恋愛禁止と青年モニラ
なんか照れてしまって、そそくさと城を後にする。
カイドの馬に乗せてもらって帰ることにした。
「私室に入るのは問題ですが、城に頻繁に3人で城に入るのも大丈夫なんでしょうか」
馬に揺られながら、冷静に考える。
別に私自身は男女が城に入ってもなんとも思わないけど、今までの話を総合したら、こっちも噂が立ちそうな気がした。
「確かに」
「昼なら、もっといい場所があったかもしれないね」
二人は少し照れた声をして話す。
「お屋敷の地下に作業場がありますから、今度話す場所がなかったらそこで話しましょう」
それなら、いろいろ作りながら話ができるし丁度いい。
「地下ねぇ……」
「三人そろった時だけ限定にしよう」
私室が問題なのは、ベッドがあるから誤解されるせいだと思うんだけど、違うのだろうか。
まったく男女問題というのは複雑だ。
「でも、もし噂が出たとしても、お二人は偉いので、私が遊ばれてると思われるだけなので大丈夫ですよ」
「やだよ! 大丈夫じゃないだろ」
「全然よくないだろう」
「だって、予言を防いでるうちは殺されるかもしれないので誰ともお付き合いできませんし。みんな忘れます」
流石に二人に遊ばれているというのは心外だが、手伝ってくれるのに文句は言えない。
「え……付き合う気ないの?」
「だって、付き合っていて亡くなってしまったら傷つけてしまいます」
「死なないならいいじゃん」
「簡単に約束できるような状態じゃないですよ」
「では、僕は死ぬことが予言されているが、僕には恋をする資格がないってことだろうか」
「それは……」
ありませんと言ってしまうのは、あまりに冷たいような気がする。
無責任に言えるなら、死ぬ前に素敵な恋でもしたほうがいいとは思うけど。
「同じくらいに死ぬ人がいるなら、その人と恋したらいいんですけど。難しいですね」
「リアナ嬢は、僕を助けてくれるのではないのか?」
「助けたいですけど、絶対なんて世の中にはないので……私の方が死ぬかもしれないし」
皇族と結婚できると思って付き合ったのに死なれる相手のことを思うと、気楽に応援できない。
「そうか。じゃあ、リアナ嬢と僕は付き合えるな」
「はぁ?! お前っ」
セウルの言葉に、カイドが不快な声で文句を言う。
そうだ。怒っていい。皇族にそんなことを言われたら本気になる女の子もいるだろうし。
「からかうのは止めてくださいよ。夜に集まりにくくなるじゃないですか」
「好かれた相手と会うのは嫌なのか?」
「明確に好意があると分かっていて、夜中に密室で会うのは流石にまずいと思いません?」
背後でごくりとカイドが喉を鳴らした。
「あー、うん。そうか。冗談だ」
セウルがひきつった笑みを浮かべる。
やっぱり冗談だったんだなぁと思いながら、パカパカと馬に揺られながら帰る。
もう少しでお屋敷だけど、このへんはひらけているし、内緒話もできる。
最初から馬に乗りながら話せばよかったと思った。
「とりあえず、崖が崩落するまでに一ヶ月ないのですが、お城って壊せますかね」
「崖が崩落するのは、城が原因なのか?」
「城と崖が同時に崩落するみたいですが、原因だとは書いていません」
「まぁ、でも城が壊れたら予言とズレがでるからやったほうがいいかもな~」
うしろでカイドが考えるように呟く。
「ちょっと城の持ち主と話してこようと思うけど、セウル、お前も来いよ」
「なんで僕まで」
不服そうなセウルの声。
私の我儘のせいでご迷惑をおかけして申し訳ない。
「皇族が来た方が、話がまとまりやすいだろ」
「……はぁ、分かった」
「お二人とも、ありがとうございます」
気まずく思いながらお礼を言う。
二人は問題ないと言ったように笑った。
二人は、私を屋敷に置くと、二人で城の持ち主に会いに行く。
そして、その日は戻ってこなかった。
夜、目が覚める。
「あら、おはよう。まだ夜だけど」
低い声をかけられて横を見ると、青年姿のモニラが隣に寝ころんでいた。
一瞬男だと思って身構えたけど、見た目がどう考えてもそれっぽいので、落ち着く。
最近、モニラはドリーと一緒に出掛けていることが多くて、今日も寝る時はいなかった。
「その姿、はじめてみた……」
キラキラとする青年の顔を見ながら、ぼんやりと言う。
見た目に反して女言葉なので、なんかおかしな感じだった。
「ぜんぜん驚かないのね。つまんない」
「起きたばっかりだし……モニラはモニラだし」
「抱きしめていい?」
「冗談やめてよ……」
ウトウトとしながら話す。
そういえば、古城の台座の仕掛けのこと、モニラに聞けばわかるのかな。
「モニラの石が入ってた台座さ、仕掛けがあったんだけど、モニラ何か知ってる?」
「あれは、下から水を引いてるのよ。城の地下に用水路があるからね」
そう話しながら、モニラは抱きついてきた。
女の身体ならそこまでじゃないけど、流石に男性の身体に抱きつかれると違和感がすごすぎる。
「ちょっと……」
「一緒に寝よ~」
見上げると、瞳が輝いて見えてドキッとしてしまった。
人間は、ちょっとしたことで心拍数が上がるらしい。
なんか、この状態はまずい気がする。
「嫌。水のむ~……」
身体を押しのけると、ドリーの時とは違って簡単に離れてくれた。
恥ずかしくて、少ししか抱きつかれていないのに身体が火照っているのが分かる。
「ドリーの身体から出たほうがいいよ。おかしくなってると思う」
「もう何が本当だか分かんなくなってきちゃった」
手で仰ぎながら注意すると、モニラは悪びれもなく笑った。
それは大問題だ。
「部屋の問題もあるし、それは困るな……」
そう言い残して部屋を出る。
部屋の中も暗かったけど、廊下も暗い。
(今、何時くらいなんだろう。真夜中って気はするけど)
でも目が慣れているので歩ける。
玄関ホールを通ってキッチンへ向かう。
玄関の外に明かりが見えた。
(……?)
そっと玄関の外を見ると、カイドとセウルがいた。
玄関のカギを開けて扉を開く。
「こんな夜に帰ってきたんですか?」
ドアを開けると、二人はこちらを見て安堵の笑みを浮かべた。
何時間くらい外にいたのだろうか。
「リアナだ~! 助かったよ」
「あの家にいたら頭がおかしくなる」
二人は口々にいいながら、家の中に入ってくる。
「また女性に襲われたんですか」
二人は何も言わなかった。
言わなきゃよかったと思いながら、またカギをかける。
「あれ、リアナ。熱でもあるの?」
カイドに聞かれて、少し止まった。
「え、ないですよ」
「でも、赤いし汗もかいてる」
それは、抱きつかれて照れたからだ。
でも、理由なんて言えるはずもない。
「変ですね……」
「リアナ嬢も早く眠った方がいいみたいだな」
「そうですね。お二人も気をつけて」
二人は疲れ切っていたので、軽く話してそのまま背中を見送る。
部屋に戻ってみると、もうドリーは鳥籠の中にいたし、モニラはいなかった。
男性向けなら百合でいくし、女向けなら生やせば百合ではないと思っている。(いろんな界隈に怒られそうな発言)