【Night 15】違和感
風も弱まり、気温も情け程度に上がった頃。
4人は行くあてもなく、ただスタスタと前に歩いていた。そんな中テリカには、1つだけ腑に落ちないことがあった。
あの影に突進した時、影に当たる感触がしなかった。それだけにとどまらず、影をすり抜け、反対側に倒れていたナギに躓き、頭を地面に打ち、気を失っていた。
ヨウタが死ぬ前に目が覚めたからいいものの、覚めてなかったらどうなったことか。
いや、そんなことはどうでもいい。
テリカが一番問題視していたのは、「あの影は何者か」ということだった。ヨウタの話を聞いている限り、影には喋れる者と喋れない者、さらに目がある者とない者がいる。その違いはどうして生まれているのか。
謎は深まるばかりだ。
「テリカさん?」
「うわっ!? ……も~、ヒカリちゃん、びっくりさせないでくださいよぉ」
「だって……げんきなさそうだったから」
「それはありがたいんですけどねぇ……」
すると、テリカの頭に、1つの考えが浮かんだ。
テリカはヒカリの耳元に口を寄せ、小さな囁き声でこう言った。
「ひかりちゃん」
「なーに?」
ヒカリの声が大きいままだ。これじゃあ小さい声で話しかけている意味が無い。
でも、気にせず続けることにした。
「ナギさんって、私が仲間になる前、何かあったんですかぁ?」
するとヒカリは、少し躊躇うような素振りを見せた。
「じつはね……」
ヒカリはテリカにありのままを伝えた。テリカと会う前、駅でナギから聞いた、おぞましい体験を。正直思い出せるかも不安だったが、それを感じさせないほど自然に話している自分が不思議だった。
「へー。ナギさんも大変だったんですねぇ」
テリカはそう言ったものの、ヒカリは、テリカは他人事だと感じているのではと思ってしまった。大きな根拠があったわけではないが、少し言葉に感情が入っていないような気がした。だからそう思った。
「私、そのお友達に会ってみたいですねぇ。叶えば、の話ですが。ヒカリちゃんもそう思いますかぁ?」
すると、テリカは急にヒカリに意見を求めた。
どう答えようか。ヒカリは迷いに迷った。確かにどういう人なのかは気になる。あのナギの友達というだけで、自然と会いたい衝動に駆られる。
でも、でも、ナギは彼女を守れなかった。
だから、彼女はナギを恨んでいるのではないか。
そう考えると、だんだんと会いたくなくなってきた。もし会えたとしても、ナギへの恨みをぶつけられたくない。自分の中にあるナギのイメージを壊されたくない。
そのことがやはり大きかった。
「……そうですかぁ」
結果を聞いたテリカは、おとなしく受け入れてくれた。
すると前方に、道路でよく見かけるあの青い看板が見えた。「なんば」「大阪」「堺」などと書かれている。その奥には、眩い光を放つ大規模な建造物が連なっているのが見えた。
「あ、ここ大阪なんですね! いつの間に辿り着いたんでしょうか……でも、なんかいっぱいありそうですよ!」
「いっぱいって……テリカさん、たべものなくなっちゃったの?」
「ナギさんがヨウタさんに投げたのを回収し忘れたんですぅ……」
テリカは急にすごく落ち込んだ。かと思えば、また元気になって、こう言った。
「でも、あそこならたくさん食べ物もありますよねっ!」
「そうだね!」
2人は、前を行くナギとヨウタに追いつくために、駆けだした。
テリカの心臓がバクバクと波打っていたことは、本人以外、誰も知らなかった。