【Night 34】PASSWORD
4人は再び歩き出した。
行く場所は決まっていなかった。それでも歩いて、歩いて、歩き続ける。黙って歩き続ける。
しかし、そんな静寂に耐えかねたのか、口を開いた者がいた。
「……どこいくの?」
ヒカリだった。彼女は純粋な目で、3人を交互に見た。
それに答えたのはナギだった。
「……知らねえよ。家に帰っても解決するわけじゃないし、かといってどうすればこの現実を直せるのかもわからねえ」
「そっか……」
ヒカリは少しくたびれた顔をして、黙り込んでしまった。そうしてまた、静寂に包まれた。
すると、今度はヨウタが口を開いた。
「……ねえ。今は夜なのに、何でこんなにしっかり見えるんだと思う?」
「わかんねえよ。てかお前、何だ? 不満なのか?」
問に質問で返され、ヨウタは言葉に詰まった。
「……いや、別に……」
「ならいいだろ。考えないでおこうぜ」
「……わ、わかったよ」
またしても、沈黙は貫かれてしまった。行くあてもなく、ただ前へ進む。そんな状況が続いた。景色は、淡々と流れていく。
すると今度は、テリカが開口した。
「……そういえば、私、わかるような気がするんです」
「何が?」
「あの……スマホのパスワードです。コンビニにいたとき、開けられないって言ってたあれです」
「なんだ……」
すると、ナギが落胆するような声を出した。
「実はオレたち、ショッピングモールであのロック開けたんだよな」
「……待って」
しかし、それをヨウタが静止させた。ナギは少し不服そうだ。
「……あれは僕がパソコンで無理矢理こじ開けただけだ。だから、パスワードをちゃんと入力したことにはならない。それに、あのファイル」
そこまで言い終わった後、ヨウタはナギの方を向いた。突然のことに、ナギはたじろいだ。
「な、なんだよ」
「……思い出してみて」
言われるがままに、ナギは記憶を逆行した。テリカとの激闘、ヒカリとの再会、そして……。
「……あ、あれか」
「そう。下書きの中に紛れ込んでた、あのパスワードを要求されたファイルだ。もし、スマホのパスワードとあのファイルのパスワードが同じなら……」
ナギもピンときたようだ。
「確かに! おいテリカ、パスワード教えてくれ!」
ナギはテリカにぐいぐいと迫った。テリカは少し顔をしかめた。
すると、その近くから、少し小さな声が聞こえた。
「ぱすわーどって?」
「……あ、そうか。ヒカリ、パスワードのこと、知らないんだった」
そう言うとヨウタは、ヒカリに近づき、歩幅を合わせた。
「……実は、君のお父さんのものらしきスマホを見つけたんだ。その中にパスワードがかけられているファイルがあって、それを開けば……」
「……わかんない」
ヒカリは率直な感想を述べた。ヨウタの心臓に少し刺さる物があった。
「……まあ、こんな話、5歳には難しいよね。安心して、ヒカリ。僕たちがなんとかしてみせるから」
「……ほんとう?」
「……うん。本当だよ。嘘はつかない」
するとヒカリは、花がつぼみから開いていくように、だんだんと笑顔を取り戻していた。ヨウタは一安心といったところだった。
「……じゃあ、進むか」
「結局進まなきゃいけないんですねぇ……」 「何か目的が欲しーよなー、ただ歩くだけじゃなくて」
「……つかれたなぁ」
4人はそんなことを口々に放ちながら、まっすぐ歩き続けていた。
その時。
「……?」
「どうした?」
ヨウタが何かの異変を感じ取ったようだ。
「……何か、話し声、聞こえない?」
「……は?」
「……! また聞こえた……」
ヒカリたちが歩いていたのは、廃ビルが所々に点在する郊外の街らしき場所だった。
そして、今の風景は、4人のちょうど隣に廃ビルが1つ。あとは空き地だ。
そして、話し声が聞こえる───。
考えられる発生源は、もはや1つしかなかった。
「……この中から……」
ヨウタの声で、4人は隣の廃ビルを見上げた。赤茶色で、古さを十分に感じることができるものだった。当然、人の気配もしない。
しかし、4人はそのビルの中に人がいることを確信していた。
ビルの窓の隙間から、久々に拝む、白い線───光が漏れていたからだ。
「おい……」
「あれ……」
4人は驚きと歓喜が絶妙に混じり合い、なかなか体を動かすことができなかった。そもそも他に生存者がいるのかどうかということを、4人とも心の隅で疑い始めていたのだ。驚き、歓喜するのも無理はない。
やがて、最初に動く者が現れた。ナギだった。彼女は一心不乱にビルの中に駆け込む。まるで水を得た魚のようだった。あとの3人も、ナギを見失わないようについていく。忘れそうになっていたが、この世界において一度人を見失うと、見つけるのはかなり難解になる。さすがに建物の中までは変化しないと思うが……。
ナギが建物内に入ると、そこにはやはり外見通りの光景が広がっていた。置物や机などが何一つない部屋。光が全く差さない廊下。ガラスが散乱する階段。本当にこんな場所に人がいるのかと疑問を抱いた。
その時だった。
「あれ!?」
上から声が聞こえた。
「!?」
ナギは突然のことに驚きを隠せず、あたりを見回した。しかし、どこにも人影はない。
一体どこから、と模索していると。
「君は……」
声が響く。その次に、カン、カンと何かの音がする。どうやら階段を下る音のようだ。ナギは階段の方に目をやった。
そこには、安心したかのような目を向けている、少し痩せ細った男性が立っていた。




