【Night 36】解錠
暗闇に包まれた、1つの廃ビル。
廃れ、さびれ、外見からはとても人がいるようには思えない。
しかし、その中では、歓喜の声に包まれている部屋が確かに存在していた。
「すごい……」
ヒカリはその部屋の中で、思わず感心していた。ヒカリの親と年齢が同じくらいの大人たちが、こんなにも大声をあげることなんて、まず見たことなかった。その声量に、小さな少女は圧倒されていた。
「ここには、普通の会社員だったり、弁護士だったり、農家だったりと、いろんな場所に住むいろんな人が集まっている。できないことなんてないさ」
すると、4人に何か付け足すように、先程の細身の男性が言った。
それに答えるように、ヨウタが口を開いた。
「……そういえば……すみません、お名前は……」
「あ、失礼。僕は武者野議員の秘書をやってる細川だよ」
「細川さん……何度もすみません、お年は……」
「もうすぐ39だよ」
それを聞いた4人は、それぞれいろいろな感情を抱いてしまった。
そんな4人の表情から何かを読み取ったのか、細川は、ははは、と笑った後にこう言った。
「もちろん最初は嫌だったよ。10歳近くも年下の議員の秘書をするなんて。でも、武者野さんは、他の議員のように自分の利益を守ろうとしたり、卑怯な真似はしたりしない。本当に国民のことを考えて行動している、まさに『国民の代表』の鑑さ」
細川はそう言うと、自分のことのように誇らしい顔をした。
「君たちももう仲間だ。我々とともに頑張ろう」
そして、細川は4人から離れていった。
「……なんか、一気に……その……」
「どーしたの、ナギさん?」
「いや、一気に人が増えたから……」
「安心したんですかぁ?」
するとナギは、突然テリカにかぶりを振った。
「ちげえよ!」
それを受けたテリカは、静かに笑った。
「ふふふ。ナギさんもわかりやすいですねぇ」
4人は少し笑顔になった。同時に、緊張も少し解けたような気がした。
すると、ヒカリの頭の中に何かが走った。それはほとんど無意識に、ヒカリの脳を切り裂いた。
そして、ヒカリは思い出した。
そのことを、3人に言った。
「ねえ……ぱすわーどって、なに?」
硬直。柔らかな雰囲気は、一瞬のものとなった。
「……そうだよ! テリカなんかわかんのか?」
するも、ナギも同調した。
「……確かにそうだね。『わかるかも』って言ってたし、損はないと思うよ」
ヨウタも同じく賛成した。
こうして、3人が少しずつテリカに詰め寄る形となった。当のテリカは困惑した。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよぉ! 私もまだ、多分こうかもしれない、ってだけで、絶対にこうだ、ってわけじゃないですよぉ!」
「試してみる価値はあんだろ!」
そう言うと、ナギはテリカに顔をぐいと近づけた。ただ、コンビニの時と違い、ナギが押し気味である。テリカは思わず身を引いた。
「わ、わかりましたよぉ……」
「……証拠はないですよぉ? あるのは私の直感だけです」
大人達の一つ下の階に移動した4人は、テリカのスマホを囲むように座っていた。上と違って電気がなく、スマホの光が4人の顔の下半分を照らしていた。
「やってみるだけ得だろ。早く入力しようぜ」
「……ナギ、焦りすぎだよ」
荒ぶるナギをヨウタが制した。ナギは獲物を狙うような目をヨウタに向けた後、黙り込んだ。
「……それで、テリカ。その予想してるパスワードって何だ?」
ヨウタがテリカに訊く。テリカは向かい側のヒカリの後ろ、部屋の隅の方をじっと見ていた。聞こえてはいるのだろうが、やけに答えるのに時間がかかっている。
その時。
「あっ」
ヒカリが声を漏らした。
「どうした?」
「かいちゅうでんとう、なくしちゃった……」
「なんだよ……そんなことかよ」
「でも……あれ、おかーさんの……」
ヒカリはナギに潤った目を見せた。
「大丈夫だって。その親御さんもわかってくれる。何せ、こんなヤバい世界で生き延びてんだからな。誰も責めやしねえよ」
ナギはそう言って、解決に導いた。しかし、ヒカリの中では、解決など全くしていなかった。
「……それで、パスワードは何?」
仕切り直すようにヨウタが言った。
しかしテリカは答えない。
「何だよ? どうしたんだよ?」
ナギはテリカに催促した。
しかし、やはり答えない。ただどこかを見ているだけだ。
「お前……いいかげんに……」
ナギがさすがにしびれを切らした時だった。
「0315」
「……え?」
「0315です」
唐突に、その数字列が明かされた。
そして、3人は固まった。
なぜなら。
「0315……3月15日って……オレの誕生日じゃねえか!」
「……ナギ、奇遇だね。僕もだよ」
え、というような表情で、ナギがヨウタの顔を見た。
「……そうなんですか? ということは……」
テリカは、そしてそれにつられたナギとヨウタは……一斉にヒカリの方を向いた。
「……ヒカリ、誕生日いつだ?」
「……さんがつ、じゅうごにち」
息をのむ。場の空気がさらに張りつめるのを感じる。
ナギは素早く、中央のスマホを奪うように手に取った。そして時間経過でいつの間にか切れていたスマホの電源を入れると、すぐにパスワード入力画面に「0315」と打ち込んだ。
スマホは、何ら拒むことなく、ホーム画面を映しだした。




