予言を防ぐ計画のプレゼン
お茶に呼ばれて、丸いテーブルに四人で座る。
目の前にはお茶と、軽食としてサンドイッチが置いてあった。
予言が書いてある手帳を二人の前に出す。
「これがその予言書」
「予言書というか、手帳だな。字も汚い」
シャーリーがしげしげと手帳を眺め、ドミニクは手帳を手に取ってペラペラとページをめくる。
そして、深々と読み込んでいった。
「あなた、何かわかった?」
シャーリーが聞くと、ドミニクは深くため息をついた。
「ここに書かれている今までの予言は、私も知っているものだ」
「リアナさんの話だと、我々が襲われても助けはない可能性が高いということだね?」
「はい。私の村の予言は書いてあるのに何の知らせもありませんでした」
「俺のほうでも手紙が届いた段階で見るようにしているけど、そんな連絡は届いていない」
カイドの言葉に、両親は深く溜息を落とした。
「私は、予言に×印があると助けてもらえないと思っていて、お二人の予言にも印がついています」
夫妻は手帳も見ながら納得するように頷く。
「本来であれば、この日にこの森を通って帰宅する予定だったから、説得力がある」
「でも、もう戻ってきたのだから安心よね。ここにこの日、行かなければいいのだから」
シャーリーが場を盛り上げようと明るく言った。
「そうですね。でも万が一、運命というものがあるのなら、そうならざるを得ない状況になるかもしれない」
「……運命」
妖精のようなシャーリーの肩が、怯えるように震える。
ちょっと言い過ぎたかもしれない。
「ご安心ください。お二人は私が助けます。準備をすればなんとかなります」
「あなたが?」
「それで、君はその細い腕で、どう守ろうというのだね」
挑戦するような微笑みを向けられる。
試されているなと思いながら、持ってきた紙を取り出した。
「一応、現状二パターン考えていてひとつはこちらです」
テーブルの上に紙を広げ、紙に書いたイメージ図を見せる。
「まず、見張り台を作ります。距離が長いわけではないので場所は一か所でいいです。それと、馬車の前の方。半分あたりまで刃をつけます」
馬に鎧を着せ刃で囲えば、大型動物でも低めの生物なら何とかなるだろう。
馬が喰われると機動力が失われどうしようもないので、囲う必要がある。
「叩き切るわけではないので、薄くて軽量のもので。それと取り外しできるようにします」
一回限りでいい。簡単に取れなくて、避けられたらそれでいい。
ドミニクは少し思案して、なるほどと唸った。
「道を走るには危険だとは思うが、直前につけられるなら効果は高そうだ」
「護衛の人は刃より後ろを守ってもらいます。いつも護衛の人はなんの武器を?」
「確か……剣だな」
「予言では亡くなっているので、剣では役立たなかったということです。銃も持ちましょう」
「そうだな。用意しよう」
銃はそんなに何度も撃てるものではないけど、当たれば威力も強い。
「それから後ろからの追ってくることに備えて、このようなものを撒きます」
さっき外したポーチから試作の地面に撒く矢尻の集合体を置く。
「これをもう少し小型にして、もうちょっと鋭利にしたいです。あと全部鉄で作りたいです」
ドミニクは試作を手に取る。
「なるほど。これを馬車の外に撒けば、後ろを走っているものの足に刺さって動けなくなるわけだな。便利だな。量産して売るのもいい」
商売の血が騒ぐのか、目がキラリと光った。
「領地内に製鉄場があるから、相談して量産しなさい。馬車につける刃もそこで」
「ありがとうございます」
良かった。これで量産体制ができた。
父に相談して改良をしてもらうのもありかもしれないなと思う。
「それから、上からの攻撃に備えて、馬車の高さに合わせて、金属の線を張ろうかと」
両手で横に線を引きながら話す。
「金属の線?」
「鉄では柔らかすぎますが、もし馬車より大きい獣が来た時、通行止めにすることくらいはできます」
「もっと強ければ、たぶん勢いがあれば相手を切ることもできます。勢いがある生物には有効かと」
「切る? そんなわけが」
嘘じゃないのにな。
少し考えて、あることを思い出す。
「すみません。少々、下品ですが。見てください」
ポーチの中から先程シャツを縫うのに使った針と糸を取り出す。
そして糸だけを抜いて、サンドイッチの真ん中をくるりと糸で巻いてから、一気に引っ張る。
ぷつりと簡単にサンドイッチは切れた。
「このように、サンドイッチは糸でも切れます」
ヒッと声を上げて、シャーリーが口元を手で隠す。
そんな声出すところ? と思ったが貴婦人にはサンドイッチが死体にでも見えているのかもしれない。
「でも、危ないし、それはちょっと怖いわね~」
「馬車以外の荷車が来た時に安全ではないな」
シャーリーは少し怯えたように眉を顰め、ドミニクも難色を示す。
(確かにそうだ。道なんだから色々な人が利用する)
その時だけと思っていても、荷車がきて引っかかっては大変だ。
「そもそもそんなに大きい獣もこの辺にはいませんしね」
「では、これはしない方が良いですね」
「そうしてほしい。おそらく馬車を刃で囲えば大丈夫だ」
じゃあ、前から思いのほか大きい獣が来たら、武力で倒すしかない。
前から来ても馬車の刃が馬の前にくっついているから、馬車まで到達しない可能性も高い。
気を取り直して、もう一つのパターンを書いた紙をテーブルに広げた。
「あと、もうひとパターンが兵力による圧勝です」
「兵力」
「予言では、警護が手薄な帰宅時に襲われています。でも、警護が5人から50人になったら違いますよね」
そう。動くものは罠では防げないと思っていた。
それなら、もう金という財力があるのだから、騎士をできるだけ連れて行けばいい。
相手は動物。こちらは金属の鎧を着ているのなら、勝つのはこちらだ。
「ただ、この場合も見張り台は必要です。事件が起きる森が短いとはいえ、分散したほうがいい」
「それと、馬につける刃も騎士が傷つくと危ないので、避けた方がいいかと思います」
私の話に、ドミニクはうぅむと考える。
それからしばらくして「真ん中をとろう」と言った。
「真ん中、ですか」
「見張り台は前に使ってた物があるので使える。地面に転がす棘も、金になるから作ろう」
「馬も、最低限だけは刃はつけよう。あとは騎士だが雇用してるので最大限連れていく」
領主らしいテキパキさで、すべての物事を決めていく。
「これでもいいかい? もし森に行かなくて済んだとしても、これなら損失がほぼない」
「はい。頭の中で考えていただけなので、まとめていただけて感謝しています」
私は経験値があまりないので、決めてもらえるのはありがたかった。
「では、カイド。リアナさんと一緒に準備を進めてくれ」
「わかりました」
ほとんど話さなかったカイドが頭を下げる。
これで行こうと話がまとまった。