心の拠り所は人生の節目
一ヶ月後。
旅立つ日になった。
今日はバーバラさんもいつもより華やかで旅に行くような服装でオシャレをしていた。
「私、ガリレイ領にはほとんど行ったことないのよ。田舎臭くない? 大丈夫かしら」
「大丈夫ですよ。ここと変わりませんし。今日もお綺麗です」
鏡の前で不安がるバーバラさんを元気付ける。
あれから、ガリレイの力を借りた方が儲かると理解したバーバラさんは、商品と一緒に手紙を書いて、カイドの両親に送った。
もちろんカイドからも連絡は入れていたので、奥様のシャーリーがすぐに試してみて気に入ったそうだ。
だから、契約や工場の準備をするために今日からガリレイ領に行くらしい。
「リアナ。先に荷物置きましょう」
「あ、うん」
青年姿のモニラが鳥籠を背負って私の荷物を持つ。
元気になってからのモニラは、ほぼ男性の姿になっていたので見慣れてしまった。
ある程度は先に荷物を送ってしまったが、クリームなどの手荷物も多く、正直モニラがいてくれて助かった。
戸締りを確認して、がらんと片付いた部屋を出る。
少し寂しいけど、来た時と変わらない光景だった。
「次に下宿する場所は、貴族の夫婦のお屋敷だったわよね。男が三人も行って旦那さんは心配しないのかしら」
「ご夫婦の年齢が60歳くらいで、あんまり夫婦仲が良くないらしいから、引き受けてくれたんだって」
「そうなのね。仲良くなかったら他人でもいた方が安心することもあるのね」
「たぶんね。でも首都だけど、中心から離れてるから工具を使ってもいいみたい。安心!」
「リアナって本当に変わってるわよね」
外に出ると、馬車が出ていて、フランクリンが立っていた。
「荷物を乗せますよ」
「よろしくお願いします」
モニラと一緒に荷物を渡すと、ひょいひょいとフランクリンが荷物を乗せていく。
鳥籠だけは手持ちなので、馬車の中にいれた。
ふとフランクリンを見ると、なぜか泣いていた。
「ど、どうしたんです?」
「いや、すみません……感慨深くて。20年ガリレイの領地に住んでいて何もなかったのに、こんな短期間で全てが変わってしまったので」
「後悔しているとかですか?」
「違います。自分の人生を後悔なんてしません。これからの人生に関しても、何が起きてもきっと後悔していないと思いながら、振り返るんでしょう」
フランクリンはポケットからハンカチを取り出すと、自分の顔を拭いた。
「ただ自分の決意も過去も、目の前のことに簡単に色あせたり、なぜ動かなかったと思ったり……たぶん、この繰り返しなんでしょう」
「もっと早くアゼアムに来て、バーバラさんと出会いたかったとかですか?」
「それもありますが、たぶんもっと早く会っても、彼女は私を好きにならなかったかもとも思いますし。ただ自分の人生が動いたのが今なので」
私にはよく分からないから、私の今の感じ方と40代のフランクリンが見ている世界は感じ方が違うのかもしれない。
人生は通常予言されないものだから、どの人生を選んだとしても結果が出た後に振り返るものだ。
私は人生なんて好きに生きたらいいと思っているけど、フランクリンは違うのかもしれない。
「フランクリンさんは、いま幸せですか?」
「幸せじゃなかったら、カイド様の執事という身分は捨てません」
「じゃあ……最高ですね」
私には分からない感情すぎて、ただ肯定した。
きっと、求められている言葉がそれだと思ったから。
「もう来てたんだ」
背後から声をかけられて振り向くとカイドがいた。その後ろにセウルもいる。
フランクリンの目からドバっと涙が溢れて、カイドに突進していく。
「坊ちゃん! 赤ん坊の頃から見ていたのに、もう一緒にいられなくなるなんて!」
「なんだなんだ。決めたのはお前だろ」
抱きついてくるフランクリンを避けられず、カイドは抱きしめられていた。
セウルが二人を横目にこちらに来て、荷物を馬車の屋根の上に乗せる。
「どういうこと?」
「人生の節目って、きっとロマンティックな気持ちになるんだと思います。人生の主役は自分だって思い出したのかも」
「誰の人生だって、主役は自分だと思うが」
「ただ生きてるだけじゃ、そう思えないのかもしれないです」
「私も今が一番充実してるわよ。あんな城、本当はどうでもよかったのに固執してた。不思議よね」
モニラが馬車の中に入りながら、私の手を引く。
確かにそろそろ出発する時間だ。
「お二人とも行きますよ~。フランクリンさんは駅に私達を置いてからガリレイ領に行くんでしょう~」
声をかけると、二人は慌ててこちらに向かってくる。
バーバラさんが私達を見送るために玄関に立っていて、楽しそうにその様子を眺めていた。
私達を乗せた蒸気機関車は、アゼアムの街を出る。
四人で向かい合った四人席に座ると、窓際になった。
飛ぶように過ぎていく景色を見ながら、もしかしたら今しかこんな旅はできないのかもと思う。
予言を変えるためにこんなことをしているけど、もしかしたら救われているのは私なのかもしれない。
「もしかして、人生って誰かと出会うたびに少しずつ変わっていくものなのかもしれないですね」
「環境とか場所も関係してると思うけど、確かにそうかもな~今の方が面白いよ」
カイドが私を見ながら笑う。
こうやって誰かと出会うたびに色々な影響を受けるのって楽しいかもしれない。
未来はどうなるか分からないけど、後悔しないように生きられたらそれでいいなと思った。
「あ、おやつ食べますか? モニラのごはんの試作品ですけど」
バッグを取り出して四角く切って焼いた素朴なクッキーのようなものを包んだ紙を広げる。
「リアナ嬢が焼いたのか?」
「はい。ドリーが治る過程で、今はすごくご飯を食べることが分かったんです。実は食べられるものも多いので研究中です」
「味付けは控えめだけどね。口に入れると分かるのよ。だから最近リアナが作ってくれてたの。美味しいわよ」
モニラが手に取ってポリっと食べると、二人も手に取って食べた。
「あ、美味い。木の実みたいな味だ」
「美味しいし、優しいんだなリアナ嬢は」
「関わった以上は幸せに生きてほしいですからね」
「私のこと言ってる? それともドリー? まぁどっちも答えは一緒だけど」
ニコニコと笑うモニラに二人は冷めた視線を送る。
「別にカイド様にもそう思ってるし、セウル様も助けますけど」
「リアナは俺のこと見守ってくれてるしね~」
「あの日の誓いは本当だったんだな」
「私だけがいいのに!」
(私が気が多い女みたいで変な感じになってるけど、モニラ以外は幸せそうだからほっとこう)
二人は確定してるんだし、三人とも恋愛みたいな気が私にある……んだろう。たぶん。なんでか知らないけど。
モニラは鳥のせいだし、カイドはたぶん愛情不足だし、セウルもなにかあるんだろうから、これは仕方ない。
(きっと人生って安心できる何かを探す旅なのかもしれないから、三人にとって私がそう見えているのなら、しばらく放っておこう)
フランクリンにとっての執事の仕事が、モニラにとっての古城が、今までの二人にとって安心できるものだった。
心の拠り所といってもいいだろう。
きっとみんな何かが足りなくて、安心が欲しいのに安心できるものがないというのも怖いことだから。
この旅が終わるまでは誰とも付き合えないと言っているんだし、その範囲内であれば助け合って生きるのも悪くないと思う。
(×印の予言書に載る人たちを全て救うまでに、三人も幸せにしたい)
窓の外を見ると、首都に近づいているのか家の数が増えていた。
私も私で、三人がいてくれるから安心していることに気付く。
もしかしたら、私の人生の節目って予言書を拾った時かも?
何もない時より人生が楽しい。
未来を想うと少しだけ胸が高鳴った。
読んで下さってありがとうございます。
ここで一旦休止になります。また時間ができたり、人気が出たら続きを書きますので、どうぞよろしくお願いいたします。ここまで読んでいただきありがとうございました!




