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【Night 16】ショッピングモールにて




「うおぉ……流石大阪って感じだな」

「……こんなに建物があるとは……あと、電気系統は人間がいなくてもちゃんとしてるんだね……」

ナギとヨウタは、早くも都会の景色に圧倒されているようだった。それもそのはず、ここは大阪の中心部。高々とそびえ立つビル群、夜の街を活気よく照らす商店街、これでもかというほどの明かり。まさにそこは、日本の活気の集大成と言えた。

無論、人がいればの話だが。

「でも……やっぱりヒカリたちだけなんだね」

「そうですねぇ」

遅れてやって来たヒカリとテリカは早くもその現実に気づく。しかし発言のわりには顔がニヤついていた。

数ある建造物の中でも特に目だっていたのが、その街並みの内部に堂々とそびえ立っている、最近ニュースで完成が宣言された大型ショッピングモールだった。

「すげー……何階建てだ?」

「10階はありますよぉ」

「……逆に恐ろしいな」

皆がそれぞれ口を開いていた。

すると、ヒカリがナギに近づいてきた。

「……いま、なんじ?」

そう言うヒカリの目はしょぼしょぼとしており、本人も目を擦っていた。

そういえば、コンビニを出てからもう長いこと経っている。普段の感覚ならもう夜になっていてもおかしくないだろう。それに今日は───と言うよりかは今日も───いろいろありすぎた。たった5歳の少女なら限界を迎えるだろう。

「そうだなぁ……何時って言われてもなぁ……あ」

時刻を知る手段が無いと思っていたナギは、とあることに気がついた。

「おーい、テリカ!」

「なんですかぁ?」

テリカは無垢な子供のように駆け寄ってきた。

「お前、確かスマホ持ってただろ? くれよ」

「ええー、嫌ですよぉ」

テリカはこれでもかというほど首を横に振った。しかしナギには想定内の出来事だった。

「もしくれるんならお前の食べ物はオレが調達してやろう」

「しょ~がないなぁ……」

先程の反応からは考えられない返事をされた。しかも、即決。チョロいものだ。

スマホを受け取ったナギは即座にスマホの電源を入れる。液晶には、「22:05」と表示されていた。ヨウタと出会った時はおそらく昼時だろう。それ以外は、歩くのと休憩の繰り返しだった。

「10時だってよ……って、お前……」

いつの間にか、ヒカリは寝息を立てていた。仲間が増えて安心したのもあるのだろう。ナギも少し微笑むことができた。今までの人生で数少ない瞬間だった。

(こいつ……ホントに手間のかかる奴だ)

ナギはヒカリをおぶって行くことにした。

「……3人とも、早く中に入ろう」

完全に無視されていたヨウタが、静かになったのをいいことに言った。




流石大都市のショッピングモールなだけあって、中はかなり広かった。1階のスーパーマーケットに始まり、2階にはフードコート、それより上の階層には家具店、電気屋、さらにはパソコン教室まであった。まさに現代人の「必要」を凝縮させたようだった。

4人はフードコートへとやって来た。テレビでCMをたびたび見かけるハンバーガーショップの中に入り、まずはヒカリを座席に寝かせた。

「……どうしますぅ?」

「……とりあえず寝た方がいいんじゃないかな」

そうテリカに答えたのはヨウタだった。相変わらず合理的な選択をする。

しかしナギがそれを許さなかった。

「でもさ……折角だし各々どこか行ってみねーか? もしかしたら役に立つモンが置いてるかもしんねーぞ」

「いいですねぇ……服屋とか行きたいです」

「……この期に及んで服屋……のんだね……そもそも視界から外れたところは全く別の場所に置き換わる世界じゃなかったっけ?」

ヨウタは低く小さな声でつぶやく。ヒカリに続き、ヨウタも限界のようだ。

「いや、オレたちがコンビニにいたときにわかったけど、どうやら建物内ではそんなことにはならないらしいぞ」

「衣食住って言うじゃないですかぁ! つまり服も食べ物と同じくらい大切なんですよぉ!」

「……あんなにコンビニ飯持ってた奴に言われてもねぇ……」

あの食べ物入りレジ袋の持ち主がテリカだということを、ヨウタは既に見破っていた。

ナギは2人の間に割って入った。

「あー、やめやめ! そんなに言うなら、ヨウタ、お前留守番な! しっかりヒカリを見とけよ!」

「……寝させて」

「やったー! じゃ、行ってきまーす!」

そう言うと、テリカはハンバーガーショップの出口に駆けていった。服屋の場所を知っているのか、と少し不安になった。

「じゃ、オレも行ってくる」

続いて、ナギも腰を上げた。

ヨウタからの返事は無かった。




「うし……これぐらいで十分か……重い……」

ナギは1階のスーパーマーケットで、約束通りテリカの食料を調達していた。おそらく彼女は並の量じゃ満足しない。胃袋がはち切れるほどの量を持っていかないと、きっと文句をタラタラ言われるだろう。そう考えると憂鬱ゆううつだった。

それにしても。

ナギが誰かとの約束を守るなんて、おそらく初めてだった。今までで誰かとの約束を遂行したことなんてない(もしくは忘れている)。それで相手から何か言われても、「約束は破るためにある」と言って乗り越えていた。小中学校のときはずっとそうだった。高校でもそれが続いて、よくエンリに注意されたっけ。

……………………。

いや、駄目だ。考えるな。自分は悪くない。もしああしていなければ、自分は今頃ここにいない。

「……こんなもんか」

ナギは、ありったけの食料を、近くにあったかごに乱暴に入れ、スーパーマーケットを出た。

そして、エレベーターを目指した。




「どうですか!? このコート! かわいいですよね!?」

「お前……こんなことあんまり言いたくねぇんだか……」

「?」

「お前、ファッション向いてねぇぞ」

ナギのスーパーマーケットでの「買い物」から30分後。ナギとテリカは再びハンバーガーショップの中にいた。隣のヒカリとヨウタは、仲良く寝息を立てていた。ナギはヨウタを起こそうか迷ったが、やめた。

「ほい、これ、お前の」

ナギは持ってきたかごをテリカに突き出した。

「わー、ありがとうございますぅ!」

そう言って、テリカはかごの中を漁り始めた。そして、その中から宝物を探し当てたように、サンドイッチを取り出した。カツサンドだ。

「……ナギさん、私が好きなのはフルーツサンドですよぉ」

「うるせぇ。黙って食え」

どうやら引き当てたのは宝物ではなくゴミだったようだ。

「オレも貰うぜ」

ナギも、かごの中から1つ、食べ物を取った。見ると、イカのフライだった。しなっとした衣が、油をトレーにまき散らしている。

しかしナギにとってはご馳走だった。

「お、当たり」

「ちょっとナギさん!?」

「いいだろ1つくらい」

そして2人は黙って食事を始めた。隣の2人の寝息ばかりが、店内にこだまする。不思議な感覚だった。

しばらくして、テリカが口を開いた。

「ナギさん」

「何だ?」

「私、ヒカリちゃんから聞いたんですよ」

「そうか」

「そうか、って……わかってます? 何のことか……」

「オレとエンリのことだろ」

「そうです。それで私、ちょっと気になることが……」

「それより」

その時、ナギが唐突に話を遮った。テリカは、え、という驚いた表情を浮かべるほかなかった。

ナギは、テリカの知らない、「クジュン堂」と赤褐色の文字で書かれた小さな布袋から何かを抜き出す素振りを見せた。

そして、抜き出したものを机に置いた。

絵本だった。

「わたしのともだち」と書かれていた。

「……絵本?」

「ああ。絵本だ」

「……絵本がどうかしたんですかぁ?」

するとナギは、真剣な表情をテリカに向けた。いや、すでに真剣だったのかもしれない。2人で食べ物を漁っている時から。

「これ。作者のところ、見てみろよ」

テリカは覗き込んでみた。

「……!」

作者の欄には、こう書かれていた。


あさひ ゆう


「これ……ヒカリちゃんのお父さんじゃ……!」

「そうだ。そして、もう一つ」

「もう一つ……?」

その瞬間。ナギはテリカに顔を近づけてきた。コンビニの時を思い出した。

「心当たり、ねーのか」

テリカは首を横に振った。

すると、ナギはいきなり絵本を開いた。

「……!?」

そこには、柔らかい絵とともに、こう書かれていた。



じめんにやさしい ひがあたり

あさがきょうも やってきます

おんなのこは かげのまえで

きょうもおどっているんだよ


そのおんなのこは


て り か



「……お前、何か隠してんだろ」

その時、テリカの頭を、稲妻のようなものが襲った。黄色い、まぶしい、でも、あたたかい。

「………」

テリカはすべて、思い出した

そしてなぜか、ニヤリと笑った。

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