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【Night 25】集結




「……これって……」

新しく流れてきたその画像は、どう見ても異質だった。今までの絵が優しいタッチだったのに対し、その絵だけ、何回も線を重ねたリアルな絵だった。

文字は無かった。その代わり、文字のスペースに絵が浸食していると言ってもよかった。文字がない分、絵の存在感がかなり増大されていた。

「こんな絵、あの絵本に無かったよな……」

その絵は一言で言うにはあまりにも複雑すぎた。そのまま言うと、″てりか″の影が、てりかをいじめていた子供たちを、その巨大な手で掴んでいるものだった。子供たちは、絵本で見られたような生意気な表情とは打って変わって、恐怖と絶望に歪んだ顔に変貌していた。

「……没展開、ってやつか……」

ヨウタは注意深く画面を見つめた。ナギもヨウタの後ろで凝視する。

すると、画面の左上に、かなり小さいが、何かを見つけた。

「てか、これ最後のページじゃねえじゃん」

「……え?」

「ほら、左上にページ数書いてんだろ。お前もしかして、気づかなかったのか?」

「……あ。本当だ。あと5ページ……」

「17/22」という形が、見つけてから急に存在感を大きくしているような気がした。

「……てことは……」

ヨウタはしばらく硬直していた。何かを躊躇ためらっているようにも見えた。

しかし、やがて決心したかのように、画面をスライドした。

「え?」

すると、ヨウタからは気の抜けたような声が漏れた。ナギも、「え?」と言ってしまいそうだった。予想外の要求をされたのだ。


〈パスワードを入力してください〉


「お前、何かやった?」

「……いや、そんなはずは……多分、この絵本の原稿と今見ようとしているファイルは別で、もともとは原稿のファイルから直接閲覧できるようになってたんだけど、後からそのファイルにパスワードを設定した……とか……」

ヨウタの言葉から落ち着きが失われていく。らしくないな、とナギは思った。


「とりあえずよ、後でいいんじゃねーか?」

そう言ってナギは椅子から立った。反動で椅子が少し後ろに動いた。

「……どこに行くの?」

「決まってんだろ。てか、言っただろ」

ナギはヨウタの方を向き、言い聞かせるように言った。

「ヒカリを探すんだよ」




外は思ったよりも過酷な環境で、普通の人なら弱音を吐いてしまいそうなほど寂しく、恐怖に満ちていた。

ヒカリは1人、懐中電灯を片手にひたすら前に進んでいた。首が寒い。懐中電灯の光が、さっきより強くなった気がする。どうしても、どうでもいいことばかり考えてしまう。


───夜のお外は危ないって何度も言ってるでしょ?


母親が言っていたことも、その中に含まれていた。あの時は、わからなかった。無知だったのだ。でも今は、なんでそんなことを言ったのか、わかったような気がする。思い込みかもしれないけど。

でも、同時にこう思う。

危険を冒さないと、何もできない、と。

雪がちらほらと舞う。風が吹く。顔に当たる。顔の表面の温度がどんどん下降し、冷たさを感じなくなる代わりに刺すような痛みをそこら中に感じる。

でも今は、今は。

「……あいたい……ナギさんに、ヨウタさんに、テリカさん……」

その思いを一心に抱き、暗闇を進んでいく。

隣には、誰もいない。




「うー、みー」

外に出た瞬間、ナギは悶絶もんぜつした。よく見てみると、雪も降っている。

「……我慢してよ」

「わーってるよ。寒みーって言っただけだ」

「……でも」

ヨウタは危惧していた。

「……探すっていっても、会える確率なんて、天文学的確率だよ。それがわかってたから、僕は……」

「オレ、嫌いなんだよな」

「……え?」 

「オレ、嫌いなんだよ。誰かがやってくれるのを待つのは。てか、嫌だ」

「……ナギ?」

ナギの言っていることは至極納得できることだった。しかしヨウタは、彼女の発言に疑問を感じたのではない。

「……なんでそんな急に怯えた顔になるの? さっきと違うじゃん……」

「あ?」

ナギは「何言ってんだお前」と言いたげな目でヨウタを見た。

「……寒みいからだよ。ほら、行くぞ」

「……でも……」

「いいから行くぞ!」

ヨウタはその雰囲気に押された。とりあえず、後をついていくことにした。

「待ってろよ、ヒカリ……絶対助けてやるからな」




雪と風はどんどん勢いを増し、ついに吹雪となって、ヒカリの身体をむしばんでいく。

それでも、前に進まないといけない。

「あうんだ……」




もう後ろにあったはずのショッピングモールも見えなくなってしまった。場所が移ってしまったのか、それとも吹雪で見えなくなってしまったのかはわからない。

それでも、後戻りをする気は無い。

「会うんだ……」




「あうんだ……」

「会うんだ……」





 あ

「 うんだ……!」

 会




息が冷たい。でも熱い。もはやどちらかわからない。少しでも気を抜けば気絶してしまいそうだ。

「それでも……あいたい……」

ヒカリはもはや気力だけで成り立っている状況だった。少しでも押せば倒れてしまいそうな、まさに風前の灯火のような、そんな状況だった。

そして、ついに限界を向かえたようだった。

突然、足に力が入らなくなった。足は歩みを止め、バランスを崩し、傾く。咄嗟とっさに姿勢を保とうとしても、身体が言うことを聞かなかった。

その時だった。

前に倒れ込むヒカリの手に、温かい何かが触れた。と思うと、がっと掴まれた。

「大丈夫か!?」

その声は、少し乱暴で、少し無遠慮で……少し心地よかった。

「……ナギ……さん……」

ナギは巻いてあったマフラーを外すと、ヒカリの首に雑に巻き付けた。首が締め付けられて苦しかったけれど、ナギの温もりを感じた。

「……ヒカリ」

そして、後ろからヨウタも駆けてきた。

「……あえた……よかった……」

「ああ。良かった。本当に良かった。よく頑張ったな」

ナギはヒカリをぎゅっと抱きしめた。

「……いたい」

それでもナギは離さない。

「……とりあえず、安全な所に行こう。ヒカリ、ナギ、疲れてるだろうけど、歩いてくれないか」

「……まって」

「……何?」

「……テリカさんは……」

その時。

ようやく見つけたよ』

向こうから、誰かがやってきた。それも、複数人。どうやら2、3人のようだ。

「は? 誰だよ!」

ナギはさっきとは打って変わって、敵対的な態度をとった。

そして、その人たちは近づいてきて、吹雪の中でもはっきりとその形がわかるようになった。

それは2つの影だった。1人は、ヒカリが会った、ヒカリにそっくりな影。そしてもう一人は───。

「おとーさん……?」

「はっ!? 『お父さん』って……お前の父親の影かよ!? 目はねぇけど……」

『これはこれは。私のことを知っているようだね。話が早くて助かるよ』

緊張がヒカリたちに降りかかる。吹雪で、それはいっそう増していく。

すると、父親の影は、後ろを振り向いた(多分)。そして、非常に落ちついた声でこう言った。

『私には信頼できる拾い子がいてね……なに、そんなに悪い子ではない。仲良くしてやってくれないか?』

すると、吹雪の向こうから、誰かがやってきた。近づくにつれ、その形はどんとん確定していく。

荒れた黒い長髪。所々破けたコート。そして……頭に巻かれた包帯。

3人は固まった。驚きとか、悲しみとか、怒りとか、どういう感情なのかは誰にもわからなかった。

辛うじてナギが口を開くことに成功した。

「……テリカ……お前、イメチェンしやがったのか……」

3人の前には、力なくふらふらと動く、テリカの変わり果てた姿があった。

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