【Night 35】生存者たち
「君は……」
その少し痩せ細った男性は、ナギを見るなり安心したような、嬉しいような声を発した。
「君は、生きているのかい?」
「はっ? ……えっと……生きて、ます……」
「1人?」
「いや、あと3人くらい……」
久しぶりに大人を前にしたナギは、自分のキャラを壊してしまっていた。ナギらしくないことは、彼女自身もわかっていた。
「ナギさん!」
やがて、ヒカリたちもナギに合流した。3人の視点はみるみるうちにナギから男性へと変わり、表情もどんどん硬くなっていった。
そんな3人を見てか、男性は口を開いた。
「ああ、大丈夫だよ。僕は決して怪しい者じゃない。ついてきてくれ」
そう言うと男性は踵を返し、階段を上っていった。時々、4人の方へ振り向いている。ついてこい、と催促しているのだろう。4人はおとなしくついていくことにした。
カン、カンという階段の音が響き渡る。そのたびに、何かがあの壁の向こうから、この後ろの暗闇から飛び出してきそうで、ヒカリは思わず身震いした。
「君たちは、どうしてここに?」
すると、男性がヒカリたちに訊いてきた。警戒心は感じられなかった。
「……色々あったんです」
ヨウタが答えた。
「そうか。何があったのかは、訊かないでおくよ」
男性はそう言うと、次にこんなことを言った。
「……君たちは、何かわかるのかい?」
「……え?」
「あの影が……何者なのか」
「それを───」
「……わからないですぅ」
それを知っていれば苦労しねえよ、とナギは言おうとしたが、テリカに遮られてしまった。
「……確かにそうだろうね。でも……」
すると、男性は足を止めた。
「……大丈夫ですか?」
質問には答えなかった。そのかわり、男性は自分から喋り始めた。
「僕はね、あの影たちは、別世界からやって来た人間なんじゃないかな、って思ってるんだ」
……沈黙が流れる。
何秒かはわからなかった。ただひたすら、長いと感じた。
「……ははっ」
すると、ナギが笑った。おかしくて笑うというよりかは、失笑といった感じだった。
「……何が言いたいんだよ? あいつらはオレたちの知らない未知の生命体だから敵わないって?」
「そんなことを言いたいんじゃない。僕は、ただそうかもしれないと言っているだけだ。彼らを排除することを諦めたわけじゃない」
男性は慌てて言い直す。
するとナギが笑い飛ばすように言った。
「おい、おっさん。オレたちはな、この4人で信じられないようなピンチを切り抜けてきてんだよ。今さらあの影どもに屈するつもりはさらさらねえ」
「……ナギ……そんなこと言ってないって」
ヨウタがナギを静めるように言った。
しかし男性は、ははは、とナギに対抗するように笑い、そして言った。
「君たちは僕たちが思っているよりもずっとたくましいようだね……心強いよ」
「……こころづよい?」
ヒカリが訊き返した。
「おや、いつの間にかついたようだ。みんなと話しているとあっという間だったよ……ははは」
男性はそれには答えず、階段を階段を上りきった先で、独り言のように言った。
そして、目の前のドアを思い切り開け、叫んだ。
「みんな! 新しい仲間が来たぞ!」
「はっ? 仲間って……」
ナギが口を開いたその時だった。
目の前のドアが開かれると同時に、まず漏れ出したのは割れんばかりの大歓声だった。これだけで、4人は驚きを隠せなくなった。
そしてドアの隙間から見えたのは、大勢の人たちがこちらを見つめていた。すぐに数えることができ、その数は20人弱。全員が希望に満ちあふれた目をしていた。
「よく生きてた!」
「子供だぞ……」
「頑張ったな!」
大の大人が、それぞれ自分勝手なことを言っている。なかなか稀な光景だった。
そしてその自分勝手な大人の中で、1人、4人の前に歩み寄ってくる者がいた。
そして、ナギとヨウタの2人は、この人物にもう一度驚かされることになる。
スポーツマンのような引き締まった体がスーツ越しにわかり、街を歩けば10人の女性が一斉に振り返るような顔……何より、何度もテレビで見た顔だったのだ。
「……武者野……議員……」
武者野 悠大。30歳。5年前に突如として政界に現れたかと思うと、甘いマスクと教師のようなキャラクターで主に若者からの支持を集め、立候補地ではその若者からの支持率の多さから「若者のすべて」と呼ばれ、無所属の大ベテランを破って見事当選。そして国会ではたびたび総理に意見し、「若造」と罵られたが、国民のことを第一に考えた意見を述べていたため、だいたいの人物は彼に味方した。
そんな彼が、なぜここに……?
「おい、テリカ、顔」
「えっ?」
「いくら武者野がイケメンでも、顔に出すぎだろ」
「あっ、す、すみません……」
その顔は、武者野を知らなかったテリカでも、顔が赤くなるほどだった。
「テリカ、と言うのかな?」
「あっ、はっ、はいっ……!」
すると、武者野はテリカに近づき、話しかけた。テリカは自分の体温が上昇していくのを感じた。隣でナギがため息をついているのをお構いなしに。
「良い名前だね」
「えっ、そっ、そんな……」
「……武者野さん、なんでこんな所に……?」
すると、横からヨウタが口を挟んだ。今度はテリカが不満げな表情をする番だった。
「別に特別なものじゃないさ。業務が終わって家に戻っている最中に、帰れなくなってしまったんだ。そこで車を走らせていたら、ここにいる人たちに一人ずつ出会っていった。そして人が増えすぎたから車を捨てて、みんなで歩いて、ここに辿り着いたというわけだ」
「くるま、すてたの……?」
「うん。みんなを見捨てていくわけにはいかないからね」
何て人だ。
4人はそう思った。
そして同時に、こうも思った。
この人となら、この状況を打破できるのではないか、と。
「確かに今は大変な時だ……」
すると、武者野は大人達の方へ振り向き、口を開いた。
「でも!」
急に声が大きくなった。決意の固さを感じた。
「みんなとなら、この状況をひっくり返せる! 頑張ろう!」
またしても、大歓声が響き渡った。




