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【Night 17】豹変

どうしたんだい?


そうか。それはつらかったね。


もう大丈夫だよ。




「お前、何か隠してんだろ」

ナギは核心をつくように鋭く言った。そもそもテリカなんて名前の人物は見たことない。珍しい名前のはずだ。

第一、テリカの長い髪、顔のパーツの位置全てが、絵と酷似していた。絵の人物は、身長は小さく、服装はぼろぼろだが、それでもかなり似ていた。

これは何か関係あるに違いない。

「………」

テリカは黙って下を向いていた。やはり何かあるようだ。何も無いのなら、すぐに否定するはず。ナギはもう確信していた。

「これについて知ってること、話してくれ。ゆっくりでいいから」

「……嘘つき」

「は?」

その時、テリカがぼそっとつぶやいた。

先程の冷静な雰囲気とは一変、ナギは自分の頬を汗が伝うのを感じていた。

テリカはナギが聞いていたことに気付いたらしく、下を向いていたものの、今度は明らかにナギに向けて言った。

「ナギさん、嘘つき」

「嘘つき?」

なぜそんなことを言っているのかわからなかった。

「だってそうじゃないですかぁ。ナギさんはナギさんで、嘘ついてますよねぇ?」

「………?」

テリカはゆっくりと立ち上がった。身長が少し高くなったように感じる。長い髪のせいで、顔がよく見えない。

「…質問に答えろよ」

それでもナギは臆せずに言った。本人はそのつもりだった。しかし、やはり汗は頬から落ち、机に溜まる。

「ナギさぁん」

テリカは顔にかかっていた髪をかき分けた。

そこには、どす黒い笑みが作られていた。

「それはこっちの台詞ですよぉ。ナギさぁん、あなた、友達がいたんですよねぇ?」

テリカは近づいていたナギの頭を掴んだ。力が強い。前髪が痛い。

「それで、あなたは友達を守るために抵抗するも、無駄に終わった……」

「……!」

まさか。まさか。

ナギは若干の焦りを感じたと思うと、次にその焦りの急速な拡大を自覚した。やがてそれはどうしようもないくらいに大きくなり、はち切れそうになる。

「でもさっき、わかりましたよねぇ? あの影は、〈特定の人物以外はすり抜ける〉。まあこれはあくまで予想ですけど、ほぼ確定ですよぉ」

「……何が言いたいんだ」

言っても無駄なことはわかっていた。でも、怖かった。ナギに核心を暴かれそうになっている今のテリカは危険だと、ナギ本人は理解していた。

そんなテリカに、「あれ」がバレたら───。

「あれれれれぇ? おかしいですねぇ。あなた、友達を殺した影に、殴られたんですよねぇ? 何でですかぁ? 〈特定の人物以外はすり抜ける〉はずですよねぇ?」

まずい。まずい。バレる。

ナギは目をつむった。もう駄目だ。もう終わった。こんなことになるのなら、まだ言わなかったらよかった───。

ナギがそう思ったその時、テリカはナギの頭から手を離した。妙な安心感に包まれたような気がした。まだ助かったわけでもないのに。

「……その表情を見る限り、嘘つきなのは確定ですねぇ」

するとテリカは、そばで寝ていたヒカリをゆっくりと抱きかかえた。

悪寒が走った。

「おい! 何するつもりだ!」

「こんな嘘つきにヒカリちゃんを任せられるわけないじゃないですかぁ」

「ふざけるなっ! 返せっ!」

そう叫ぶやいなや、ナギはテリカに飛びかかった。しかしテリカは今までが嘘のような身のこなしで、ナギをかわした。テリカのすぐ後ろにあったテーブルにぶつかり、ナギは倒れ込んだ。

「くっ……」

「じゃあ、さよなら~」

「待て……! 逃げるなこの野郎……!」

ナギは立ち上がろうとした。しかし身体から痛みが取れず、思い通りに動かせない。

すると何を思ったのか、テリカはハンバーガーショップの出口から引き返し、ナギが倒れ込んでいる場所まで戻ってきた。

ヒカリはずっと寝ていた。まるで死んでいるかのようだ。こんなに激しい音と衝撃にさらされているのに、目を開ける気配もない。

「テリカ……返せ!」

テリカは何も言わない。

「早く……返せ!」

テリカの口が開き始める。

「テリ…」

テリカの表情が崩れていく。歪んだ笑顔から変化していく。


「ゴミはゴミらしく倒れてろ。この嘘つきが」


……え?

……誰が喋った?

聞いたことのない、低くて感情のない声だった。ヨウタも感情は出さない方だと思うが、それににしても感情がこもってなさすぎる。

「……あ」

気がつくと、テリカの姿が消え、丁寧に並べられたイスとテーブル、ハンバーガーショップの出口が見えていた。

ナギは駆けだした。階段を駆け下り、真っ直ぐに出口の自動ドアの前に着いた。自動ドアが開くのが呆れるくらい遅く感じた。開き始めると、ナギはその隙間を縫うように外に出て、周囲をくまなく見渡した。しかし、テリカの姿はおろか、大阪の光り輝く景色がまるごと消えていた。代わりに、真っ暗な畑のみが広がっていた。何も植えていないようだ。

「……くそっ……」

テリカはヒカリを連れたまま、完全に消えてしまった。

「くそおおおおおっ!」

ナギの叫びは、誰にも聞かれることなく、闇夜の中に消えた。

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