予言回避計画の最後はローズレッドのドレス
夜九時過ぎ。
全員で地下の作業場に集まる。私は一応、筆記用具と書き写した×印の手帳を持っていた。
今日も今日とてフランクリンとバーバラさんは話しているので、私達の行動に気付くことはなさそうだ。
「そういえば、リアナってこの件が終わったら次はどこに行くつもり?」
「次ですか? 首都ですね。貧民街で暴動があるらしくて、すごく亡くなるらしいです」
私の言葉に、全員が顔を引きつらせていた。
それはそう。女性が首をつっこまないほうがいいのは私だって分かっている。
「まぁ、私はリアナについて行くし、今は今の話をしましょうよ」
美女の姿のモニラは、そういうと椅子に深く腰を掛けた。
「あの後、コウモリの姿になって、もう一度洞窟の中に入ったら、爆弾の導火線に火が付いて到達する時間を測っていたわ」
モニラの話を聞きながら、隣の椅子に腰かける。
残った二人もテーブルを挟んだ向かいの席に座った。
「それで、洞窟を出てあとを追ったら、アジトみたいな場所に着いたわよ。中に爆弾があったし、人も何人かいたわね」
「爆弾を使えなくさせたらいいだろうけど、犯人探しが始まるし、たぶん代わりを用意されちゃうよね」
「爆破の日付が決まってるってことは、なにかその時間じゃないとマズいことがあるんだろうな」
カイドの言葉に、うーんと全員で考える。
「単純に考えるなら、四日後の夕方にあの道を通る馬車に乗っている人を殺したいんでしょうね」
「四日後は……アゼアムにヴァランの役人が観光には来るな。パーティーもあるし、役人か合わせて来る貴族の誰か狙いかもしれないな」
「ヴァランって、大陸にあるあの国? だからお前がアゼアムにいるのか」
「ああ。パーティの際にもてなす必要がある。まさかリアナ嬢とカイドがいるとは思わなかったが」
「じゃあ、絶対泊まるところが用意されてただろ。そっちに行けよ」
カイドが嫌そうな顔をしながらテーブルに頬をつくと、セウルは無視をした。
二人を見ながら、確かに偉い人が来るのなら、大規模な破壊行為をして妨害するというのもありえると考える。
それから、ふと思いついて席を立った。
「とりあえず、穴を塞ぎましょう! そうすれば爆弾を入れられません」
三人は私を見あげる。
「リアナ。今から行くのはダメよ。夜は危なすぎるわ」
「でも、カイド様もセウル様もいらっしゃいますし、私も戦えます」
「クロスボウじゃ間合いが足りないよ。八人くらいいたら俺らが倒してる間にどうしても連れ去りやすい隙ができるし」
「カイド程度でもリアナ嬢を簡単に運べるんだから、リアナ嬢はもう少し危機感を持った方が良い」
「俺程度ってなんだよ」
軽く言い合いをする二人を見ながら椅子に座る。
(人を巻きこむなら、自分の安全くらい自分で守れなければいけないな)
「わかりました」
「リアナ嬢の存在がこれ以上知られるのも危ないし、誰が知られてもリアナ嬢に辿り着くから、知られないようにしなくては」
「四日もあるから、俺らが適当に行って穴を埋めてくるよ。鉢合わせしたらまずいし」
「それは、申し訳なさすぎます! 私がやりたいことであって、お二人は無関係なのに……」
「いいよ。危ない時は手を出さないで撤退するし」
「リアナ嬢が狙われるほうが困る」
「でも」
「甘えなさいよ。リアナが行ったところで結果なんて変わらないんだから」
全員に言われて、これはたぶん断れないと理解する。
申し訳ないからお礼はなにかするとして、これは甘えた方が良いのかもしれない。
「すみません。では、お言葉に甘えて……ありがとうございます」
心から感謝しながらお礼を言うと、二人はふわりと笑った。
けれど、次の日私たちは後悔することになる。
洞窟の入り口に、昼夜問わず見張りが立つようになり、穴を塞ぐことが不可能になったからだ。
もちろん諦められないので、色んな手を尽くす。
しかしすべて上手くいかず、前日になっても効果がありそうなことは何一つなかった。
予言の前日、私達は馬に乗って、街に向かっていた。
今日はカイドの馬に乗っている。私を乗せるのに労力がかかるのか日替わりみたいな感じらしい。
「リアナ嬢。本当にその、変装をして足止めをするのか?」
「別にリアナじゃなくて、モニラがやる方がいいんじゃないか?」
「モニラは何にでも変身できますから、伝達や洞窟の中も探ってこれます。馬車を止めるなら私ですね」
「別に赤の他人に変身して洞窟に突入してもいいのだけど、リアナが嫌がるからね」
「殺されたらどうするの。私の鳥に危ないことをさせるのはダメだよ!」
ネズミ姿のモニラにくぎを刺す。
セウルのポケットに入っているモニラは、ポケットの中に身体を隠した。
そう。穴を塞げなくても、事故に馬車を巻きこませない方法はいくつかある。
ひとつは、崖側を通る道を使わせない。アゼアムにいく道はいくつもあるので、穴でも掘るなりして他の道に誘導する。
ふたつ目はそれでもダメな場合は私が攫われた貴族の娘のふりをして、馬車に乗りこんで足止めをすることだ。
招待状はセウルがくれたので持っている。招待状を持っている若い女性なら、おそらく貴族は警戒しない。
最悪の場合を想定して策を練った方が良いだろう。
街に到着し、髪を一日だけ染められる染料を買ってから、ドレスを買いに行く。
既製品のドレスで良かったのだが、目が飛び出るほど高くてびっくりした。
店員さんの姿が見えなくなって、少しだけ気が抜ける。
「けっこう……高いですね……」
「リアナ嬢。僕が支払うから遠慮せず、気に入ったものを買えばいい」
「いや、俺が出すよ。だってパーティに来るかもしれないんだろ。それなら誰かのパートナーになってた方が安心だしね」
「悪いですし……明日は髪色も変えるから、二度と会わない変な女をパーティに連れてきたって噂になりますよ」
お金は十分あるので、これ以上の迷惑は悪い。
「まぁね。セウルは皇族だからまずいだろうけど、俺は問題ないよ。親だってリアナだって言えば理解するしね」
「そんなものなんですか?」
「おい、カイド」
「そうそう。セウルはダメだけどね。皇室に入る候補として連れていかれるから」
「連れていかれたら、今後の旅ができなくなりますね」
「そんなことはないが……でも、確かに、今回はまずいか」
セウルが悩むように呟く。
店員さんが奥から戻ってきた。
手にはすらりとした光沢のあるローズレッドのパーティドレスを持っている。
「お客様、できたばかりの商品です。動きやすそうな服装がお好きのようでしたので」
「いいね。かわいい。リアナに似合っている」
「でも、パーティ会場ではいいかもしれませんけど、会場に行くまでに動くのには目立ちますね」
「リアナ嬢。そういう時は外衣を着るんだ。選んでおくから試着しておいで」
二人に促されて、店員と一緒に試着室で着替える。
二畳ほどの区切られた部屋は、着替えをするのには十分だった。
ローズレッドのパーティドレスは、大きく襟ぐりは開いているけど胸は見えないようなもので、金糸の刺繍とフリル付きのレースが美しく細身で袖に使われる布も必要最低限にも関わらず、美しく高いものだと分かる素晴らしいものだった。
試しに足を上げてみると、布が軽く絡みつくような感じでもないので、足さばきも悪くない。
(すごいし、これがいいけど高そう……人に買わせるのは、いくら実家がお金持ちのカイド様でも申し訳ない)
考えて悩むが、店員に促されて外に出る。
室内には女性の姿のモニラもいた。
「リアナ、似合うじゃないか そんなに露出もないし、なんて可愛らしい!! これでお願いします! あとこの上着とリボンも」
「カイド様、買いすぎです。リボンもだなんて」
「外衣は僕が支払いをするから気にするな。うん。本当によく似合う。リボンはモニラからだ。初めてのパーティなんだ。みんなで祝わせてくれ」
「モニラまで? お返しできるものがないんですが……」
「お返しなんていいよ。さ早く店員さんが困ってるから着替えてあげて」
後ろをみると、店員さんが困った顔をして微笑んでいた。
「あ、すみません」
謝りながら、試着室に戻る。
着替えながらも、店員さんがどんな関係か気になっているようだったので、初めてのパーティーで貧乏なのでみんながプレゼントしてくれたと言った。
間違っていないし、どうみても貴族ではないので店員さんも緊張が解けたのか、一人で着る場合の着方のアドバイスなどをもらえた。
その後は男性はパーティの服を買いに行き、私はモニラと一緒に街を歩いて靴を買う。
明日が予言の日とは思えないほど、煌びやかな気分になる一日だった。




