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運命の歯車はどちらに回るか

翌日


ドミニクから手紙を預かって、製鉄所に向かう。

カイドも付いてくると言っていたけど、手配することがたくさんあったのでご遠慮願った。

私自身に時間がないから、一緒に父親を連れていった。

私より父の方が知識と技術があるので、適任だと思ったからだ。


「なるほど、これを改良して全て鉄で作り、量産するんですね」


手紙を読みながら製鉄所の主人が言った。


「全部が鉄となると重いが、細くなると強度が落ちて刺さる前に曲がるな」


父親が興味をしめしているのを見て、良かったと思う。

修理の仕事がすぐに入るわけではないから、熱中できるなら手伝ってもらったほうがいい。


「馬車につける刃は、これを参考に作っていただけませんか」


馬車につける刃を図解して、長さなども記載したものを渡す。

製鉄所の主人は、一目で理解すると、注文を受け付けてくれた。


「では、二人にお任せしていいですか? あとでお金はドミニク様からお渡しします」


二人は口々に了承してくれたので、これで大丈夫そうだ。

晴れやかな気持ちになり製鉄所を後にする。

木工所や、必要各所に色々手配すると、あっという間に一日が過ぎた。




数日後。

カイドと一緒に、森の中央に出来上がった見張り台に登った。

上空だと風が強いが、見張り台はしっかりしていて問題がない。

道幅が十分あるので、少し上からでも道の状態が見えた。


「森の長さは1.5kmくらいしかないですね」

「そうだね~。馬車だと十分かからないだろうな」


じゃあ、入り口と出口、どちらかに近い方に獣が出たら、笛とかで合図したら分かりやすいか。

入口に近い方が笛一つ、出口に近かったら笛二つみたいな感じで。


「笛を吹いて聞こえるといいんですが……」


ドリーを呼ぶ金色の笛を持ち上げて話す。


「じゃあ、森の端まで行って確認するよ」


カイドがスルスルと梯子を下りていった。


「お気をつけて~」


下を見ながら言う。


と、カイドがこちらを見上げてギョッとした顔をした。


「スカートの中が見える! しゃがんで話しなよ!」


ああ、しまった。そういうことをまったく考えてなかった。


(でも、見えてもどうでもいいような?) 


腿まで隠れる布なんて、見たところで皆ああ布だなくらいじゃないかな。

ぼんやり考えながらカイドが乗っている馬を見る。

森の端まで行ったカイドが手を振ったので笛を吹いた。

短く、ピ! という音が森に響く。

カイドが手で丸を作った。


(うまく聞こえたみたいだ)


カイドは反対側に行き、またチェックをする。

今度は笛を二度鳴らしたが、聞こえたようだったので上手くいきそうだと思えた。



時間は十分あった。

騎士には銃の練習もさせた。

地面に転がす棘も改良が上手くいき、量産できた。

父親も楽しそうだし、ドミニクも商売の準備をしつつホックホク。


やはり予言のことがガリレイ一家に伝えられることはなかったが、準備万端だった。

むしろ、なにもなさそうだと思った予言の前日。


「予言通り、あの森を通ることになりそうだ」


急遽集められた私とカイド、ドミニクだけがいる部屋。

ドミニクが苦し気に言った。


「どうしても断れない会合に招待されたが、その会合に使用する書簡が明日の朝届くことになった」

「そんな。どうしてもあの森を通らなければいけないんですか?」

「明日出ないと間に合わない。夕方でも間に合わない。手紙が早く届けばよかったのだが、なぜか遅延して今日届いた」


自分が前に言った、運命という言葉が重くのしかかる。

運命という抑止力に阻まれたら、予言をされた人間は生き残れないのだろうか。


「二人が早く行って、俺が後で届けるというのは」


カイドの言葉にドミニクは首を横に振る。


「いや、重要な書類なので、私自身が持たなければならない」

「遠回りですが、別の道もあります」


森の道を通らなければいけない理由は、大きな川にかかっている橋がそれと、小さな橋しかないからだ。

馬車の重量を思えば選択肢として利用したくはなかったが、思わず言ってしまった。


「小さなほうの橋は、先日の嵐で流されて修理中だ。だからこそ鉄線を引くのを却下した」


悪い時には悪いことが重なるとはこのことだ。


「シャーリーだけでも残そうと思ったが、話したらそれは嫌だと泣かれて倒れてしまったので、今は自室にいる」


ドミニクは、もうあの森を通ることを決意しているようだった。

お膳立てされた地獄への道を歩かされているような気分だ。

どうなってもいいように行動はしてきた。


だが「そうならざるを得ない状況」への外堀を完全に埋められると、不気味さが上回る。

生き残れるという確率がガリガリと削られていく音が聞こえた気がした。




予言のことなんて騎士に言えるわけがない。

噂なんてものは、止めたところで自分達の身内に被害がなければすぐに漏れる、漏れた結果こちらが国から調べられることになりかねない。

急遽、騎士を軍事訓練と称して明日森に集まることにして、秘密裏に準備を進める。


「訓練中に現れた獣を仕留めたものは特別に報奨金を与える」と伝えた。


これで、仕留めることができれば安いものだとドミニクが笑っていた。




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