咲いた花の行く末と、未来の話
朝、パチッと目を覚ます。
髪はいつも通りの茶色。
昨日の夜、カイドがバーバラさんにお願いしてくれて、めちゃくちゃ髪を洗われた。
一人で大丈夫だと言ったけど、髪を結んだものをほぐすのも大変だったし、完全に色が抜けるまで何度も洗われたので正直助かった。
しかもバーバラさんの使う品物は髪も肌も触り心地がよくなる。高そうだけど買ってもいいかもと思ってしまった。
(髪がつるつるだ……なんでだろう。どこで買えるんだろう)
私も人の子。いいものには抗えない。
母や姉のものを使わせてもらったこともあるがこんな状態にはならなかった。
でもこれからは生活費もかかるし、節約して余裕があるなら買おう。
元気に食事をしにダイニングに行く。
ドリーの具合が心配だったので、はやく病院に迎えに行きたかった。
ダイニングはフランクリン以外、誰もいなかった。
「フランクリンさん。カイド様はまだ寝ているんですか? ドリーを迎えに行きたいんですが」
「カイド様は昨日、またパーティに出かけて朝方にセウル様と戻られたので、しばらく起きませんよ。ですが私が病院の場所を知っています」
「そうなんですか?」
「はい。昨日、私が対処しましたので。ですから馬車が出せなくなりました。今日であれば出せるので、あとでお連れします」
「本当ですか! ありがとうございます」
よかったと思いながら、椅子に座る。
バーバラさんがやってきて、三人で食事をした。
「バーバラさん。昨日は本当にありがとうございました」
「いいのよ。そんなことより、私、フランクリンさんと結婚することになったの」
「そうなんですか! おめでとうございます」
「執事を辞めなければならないのでカイド様が寂しがると思いますが、旦那様からの許可も下りました」
「辞めてしまうんですか?」
「親戚の配偶者はガリレイ家の直属で働くことはできませんからね。どこの貴族も同じです」
「貴族の社会ってむずかしいですね。でも、カイド様もフランクリンさんが幸せになることを願っていると思います」
「そうでしょうか。それならいいのですが」
いろいろ思うところがあるらしく、フランクリンは目をうるうると潤ませた。
これからの収入面も不安だろうし、それはそうだろう。
「そんなことよりバーバラさん。私、髪が今日はツルツルしてます。肌ももちもちしてるし。どこの会社の商品ですか?」
「嬉しいわ。私が作ってるのよ。肌が弱くてね。若い頃からずっと研究してきたのよ。良いという機械とかも取り寄せたりね」
「ええっ、バーバラさんが作ってるんですか? 品質がいいですね」
「不純物が多いと肌が荒れるから精製を工夫してるの。人に頼まれて最近は多めに作って売ってるけど、リアナさんの分も作る?」
「はい。ぜひ。たくさん作って売った方が良いですよ」
「そういう気持ちもあるけど、手間がかかるのよね。たくさん作るのは難しいわ」
「別にバーバラさんが一人で作る必要はなくて、会社にしたらいいんじゃないでしょうか。こういうのはカイド様のほうが詳しいですけど」
「なるほど。それができるなら嬉しいわね。これからの生活もあるし」
ふんわりと笑うバーバラさんは、何か深く考えているようだった。
和やかに食事を終えて、ドリーを迎えに行く。
病院にいたドリーは元気がなく、羽毛をかきわけると石が当たったところが赤くなっていた。
けれども、病院でやれることはあまりないとのことで連れて帰る。
病院で使っている餌も買って来たけど、丸くて小さい種子が一種類だけだった。
モニラもあれから出てこないし、あの時はあまりに危険だと思ったから出てきてくれただけのことで、実際は本当にキツイのかもしれない。
連れて帰ってきたドリーを柔らかいタオルに乗せて、私のベッドの上に寝かせる。
少し砂糖を溶かした水を持ってくると、力なく起き上がって飲んだあとに、転がるようにまた寝てしまった。
(鳥は軟膏もダメだし、体温がすぐに下がっちゃうから外傷薬がないもんね。栄養、もっとないと死んじゃうかも)
「モニラ、モニラ。他にドリーにどんなものを食べたら治るか聞いてくれない?」
聞いてるか聞いてないか分からないけど聞いてみる。
ドリーの閉じた目が開いて私を見つめたあと、また閉じた。
「話すだけでも体力が取られるから手短に。穀物が足りないみたいね。メモして」
耳元でモニラの声が聞こえる。
今では人間用じゃなくなってる麦や種子、青菜などの名前が上げられて、果物や普通の麦じゃダメだったんだと理解した。
きっとドリーは外に行っている間に、虫とか種を食べて栄養を補給していたんだろう。
「ごめんね。知らなくて。栄養不足だったんだ」
ドリーは少し目を開けて、気にしなくていいというように、弱弱しくピョロロと鳴いた。
バーバラさんの家には家畜もいるし、もしかしたら材料があるかも知れないとダイニングに行く。
ダイニングに入ると、カイドとセウルが起きていた。
すごく具合が悪そうだ。
「リアナおはよう」
「リアナ嬢。具合はどうだ?」
「お二人とも、おはようございます。すごく健康ですが、二人は具合が悪そうですね」
「酒が残ってるから具合が悪いんだ」
なるほど。家ではこういう時は、ジュースを飲むと治るのが早いからって、果物を絞って飲んでたな。
「今は鳥のご飯を用意している所なので、ついでに果物のジュースを貰ってきましょうか? 治りが早いので」
「じゃあ頼む。種類はなんでもいい」
「俺も」
二人のお願いを聞いてから、調理場に行くと、コックのおじさんが出迎えてくれた。
事情を話すと水で割ったオレンジジュースと鳥のエサも貰うことができて、ウキウキで二人の元に戻る。
ダイニングに入ると、バーバラさんがいて、いくつもの容器をテーブルに並べていた。
「リアナちゃん。どれが欲しい? 旅を続けるなら全部は持っていけないでしょう?」
「あ、クリーム……ちょっと待っててください」
両手にジュースを持っていたので、二人の前に出す。
「カイド様。これバーバラさんが売りたいんですけど、どうやったら上手くできますか?」
「おおざっぱすぎる……規模もわかんないし。まぁでも、今日のリアナの髪は凄く洗われたのにつやつやしてるね」
「肌ももちもちしてるんですよ。二人も使ってみてください」
肌のクリームを受け取って、蓋をとって二人に渡す。どうせ買うので使ってもいいだろう。
二人がクリームを塗ると、ふわりと花の香りがした。
「あ~、この匂い。あ、確かに俺の手でもしっとりするな。しかもそんなにベタベタしない」
「売れるんじゃないか? 僕も母に塗られたことあるけど、こっちの方がいい感じだ。持続性があるならさらにいい」
「べたつきはあとで消えますし持続性もあっていいんですよ。でも一人で作るのは大変みたいだから、いっぱい作って売るのがいいかなって」
「リアナちゃんが使ったものだけでも、肌のクリーム、髪の洗い流し用クリーム。あと昨日は髪が傷んだから、髪用のミルクも塗ったわ」
「すでに一人で作れる量じゃないですね」
「普段使いなら肌のクリームと洗い流し用のクリームだけで十分だと思うけれど。量が多いとねぇ。あと精製する道具が高いのよねぇ」
カイドは説明を受けながら、少し考えると、ああ、と声をあげた。
「であれば作ってくれる会社と契約をしたほうがいいですが、父と組めば工場と販路はガリレイのものを使えるので、一度話してみるのもありかと」
「ガリレイと組む……」
バーバラさんはすごく悩んでいるようだった。
「親戚だから利率も良いと思うし、組むなら俺が首都で売ってきますよ。昨日いろいろ貴族の繋がりを作ったので」
「こっちも首都に皇宮があるから、配ることはできるな」
「えっ、二人も首都に来るんですか?!」
私が聞くと、二人はにこやかに笑っていた。
でももうバーバラさんとはお別れなんでしょ? どうなるの?
さすがに異性だけと同居は良くないんじゃないかな。
「あっ!」
ハッとドリーのことを思い出す。エサをあげなければならない時間になっていた。
「まずい! すみません。私ドリーのご飯をあげてきます。弱ってるので」
よく分かんなくなったし、慌ててダイニングから部屋に戻る。
ポケットにいれた青菜と餌の袋を出しながらドアを開けると、ドリーが首を伸ばした。
「ほったらかしにして! 添い寝してくれないと割に合わない!」
怒っている。たぶんクリームなどを塗っていたところをモニラは霊体で見ていたのだろう。
弱ってる時にそんなことしてたら誰だって腹が立つ。
「ごめん。保温しないと鳥は弱っちゃうから鳥の姿なら添い寝くらいはするけど」
部屋に置いてあるエサ入れに餌を入れる。
お盆を持ってベッドまで持っていくと、ガツガツと餌を食べ始めた。生きる気力がすごい。
弱っているといっても自力で食べる気力も飲む気力もあるので、あとは回復するだけだ。
食事を終えて、また眠るドリーを囲むように丸く寝て上から布団をかける。
モニラの声も聞こえないしドリーも鳴かないけど、嫌がっていないことだけは分かる。
別に眠たくもないけど、鳥が冷えるのも可哀想だし命の方が大切なので、とりあえず眠ることにした。




