表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/28

焼け落ちた村と神罰

翌朝。


目覚めた私は、なぜかカイドと食事をとっていた。

料理は素晴らしいけど、朝は片手でパンを口にほおりこむ人間には荷が重い。



「貴族の作法がわかりませんけど……」

「普通に食べてくれたらそれでいいよ」


食卓には、私達二人と、後ろに使用人しかいない。

寂しいんだろうなと思うけど、どう考えても自分が使用人の身分で気が引けた。


「今日、友達と君んとこの領主に会いに行ってみるよ」

「亡くなってないといいですね」


一緒に行くのは、身分の高い友達なんだろうなと思う。


「村に乗り合いの馬車ってありますか? みんなで行って焼け残った物とか回収したいので」

「連れていくよう手配しておくよ。ここまで連れてきたのは俺だからね」


簡単に手配してくれてありがたい。

昨日は嫌だなと思っていたけど、カイドに拾われてラッキーだった。



日中、大量に人が乗れる馬車で、村に帰る。

馬車の中は、15人程の人がいた。

十数戸、家があった村の中で、生き残っているのはこれだけだ。


(でも、予言を知らなければおそらく私を残して全滅していた。)


それを思えば、まだマシなのだろう。

いや、そう思わなければ、やっていけない。


戻った村は、全体的に真っ黒だった。

喰われている死体とギギ虫の死体すら、よく分からない。

匂いも酷く、すえたような、こげたようなよく分からない匂いがしていた。

みんな言葉少なく、すすり泣く声があちこちから聞こえる。


(本当に酷い。なんの罪も犯してないのに)



脱力感と苛立ちを覚えながら、焼け残っている使えそうなものを拾っていった。

父親はなんでも修理できる職人で、仕事に使う工具などを焼けた家の中で集めている。

けれど、やはり木の柄などは燃えてしまって、すぐに使えないものも多かった。


「お父さん。しばらく仕事はできそうもないね」

「まぁ、でもまた色々揃えりゃ作れる。リアナには悪いが、しばらく別の仕事を探してくれ」

「わかった。たぶん村よりは仕事あるだろうから大丈夫だよ」


カイドが連れてきてくれた領地は、村の数倍栄えていた。

仕事を選ばなければ、職には困らなそうだ。


(でも本当に、なんにも無くなっちゃった)


村を歩きながら考える。

予言は出ていたのに、本当に、どうして教えてくれなかったのだろう。

平民だから? 教えると神の怒りでも買うというのか?

新聞で見た予言も、事件があると知ってたら式典なんて行かなければいい。でも行ったのには理由があるのだろう。

でも、人が何十人も死ぬと知っていて見捨てるのは、自分の良心が痛まないのだろうか。

偉い人に比べたら平民の命の価値なんて、虫程度なんだろうなと考えてしまう事も辛かった。


ふと、目の前に目をやると、たくさんのギギ虫の死体が目に入った。


(少なくとも50匹くらいは死んでるよね。どこから来たんだろう)


なにか手がかりがあればと思ったが、焼け焦げて崩れた家と死体に隠されて何もわからなかった。





「おーい! リアナ!」


遠くから名前を呼ばれて振り向く。

カイドがいた。

隣に、カイドと同じ年頃の青色の目をした金髪の青年が立っている。

細いがカイドよりガッシリとした体形で、戦っていそうな風貌だった。


(誰なんだろう)


「カイド様。どうしたんです?」

「こいつが見たいって言うから、連れてきた」


金髪の青年の服は金糸で刺繡がされていて、カイドより高い身分に思えた。


(こんな時、どんな挨拶をしたらいいの? でも無視よりは適当に挨拶した方がいいよね)


「こんな僻地にようこそお越しくださいました。リアナ・バーンズと申します」


とりあえず、どこかで見た挨拶の時は軽く屈伸する、をやってみた。


「高い身分の方への挨拶を知らなくて……すみません」

「いや……そうだな。そういうことは気にしないでいい。セウルと呼んでほしい」


セウル、と名乗った青年は、戸惑ったような顔をして笑う。


(セウル様、か)


「分かりました」


堅苦しそうなのが嫌そうだから適当でいいやと思った。

二人は村の惨状を目にしながら、色々話している。


「こんなにギギ虫が死んでるの見たことある? 俺はない」

「僕もないな」


私もなーい! と心の中で思う。


「ただ、予言があったなら、こうなることもあるらしい」

「予言があると?」


セウルが考えこむように言った言葉に、カルドが素早く反応する。

こちらもこちらでドキリとした。


「予言書に記載されていることは、普段起こりえないことが起きるらしい」


簡単な説明に、そうなんだ……と思いつつ、モヤモヤする。

神罰とかそういうやつなのだろうか。

じゃあ、予言があった場合、無視されても、普段は起こり得ないことに対処しなきゃいけないってこと?

うちの村みたいな見捨てられた予言の場合は無視されて、全員死ぬの?

そんなのあんまりだ。


「ああ、すまない。被害者の前でこんな話を。予言にあったとして、理不尽すぎるとは思う」


セウル様がこちらを見て、申し訳なさそうに言う。


(え、脳内読まれてる?)


「……いえ」


予言のことを知ってるのかなとビックリしつつも、別に謝ることでもないと思い、否定した。


「予言があったら理不尽だよな~」


カイドの言葉に、あ、セウル様は予言の手帳の話を知らないっぽいなと思う。


風にのって、村人のすすり泣く声が耳に届く。

どうしようもない気持ちの中、村での回収作業は終わった。








なぜか、帰りは馬車じゃなく、カイドと馬に乗っていた。

なぜかは分からないが、そういうことになっていた。

母と姉は、なんだか意味深な目をしていたので、たぶん良からぬことを考えていると思う。


「カイド様。お屋敷で働かせてもらえませんか? 働き口がないので」


話すこともないので、聞いてみた。


「えっ、いいけど。秘書になる?」


えっ、秘書?

そんな知識、微塵もありませんし、執事さんのほうが適任では。


「秘書というのは、よくわかりませんが平民の仕事じゃないと思うので、雑用係とかで……」

「リアナはどういうことが得意なの?」

「工具を使う修理とか得意です。クロスボウも直せますよ。焼け跡から元に持ってた奴を持ってきました!」


胸を張って言う。


「……新しいの持ってるんだから、使いなよ」


カイドは呆れていた。

しまった。こういう趣味はお屋敷の仕事には使えないもんね。


「罠とか仕掛けるのも得意です」

「それは得意そうだねぇ」


カイドの穏やかな声は、仕事には繋がらなそうに思えた。

お屋敷でも領地でも罠を仕掛けられるなんてお得じゃないですか?!

いや、要らないか。普通のお屋敷ではそんなもの。


「別に、普通にメイドとかでいいんですけど」


なんでこんなことを聞かれてるのか分からなくなってきて、自信なく言う。


「リアナ嬢は、変わった女性……なんだな」


今まで黙っていたセウルがポツリと言った。


「私からみると、世の中の女性が変わってるんですよ」


たぶん、一般的には、自分が変わり者という自覚はあるけど。

でも、ドレスや他人に振り回されるより、自分のやりたいことができた方が人生は楽しい。

別に誰も否定しないし、他人がどんな夢を持っていてもいいと思うけど、私の夢は普通の女性が考えるものとは違う。

これといった夢もないけど、胸が高鳴るものは恋愛より工具や好きなことをすることだ。


「お二人に夢はあるんですか?」


なんとなく聞いてみる。


「夢か~。別にないかな。領地を継ぐことは決定してるし」

「僕もないな……騎士は身体を鍛えるのが好きなだけだから」


なるほど、夢がない。


「この殺伐とした世の中じゃ、夢を考えるほどの余裕もないですもんね~」


ぼんやり考えながら言うと、二人は笑う。

なんで笑われたか分からないが、楽しそうで良かったと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ