水路探索と危機
三日後。
カイド、セウル、モニラ、私の四人で水路に向かった。
どう考えてもこの人数で行くものではない気がするが、今日はちゃんと暗闇を照らすランタンを持ってきたので安心だ。
「今日はズボンを履いてるので安全ですよ!」
スカートを持ち上げて左右の腰部分で結ぶ。
改造したので布地は少ないものの、邪魔だったので随分楽になった。
「リアナ! 淑女がそんなことをしてはいけない」
「スカートを脱がないだけマシじゃないですか?」
赤い顔をするカイドに細かいと思いながら答える。
「こういう無防備なところがいいのよね」
「リアナ嬢は自由に生きているのが魅力的だからな」
他の2人は注意する気がないのに、カイドだけ過剰反応すぎるのだ。
洞窟の中に入って、全員ランタンを照らす。
向かう場所は、崖に近い方の水路だ。
ズボンにしたのと、靴の裏に滑り止めを塗ったので、今回はとても歩きやすい。
「ふむ……ガスなどはなさそうだな」
「ガスがわいてたらみんな死んでますね」
ランタンを見るセウルと話しながら道を進む。
奥に行くほど鍾乳洞のようになっていて、きれいだった。
歩ける道幅は横に8メートルほどで、端がごつごつとした岩で阻まれており、高さも五mほどしかない。
3メートルほどの水路を挟んで、対岸に1mほどの細い道があった。
10分ほど歩いて、目的の場所に着いた。
崖に対して横になっていると思っていた水路の場所には、ひらけた空間がある。
水路に沿うように広がる空間は横が20mほど、奥行き10mくらいあり、奥の岩の壁は崖の岩肌と同じような硬い層に思えた。
「自然にこの空間ができたのかな」
「作った時は、この空間のことをみんな知っていたから人工じゃない?」
カイドとモニラが話しながら、いろいろチェックしている。
空間の、一番奥の上部を見ると、三つほど穴が開いていた。
「そうですね。上の方に穴がありますし」
「あの穴、最近あけられたものではないか?」
セウルが穴を触ってみる。
穴の大きさは、セウルの握りこぶしが簡単に入るほどで、奥行きもあるようだった。
「やはり最近あけたみたいだな。他の所より、削り口に年代を感じない」
「誰かここに入ってきているってことですか?」
私の言葉に、全員固まる。
「ちょっと道を見てくるわね」
モニラが鳥になって入口の方向に飛んでいった。
「早く帰ろうか」
カイドの言葉に全員頷いて、来た道を帰る。
別に誰がいてもいい気がするが、硬い岩盤に穴をあけるっていうのは、目的があるってことだ。
自分たちが言えることでもないが、こんなところでコソコソしている人間がいい人間とは思えない。
(洞窟みたいなものだから、隠れられる場所はあるけど、会いたくないな)
自分の靴音がやけにカツカツと音を立てているように感じた。
モニラがひらりと飛んで帰ってくる。
「誰か来た」
小声で話した声は、鮮明に聞こえた。
カイドが、私の身体を抱き上げる。
ひょいと岩場の合間をぬって、岩の影に隠れる。
地面がごつごつしていない場所に下ろしてもらった。
セウルが別の位置に隠れているのが見える。
ランタンの明かりを消すと、何も見えなくなった。
かなり遠くからコツコツという足音が聞こえてきた。
私の上に覆いかぶさるようにして、カイドが身を潜ませる。
(く、苦しい……横になろう)
うずくまった上に人がいるというのは、息がしにくい。
音をたてないように体を崩して上半身を横にする。
顔の上で、息をのむ音が聞こえた。
(……!)
真っ暗でよく見えないが、間近にカイドの顔がある気がした。
(息がかかる距離すぎて……照れる)
目が合った後、慌てて逸らして目を閉じる。
足音が近くを通る音が聞こえていたが、別の意味でドキドキしていた。
耳に、微かな呼吸音が聞こえる。
(なんか、モニラの一件から、こういうの照れるようになった気がする)
自分はもっとまともな人間のはずだったのに、なんか嫌だなと思う。
少し目を開けてカイドを見ると、赤い顔をしてこちらを見ている気がした。
(なんか、近くで見ちゃいけない表情……な気がする)
見えないけど、分かる。なんだろうこれ。
足音はだんだん遠くなっていくようだったが、それどころじゃなかった。
なんか、すごく身体も熱い。
(早くこの状態から逃げたい)
恥ずかしすぎて顔を隠す。
「リアナ、行くよ」
耳元に囁き声が聞こえたと同時に、抱きかかえられる。
(~~~~ッ)
カイドは、暗闇の中でも道が見えるのか、私を抱きかかえたままひょいひょいと走った。
セウルもいるらしいけど、よく見えない。なんか、恥ずかしい。
モニラも恥ずかしかったけど、カイドの場合はなんか、男性です!って感じだった。
素早く水路の入り口まで来て、地面に降ろされる。
恥ずかしすぎて、フラフラしてしまった。
「リアナ、大丈夫?」
カイドが支えてくれて、慌てて外に出る。
「二人とも、めちゃくちゃ顔が赤いんだけど」
モニラが嫌そうな声で言った。
「早く馬に乗って逃げるぞ」
セウルが冷めた顔で私たちを促す。
慌てて隠してある馬の場所まで行って逃げた。
今日はセウルの馬に乗せられて来たので、帰りも乗らせてもらって急いで遠く離れる。
モニラは今日は鳥になって来ていたので、鳥になってカイドと一緒の馬に乗っていた。
「あの人たちなんだったんだろう」
「城に入った形跡はなかったから、城ではなくあの場所に用があったんだろうな」
「リアナ。予言までってあと何日だっけ」
「四日後だと思います」
うーんと考えながら洞窟の中にいた人を思い出す。
あと4日しかなくて何度も来るなんて怪しい。予言に関係するのかも。
「洞窟の中に来た人たちを、ちゃんと見た人はいませんか?」
「俺は見てない。リアナを隠すほうに神経を使ってたから」
「僕は見た。民間人より少し上くらいの身なりだったな」
「そうね。貴族からなにか依頼を受けてるんじゃない? それなりの身なりだったわ」
「予言に関係すると思うんですけど……身なりがいい、貴族に近い」
侵入者が入った先には、あの穴が開いた岩壁しかない。
……穴。
「あ」
「どうした? リアナ嬢」
「わかりました。爆弾です」
私の言葉に、セウルは馬を止めた。
慌ててカイドも馬を止める。
「そうか。あの穴は爆弾を設置するためのものか」
「はい。硬い岩盤でも一部が壊れれば脆いです。今日は、サイズの確認とか、穴をもっと大きなサイズにするために来たのではないかと」
「そっか。高めの位置に穴があったのは、逃げるまでに導火線を長くしたいとかあるのかもな」
三人で話して、ウーンと考える。
モニラが翼を広げて私を見た。
「……リアナがお願いしてくれたら、私、あの人たちの後をつけるけど」
「本当? お願いしていい?」
「いいわよ」
少しだけ笑った口調で、パッとモニラは飛び立つ。
心配だったけど上空から見ても探せるだろうし、人間じゃないなら危ないこともないだろう。
飛んでいく後姿を、そんなことを思いながら見送った。
アゼアム編終了まで更新します~!




