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初めてのパーティと怪しい男

パーティ会場に着いて、ゲストルームで化粧と髪を直してもらう。

あれからモニラはまだ帰ってきていない。ドリーも見当たらなかった。


夫人がゲストとして呼ばれて出ていってしまったので、一人きりになってしまった。

どうしようと考えた末にパーティ会場に行く。


セウルにカイドが来るまでは、静かなところと暗いところには行かないことと言われていたので、ここしか行く場所がなかった。

パーティ会場は、中央に二階から降りる階段がある広間で、煌びやかな雰囲気に溢れている。


(料理も凄いし、お酒も高いやつだし、みんなキラキラしてる。私、浮いていないかな)


不安になりながらも、居ていいスペースがどこなのかもわからなくて、まわりを見回してしまった。


「シーシャ嬢」


名前を呼ばれて声の方向を見ると、セウルが少し早足で歩いてきた。


「少しカイドは遅れるようだ。食事か、飲み物でも飲むか?」

「食事は大丈夫です。飲み物ってお酒以外にありませんか? 私、お酒飲むと頭が悪くなってしまうので……」

「弱いのか……それは危ないな。果物のジュースにしよう」


そういうと、セウルは一人のワイングラスをいくつも持った男性を呼び寄せる。


「これは酸味がある。これは甘い。好きなほうを飲むといい」


言われて甘い方のジュースを貰う。

飲んでみると、酸味がなくてとろりとした果実のジュースで美味しい。


「飲んだことがない味! 美味しいです」

「それは良かった。ピンク色のちょっと離れた場所でとれる果実ですぐに悪くなるから、市場には並ばないからな」

「だからジュースになってるんですね。高そう」


何杯か飲みたいけど、あんまり飲むと下品になるかなと思って、半分くらいで飲むのをやめておく。

まわりの人がこちらを見てることに気付いて、少し恥ずかしいなと思っているとセウルが壁側に連れて行ってくれた。


「僕と一緒だとやはり目立つな」

「皇族の方なので。でも、ここには人が来ませんね」

「ああ……まぁ、気を遣ってるんじゃないかな」


カイドが曖昧に笑う。


「シーシャ嬢。もし貴族がハンカチを渡してきても、受け取らないでほしい」

「え、わかりました。でも、どうしてですか?」

「ハンカチを受け取ると付き合うことを了承することになる。だからシーシャ嬢もハンカチを渡してはいけない」


一瞬止まる。

そんな大切なことを言葉に出さないで物品の受け渡しで決めるなんて思いもよらなかった。


「そんな恐ろしいこと、最初に教えてください」

「貴族の常識すぎて忘れていた」


ハハ、とセウルが笑う。

そして、壁側に寄ると小声で私に話してくる。


「それから、先ほどは不安にさせたくなくて言わなかったが、シーシャ嬢は賢いから問おう」

「なんでしょう」

「君が乗った馬車を狙って撃ったのは老人だ。追ったが、素早くて逃がしてしまった。知ってるか?」

「えっ、あのロバの荷馬車のお爺さん? どうして?」

「知り合いか?」

「馬車に乗る前に話しましたよ。いいお爺さんでした。荷馬車に乗せてほしいって言ったら男だけだからダメだって断られました」

「まともな老人だな」


予言のことは知らない感じで話しながら、セウルと悩む。

撃った理由はわからないけど、予言の関係者で、なんらかの事情で助けてくれたんだろうか。

予言の関係者がお爺さんであれば、穴を埋めたのも同乗を断ったのも馬車が壊れた後に来なかったことにも説明がつく。


(もしかしたら、あげた軟膏がよく効いたから、お礼? まさかね)


「殿下。お時間です」


セウルに声をかけられた。


「すまない。そろそろ時間だそうだ」

「大丈夫です。お話相手になってくれてありがとうございました」


(セウル様は皇族だし、忙しい立場なのに、独占して悪いことをしちゃったな)


困ったようにこちらに目を向けて連れていかれるセウルに、ニコッと笑って手を振る。

カイドが来るまでは邪魔にならないようにしておこうと思って、その場に立っていることにした。


(カイド様はなにしてるんだろう。ちょっと心配だけど、危ないことはないだろうし……)


ジュースを飲み干す。

オーケストラが奏でる曲調が、突然切り替わった。


二階の階段から、ヴァランの三人がキラキラとした装いで降りて来る。

三人とも光沢のある白い服に金で装飾された服を着ていて、浅黒い肌によく映えていた。

セウルが下で出迎えて、三人とも初めて会ったかのように握手を交わしていた。


(馬車に乗っていた時は気付かなかったけど、もしかしたら役人っていっても、凄く偉い人だったんじゃ)


よく考えたらセウルが派遣されている。

皇族がが対応するならそれなりの地位にいるはずだ。

ヴァランの三人が口々に挨拶するのを、遠目に見つめる。


(もしかしたら、予言通りに死んでいたら、とんでもない国際問題になってしまっていたのかもしれない)


ヴァランは大きい国だから、敵には回したくないはずなのに、どうして×印の予言になっていたのだろう。

考えながら空のグラスを持っていたら、スッと横から同じジュースを差し出された。


(……?)


見上げると濃い灰色の髪をした男性が、こちらを見て微笑んでいた。

スッキリした切れ長の目で少しだけ胡散臭い顔をしていて、髪が貴族にしては少し長い。だが、それがよく似合っているので変じゃなかった。


「空のグラスをどうしたらいいのか分からないようだったので」

「あ、はい……ありがとうございます」


空のグラスを渡しつつ、新しいジュースを受け取る。

男性は近くのテーブルに空いたグラスを置くと、私をジッと見つめた。


(なんか、見られてない?)


「なにか顔についてます?」

「いや……」

「じゃあ、そんなに見ないでください」


貰ったジュースをぐいっと飲む。

相変わらず美味しいジュースだった。


「リアナ。そいつはさっきの爺さんで、気をつけて」

「!」


耳元で声が聞こえて、驚いて口をグラスにつけたまま揺らしてしまう。

慌ててグラスの中身が零れないようにバランスをとり、服を濡らさないで済んだ。


(いまの声モニラだよね。この人がさっきのお爺さん? 歳が全然違う。こっちは十代か二十代前半っぽいし)


ジッと顔を見る。

変装だとするなら崖の爆破に加担していた? でもそれならあんまり話したら危ないよね。


「……なに」

「同じように見たら、どんな反応をするかと思いまして」

「……ハンカチいる?」


咄嗟についた嘘に、変な言葉を返されて固まる。

ハンカチってアレ? 恋人とかいうやつ。

話に脈略がなさすぎる。


「恋人募集中なんですか? 私は募集してないです」

「いや、口にジュースがベトッと」


ジュースが? あ、さっきモニラが話しかけて来た時か!

口のまわりにジュースつけながら見つめてくる女、奇妙すぎると恥ずかしすぎるでしょ。

拭きたいけど、グラスが邪魔なので慌ててグラスをテーブルに置こうと探す。


「いや、こっちが拭いたほうが早い。止まって」


ふ、と声の方向を見た瞬間、布が口に当てられる。

止まるつもりはなかったのに、固まってしまった。


と、次の瞬間、グラスを持った手が握られて、身体が後ろに引っ張られた。

固まったまま、後ろを見る。

カイドがいた。


「俺のパートナーに何してんの」


あ、ハンカチを勘違いしている。

今日は恋人役みたいなものだから、それは役割として怒るとは思うけど、ゾッとするくらい怖い目をしていた。


「カイド様、顔が怒ってますけど、親切心であって恋人を奪おうとかそういうんじゃないですよ」

「そんなわけないだろ。下心だよ」


私を見るカイドの顔は、怖い目をしていない。

それに少しだけ安堵しながら、男性を見ると、呆れた顔をして私の手を指さした。


「ただの親切心だけど。それに、可哀想に彼女の手が赤くなってる。手を放してやりなよ」


男性の言葉にカイドはハッとすると、グラスを持っている私の手を放した。


「ごめん! 痛かった? ここまで走って来たから力が入りすぎた」

「大丈夫です。いつも工具とか使ってるし痛くないですよ。ジュースが零れなくて助かりました」

「いや、零れたとしたら、それは俺が後ろに身体をひいたせいだし。本当にごめん」


カイドが私の手をとって何度も謝る。

痛くなかったし別にいいし、まわりの人がこっちを見てるから止めてほしい。

貴族の男性を謝らせる平民なんて聞いたことないよ。


「カイド様。大丈夫ですから。そんなことより、お腹減ったのでご飯食べたいです」

「もうこんな物騒なところに置いておけないよ。帰って食べよう」

「ええ? セウル様もまだ接客中なのに? それに料理の人も帰ってますよ」

「セウルは関係ない。じゃあ帰りにレストランに寄って帰ろうね」


有無を言わせない様子で、パーティ会場から外に連れ出される。

なんだなんだと思ったけど、言えるような雰囲気でもなかった。

馬車に乗せられると、メイドに上着を渡されて、すぐに出発させられてしまった。


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