんなの勝ち! 逆に、それまでにみんなを取り込むことができたら、わたしたちの勝ち!』

「意味がわからない!」

「何なんだよ……」

「何なんだろう、このゲームって……って、ヨウタ君?」

細川はヨウタの方を向いた。

ヨウタは正常を保っているはずだった。そのつもりだった。でも、細川の様子を見る限り、自分にはもう現れてしまっているようだ。

「どうして震えてるの……?」

細川の心配そうな声は、ヨウタには届かなかった。

「……これ……『サバイバーコネクト』だ……」

サバイバーコネクト。

影に出くわす直前まで、ヨウタとトウマ、マリがプレイしていたゲーム。

でも、今の相手は、あの2人じゃない。

トウマであって、トウマでない。

マリであって、マリでない。

そして、自分であって、自分でない。

そんな感覚がした。

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