カイドとセウルに相談すると、恋の花が咲いていた。
水路の地図が完成した頃には、夕食時になっていた。
あの硬い岩盤をどうにかするには、やはり地中にある水路が関係ありそうな気がする。
(それにしても)
やっぱり部屋を分けてもらわないと危ないと思っていた。
でも、今バーバラさんにお願いしているのはガリレイ家であり、平民の私じゃない。
契約というのは双方に利があるから結ばれるもので、私ではどうこうできないだろう。
やっぱりカイドに言わなくてはいけない。
夕食時には全員集まっていたので、食事をする。
モニラは宝石を換金するといって馬に乗って街まで行ってしまった。
今なら幽霊としてのぞき見される危険がない。
「あの、カイド様。お話が」
食事を終えて部屋に帰る時、カイドに声をかける。
セウルも一緒に止まってしまった。
「うん。リアナ、どうした?」
「あの、えっと……」
この場所では、ちょっと、自分の恥ずかしい話はしたくないな。
うう、なんか恥ずかしい気分だ。
「こちらでお金はお支払するので、バーバラさんにもう一部屋お借りしてもいいでしょうか」
「えっと、借りれはするだろうけど、なんで?」
「ちょっとここでは……」
ダイニングを見ると、バーバラさんとフランクリンが良い雰囲気だった。
それはそれでいいけど、この場で部屋を分けたい理由なんて私も話せない。
「作業場行く?」
でも、作業場は密室だから三人って話が……そうなるとセウル様にも聞かれるのか。
だけど他に場所がない。
「……そうですね」
汗をかきながら答える。
二人はそんな私を、複雑は表情で見ていた。
屋敷の地下にある作業場は、明かりをつけるとけっこう明るい。
ムードある明かりになると話の内容的に恥ずかしいので丁度良かった。
部屋には木でできた机と椅子が四つあった。
「で、なんでそんな赤い顔してるの?」
部屋に入ると、カイドに困った顔をして聞かれた。
「話す前に、私の鳥を殺さないでくれますか」
「聞く前にもうわかったんだけど」
頭を押さえながらカイドが言う。
セウルは渋い顔をしていた。
「聞く前なら殺すのはありなのか?」
「ダメです! 大事な鳥なので」
「わかった。殺さない。だから話して」
促されて迷う。
でも、話さないとどうにもならない。
「あの、寝てる間に何されてるかわからないもので、部屋を分けたいなと」
「なんかされたの?!」
「抱きつくくらいは分かるんですけど、口以外のキスはされてたみたいですね」
二人は固まっていた。
いやだな。男性にこういう話するのは。
「あんまりこう、くっついてると妙な気持ちになるというか、なんというか」
「ドリーだけならまだ大丈夫なんでしょうけど、モニラが積極的なので」
モジモジとしながら話す。なぜ私は、男性にこんな話を。
「女性の身体ならまだしも、男性の身体だと、なんか本当に困ると言いますか」
汗をかきながら、必死に説明する。
二人は青い顔をしていたが、そのうち目つきが厳しくなっていた。
「殺すのがだめなら、追放するんじゃだめ?」
「追放しても、運命の恋をしてるらしいので、戻ってきますよ」
「運命? そんなロマンチストな態度ではないが」
あ、まずい。殺しそう。
なんで赤の他人にそんなに怒れるんだ。
二人がモニラと恋愛してくれてたら、こんなに悩むこともなかったのに。
あ、そうか。二人が付き合うのもアリか。
「私たちが仕掛けからモニラの石を取り出したんだから、二人がモニラと恋愛してくれてもいいんですよ」
二人は心底嫌そうな顔をした。
「だめそうですね。でも本当にモニラは悪くないというか。成仏したいだけだと思うので」
「でもドリーがオスで私のことを飼い主として好きなせいで、モニラがああなったので悪くないです」
大目に見てほしいという気持ちで説得する。
別にモニラのことは嫌いじゃない。ただ困るだけなのだ。
「聞きたいけど、別にリアナは怖いとか嫌とかはないんだよね?」
「そりゃ、なにをされるか分からないから怖いとかはありますけど」
「そういう話じゃなくて……」
「カイド。分からないなら大丈夫だと思うぞ」
「何の話です?」
私の顔を見ながら、二人とも複雑そうな顔をする。
「まぁ、ちょっと、じゃあバーバラさんに話をするか」
部屋を出る。
階段を上がっていると、ちょうどバーバラさんとフランクリンが通り過ぎたところだった。
「あ、ちょうどいいですね」
「いや、待て」
声をかけようとしたところで、セウルに止められる。
止められたので、無言で後を追うと、二人でバーバラさんの部屋に入ってしまった。
「あらら、お付き合いしてるんでしょうか」
「話しかけなくてよかったな」
「そうなんですか? 部屋を借りたいっていうくらい良いかと」
二人は私の言葉に、少し目を見開いてから、顔を見合わせる。
なんだっていうのだ。
「とりあえず、鳥かごはダイニングに置こう」
「そうですね」
セウルの提案に納得して、三人で鳥籠を取りに行く。
朝にうるさいのは可哀想だけど、一日ならなんとかなるだろう。
隣にカップルがいるというのは、ちょっと気まずいのでササっと鳥籠を回収する。
カイドが鳥籠を持ってくれた。
(あ、今日作った地図の話もしよう)
地図を持って部屋を出る。
なんとなく、バーバラさんの声が少し聞こえた気がした。
セウルが、急がせるように肩に手を置いて押すので、早足でダイニングに行く。
二人とも、なんかちょっとだけ照れている気がした。
ダイニングに入ると、カイドが慌てて扉を閉める。
「なんか、壁薄いかもしれないな……」
「でも、なに言ってるか分からなかったらいいと思いますけど」
二人は少し笑って目をそらした。
さっきからなんなの。
「リアナ嬢。しばらく部屋に帰らない方がいい」
「何分くらいですか?」
「二時間くらい……かな」
やっぱり恋人同士の話って、ちょっと聞こえても嫌なものなのかな。
村には年頃の女の人が姉しかいなかったから、よく分からないや。
「わかりました。あ、じゃあ今日の成果を話したいんですけど」
そう言いながら紙を広げる
「今日、モニラと一緒にお城の近くまで行ったら、地下に水路があったんです」
「水路は、崖の近くまで伸びていました。目視ではよく見えなかったんですけど」
「モニラと洞窟に入ったの?」
「そうですよ? 明かりを持ってもう一回行く可能性はありますが」
「次の時は俺を連れて行って」
「カイド様はお仕事で忙しいでしょう?」
「では僕が行こう」
「やっぱりみんな洞窟は好きですよね。わかります」
微笑むセウルに温かなまなざしを向ける。
もっと冒険好きな女性も増えたらいいなと思いながら、話を進めた。
「ちょうど崖の先の方が水路が横になるようになってて、やはり水路と崖崩れは関係がありそうです」
「水路が原因で……なるほど。早急に調査がいるな」
「行きそうな日があったら先に教えて。予定空けとくから」
「では、予定を詰めましょうか」
話していると、コンコンと音が聞こえた。
視線を上げると、窓の外にモニラの姿がある。
「あ、そうか。玄関閉まってるし、窓開けてないや」
走って窓を開けた。
「なんで鳥籠がこの部屋にあるの?!」
開口一番そう言って、モニラはひらりと窓の外から部屋に入ってきた。
酷く慌てた顔をしている。
「今日私が女を買ったからって怒ってるの? っていうかなんでバレたの?」
「え……買う?」
お姉さんがいる飲み屋の話かな。
考えていると、剣を抜いたセウルが私の前に立った。
「それ以上、下品な話はよしてもらおうか」
「いや、待って、誤解を解きたいの! だってリア」
耳が突然塞がれる。
ビックリして背後をみると、カイドが厳しい顔をして私の両耳に手をあてていた。
耳にあてた手が細かく動いて、ゴワゴワと音がしてよく聞き取れない。
セウルが何かモニラに説得しているようだった。
(どんな話をしているのだろうか)
下品な話と言っていたから、そういう話だと思うけど、分からないからな。
分からないものは、聞いたところで分からないと思うんだけど。
ぼんやりしながらゴワゴワとした音をずっと聞く。
セウルが、ドアを開けて、外に私を誘導した。
カイドごと外に出される。
玄関ホールまで耳をおさえたまま連れていかれた。
「ちょっとリアナ、ここで待ってて」
カイドはそう言うと、私の部屋あたりまで歩いて行くと、すぐに戻ってきた。
どういう意図の行動なのか、聞けない空気があった。
「もう、今日はモニラのことは気にしないでお風呂入って寝な」
頭を撫でながら説明されて、文句をいえない空気を感じる。
たぶん、私のために話しあってくれるっぽいから、口は出せない。
「ケンカとか、酷いことはしないでくださいね」
「わかった」
「カイド様。おやすみなさい」
私がニコッと笑うと、カイドも笑って手を振りながらダイニングに戻っていく。
なんか、二人からはモニラと同種の感情を感じる。
でも、年下だから守ってくれてるのかもしれないし、自意識過剰か。
そもそも、カイドはまだ月日があるからわかるけど、セウルは急すぎておかしい。
(どちらにしたって、私は今付き合えないし)
はぁ……とため息をつきながら、お風呂に入るための着替えを取りに部屋に戻った。




