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耳元に熱と絶望を。


モニラを紹介するために食事の場に連れていく。

元は鳥の身体なので、ご飯の代わりに果物を置いておいた。


食卓には、執事の役目を全うするフランクリン以外、全員食事をしている。

とりあえず崖崩れのこと以外、起きたことと話したことをすべて話した。


「にわかには信じがたいが……」

「私が幽霊だと証明するために身体を離れると、リアナにひっついちゃうのよね」


食事をするセウルに、モニラは困った顔でいう。


「けっこう力が強いんだよな。暴力で解決したほうが楽だと思ったもん」

「私の鳥を大事にしてください」

「だから殴らなかったじゃん」


カイドは拗ねた顔をして食事をしていた。


「でも、見せなきゃ分からないわよね」


そういうと、モニラはテーブルにつっぷした。


「え、待って」


皆の前でまたひっつかれるのは恥ずかしいんだけど!!

焦っている私の前で、モニラの幽霊が、身体から抜け出る。


「ほ、本当だ。透けてる」



驚くセウルと、食卓にいる面々に、モニラはひらひらと手を振る。

カイドはさっき見ていたので驚かなかった。

机につっぷしていた身体が、むくりと起き上がる。

それから周囲をみると、もにょもにょと次々に顔を変えていった。


「え、怖……」


バーバラさんが少し怯えた顔をしていた。

これ、ドリーが化物だと思われちゃうかも。

あ、顔が変われるなら、元にも戻れるんじゃない?


「ドリー、鳥に戻れる? 私、もとのドリーが好きだな」


慌てて声をかける。

ぴたりとドリーの動きが止まった。

また体が、どろりと溶ける。

あっという間に鳥に戻った。


「やればできるんだね! えらい」


ドリーはバサリと飛んで、私の肩に止まると頬ずりをする。

やってることはさっきと同じなのに、身体が違うだけですごい違いだ。


「なんか大丈夫そうです。お騒がせしました」

「大丈夫とは思えないが」


セウルが心配そうな顔をしてこちらを見ている。


「まぁ、なにか問題があれば、考えて対処します……」


それくらいしか言いようがない。

楽し気なドリーとは裏腹に、その場にいる全員の顔が、ちょっと疲れていた。







お風呂に入って、水を飲む。

ダイニングの前を通ると、開けっぱなしの室内で、フランクリンとバーバラさんが話しているのが見えた。


(けっこう仲が良さそう)


執事はそれでいいのかとも思うけど、カイドが納得しているならそれでいいかなと思う。

自室に戻る廊下を歩いていった。


(それにしても、どう城を壊したらいいんだろう。そもそも、城を壊しただけで崖崩れは止まるの?)


あの硬い地盤が、どうして崩れるというのだろうか。

予言で起きることは、現実では起きないことも想定しなければいけない。


(難しい。城を壊すにしたって、カイド様かセウル様レベルの力添えがいる)


でも、二人にとって自分がやろうとしていることを手伝うメリットはない。

ただ人生の目標としてコレを選んだだけで、自分にだってメリットはないのだ。

でも、死にゆく人を見捨てるのは、自分の性に合わない。


「リアナ嬢」


声をかけられて、声の方向を見る。

階段の上からセウルが降りてきた。

いつの間にか玄関ホールまで歩いて来ていたようだ。


「あ、お風呂あいてますよ」

「僕はリアナより先に入った。それより話したいことがあるんだ」

「なんでしょう」

「ちょっとこの場では話しにくいな……」


セウルは困ったように眉をひそめる。

いったいどんな内容なんだ。


「えっと、でも、今ダイニングはバーバラさんとフランクリンさんが使っています」

「そうか……でもリアナ嬢を部屋には入れられないからな」

「小声で話せばいいんじゃないですか? どんな内容か知らないですけど」

「それしかないか。じゃあ、こちらで耳を貸してほしい」


玄関ホールの中央にいたので、階段の下に行く。


(流石に中央で内緒話はおかしいもんね)


考えていると、セウルの口元が耳に近づいた。


(ヴ……恥ずかしい)


ドリーの時は鳥だと思ってたからあんまり感じなかったけど、異性の顔と近いのは恥ずかしいんだな!

息がかかる距離で、カイドが口を開く。


「リアナ嬢は、予言者か?」


思わず、固まってしまった。


「どうしてそう思ったんですか?」


たぶん、セウルは危ない人ではないと思うけど、とりあえず聞く。


「崖の下で会った時に確信したが、カイドの両親が助かったことも、村の住人が生き残ったことも、予言と変わっている」

「その全てに関わっているのは、カイドと君だけだ」


淡々と話す言葉は、確定事項だと告げる声だった。


(予言書のことを、話すしかないか)


覚悟を決めて、セウルを見る。

見上げた先に見えたのは、辛そうな表情だった。


(どうして、そんな顔で)


あまりに辛そうな顔で、戸惑ってしまった。

耳元に、また口が近づく。


「このままでは、君が殺されてしまう」


聞こえた言葉に、時が止まったような気がした。

突然、なにかが床を打ち付けるような音が聞こえた。

セウルの身体が、後ろにグイっと下がる。


「お前、何やってんの?」


カイドだった。


「部屋で話ができないから、ここで話していただけだが」

「リアナが怯えてる」


それは、誰だって殺されると言われたら、怖い。

でも、忠告してもらっただけの話だ。


「あ、カイド様。セウル様は悪くないです」


喧嘩をやめてもらおうと仲裁する。

二人はお友達なのだから、喧嘩をしたら良くない。


「あ、セウル様。カイド様にも同じことをやってください」

「嫌だけど」


あっさりと却下されてしまった。


「なにその温度感。マジでなにもないの?」

「仕方ないですね……じゃあ、カイド様、ちょっと耳を貸してください」

「耳?!」

「えっ、リアナ嬢が」


セウルが慌てているけど、他に誰が話すっていうのだ。


「まぁ……リアナが言うんなら」


カイドは少し照れながらも、上半身をまげてこちらに向けてくれた。

耳に触れるような距離に口を近づけて、口を開く。


「セウル様は、予言のことを知っています。だから私が予言者ではないかと」


真面目な口調で、きちんと事実を告げる。

話し終わってカイドを見ると、真っ赤な顔をしながら、耳を押さえていた。


「待って。はっずかしくて頭入ってこないわ」


気持ちは分かる。気持ちは分かるけど。ちゃんと聞いてほしい。

なんかこっちまで照れてくる。


「もう一回言います?」

「ちょっとヤバいかも……」


なにが? ダメってことかな。


「でも、男女なので私室に入れないでしょう?」

「夜は外で歩けないけどさ。昼話せばいいじゃん」

「確かに」


その観点がなかった。

明日話すことになり、階段下から解散する。


それにしても、距離が近いと恥ずかしいと思いながら部屋に戻った。




ベッドに寝ころびながら、新しい手帳に書き写した予言書を見る。

×印がついている予言は、そんなに数が多いわけではない。

予言書というよりは、ただ数ページのメモ書きだ。

それに、私自身が知る情報も少ない。


(……!)


だからかもしれない。

今頃、気付くこともある。


(どんな気持ちで、話していたんだろう)


ため息をつきながら、目を閉じる。

明日は、濃い話し合いになりそうだなと考えていた。

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