【Night 27】殴り合い
「オレのターンだ」
ナギは震える声で、そして傷だらけの顔でそう言った。そして、手を地面について立ち上がると、にやりと笑った。
『中々しぶとい様だね。どれ、テリカ、完全に息の根を止めてやりなさい』
ヒカリの父親そっくりの影がそう言うと、テリカは何かに操られたようにゆっくりと踵を返し、ナギの方にスタスタ歩いていった。
「テリカ」
ナギはテリカに直接語りかけた。話しかけられた本人は無反応だ。
だがナギは続ける。
「オレは確かに嘘をついていた。それは本当だ。すまなかった」
「……嘘? ナギ、テリカに嘘ついてたのか?」
テリカではなくヨウタがナギの言葉に反応した。ナギには聞こえていなかった。
その証拠に、ナギは続ける。
「でもよ、お前も何か隠してることあんだろ? お前とヒカリの父親がどういう関係なのかは知らねーけどよ……」
テリカは動じない。ただずっと一色に塗りつぶされたその目で、ナギをじっと見つめている。
「こういうのはどうだよ? オレが勝ったらお前の、お前が勝ったらオレの嘘を暴く……いいな?」
ナギはそう言い、テリカに歩いていく。
「返事しねーってことは、オッケーなんだな? いくぞ!」
その瞬間。
速かった。怪我人とは思えないほどのスピードで、ナギはテリカに殴りかかった。
「……!? ……ナギ、あんな体力をどこに……」
それを見ているヒカリの横でヨウタが驚く。
『何処にあんな体力を所持していたのか、という事か。君、中々いい着眼点じゃないか』
「………」
ヨウタは反応しなかった。
ナギに視点を戻すと、彼女はテリカと予想以上の接戦を繰り広げていた。ナギが殴ればテリカは腕で防ぐ。その勢いでテリカが殴りかかると、ナギは素早い身のこなしで避ける。殴っては防ぎ、殴っては避け、それが延々と繰り返される状態だった。
「……僕らが入る隙がまるでない……」
『……然し、手負いで私のテリカに対抗できるとは……あの娘、何者なのかな?』
ガキィッ!
突然大きな音が響いた。
かと思うと、2人は先程までの近接戦とは打って変わって、少し離れて息を切らしていた。
「お前……けっこう喧嘩、上手えんだな……」
終始無感情に見えたテリカも、はあ、はあと息を切らしている。人間離れした今でも、流石に疲れは感じるようだ。
すると。
『テリカ、一旦止まりなさい』
父親の影が、テリカに命じた。と同時に、テリカの息切れが止まった。
『君は思った以上にやるようだね、ナギ君。このままいくと、私のテリカも負けてしまいそうだ』
そして、影は少し考える素振りを見せる。
『其処で、私から提案だ。今、此処で小休止を取ろうではないか』
小休止。
つまり、一時停戦。
「っざけんじゃねぇ! オレとテリカの勝負を邪魔するな!」
『いいや、私にも止める権利は有るさ。何故なら』
そして、影はテリカのすぐ後ろまで動いた。
『今、テリカの意志を握っているのは、私なのだから』
「……!」
ナギは影に飛びかかろうとした。すり抜けるというのは、本人もわかっていたはずだった。
だが。
『あー、邪魔だから君も硬直をお願いするよ』
影はぐるんとナギの方を向くと(多分)、不思議なことに、ナギは動けなくなった。
「………!?」
「……僕と同じやつだ」
『……さて、〈クラヤミ〉。この方たちに教えても良いかな? テリカの過去』
『……うん』
ここで初めて、ヒカリにそっくりな影の名前が明らかになった。いや、かなり前から言っていたような気もする。いつだったかはわからなかった。
『……さて。許可も得た事だし、君たちにも説明しようか。テリカの経験を』
雪は、より強く、より激しくなっていた。




