おかしな幽霊と異常事態。
部屋に戻り、窓からドリーを入れる。
ドリーは嬉しそうに私の周りを飛んでベッドに着地した。
私も、その隣に寝ころぶ。
(それにしてもセウル様が皇族なんて)
ぼんやりと考えながら、本当に気楽に話してたなと反省する。
(まぁ不敬と言われるなら、もう言われてるだろうし、大丈夫でしょ)
別に相手が偉い人でも、首をはねることなんてできないだろうし。
そう思うと、どうでもいい気がした。
「あなた。女の子なのに、すごく雑なのね」
隣から声をかけられて、反射的に横を見る。
横を見ると美女が寝ころんでいた。
艶やかな赤い髪に。瞳は黒を思わせるような深い血の色に宝石のような輝きが混じった色をしている。
色を除いた見た目は、古城で見た石像にそっくりだった。
「え、誰?」
思わず素で返してしまう。
「わたし、そういうとこも気に入ったわ」
「だから誰なんですか?」
「わたしは、あのお城にいた幽霊」
「幽霊……?」
美女をジッと見ると、確かにちょっと透けている。
ビックリ通り越して好奇心のほうが上回ったので手を伸ばして触る。なんとなく触れた気がしたがスカスカと通り抜けた。
「幽霊だ。はじめて見た」
「宝石に閉じ込められてて、もうあの城から出られないと思ってたの。嬉しいわ」
「あ、あの宝石の?」
ポケットをごそごそと探って、石を取り出す。
「これです?」
「そうそうこれ。死んでからずっと閉じ込められてるのよ」
「それはお気の毒ですけど、成仏できないんですか?」
「心残りがあるとできないみたい。だから、あなたと一緒に色んな場所に行かせて?」
「ええ?」
幽霊が一緒でも、食費はかからないだろうし、別にいいけど。
でも、いいのかな。お城の持ち主は違う人だけど。
だけど元の持ち主はたぶんこの女の人だもんね。
それに、予言を止めるには、早くあの城を壊す必要がある。
「私と一緒なら、あのお城壊しても大丈夫です? 崖崩れするみたいなので危なくって」
「いいわよ。わたしまで壊されるのが嫌だっただけだから」
「でもおかしいわね。お父様はあの城を作る時に、地盤の固さを優先して作ったはずなのに」
確かに、あの崖の地盤は岩みたいに硬かった。
「そうですよね。私が見た時もそんな気はしてました」
うーん。よく分からないな。
でも、幽霊は一緒に連れていくしかなさそう。
「とりあえず、リアナ・バーンズです。よろしくお願いします」
「モニラよ。よろしく」
モニラが手を差し出す。
触れるはずがないけど、握るそぶりをして私も手を差し出した。
ピョロロ
突然、ドリーが鳴いて、こちらに歩いてきた。
そして、パクっとモニラの石をついばむ。
「ドリー、だめ!」
ドリーは躊躇いもせず、ゴクリと宝石を飲みこんだ。
「嘘でしょ……食べ物じゃないのに!! どうするの!!」
今まで変なものを食べたことがなかったから油断していた。
青ざめながら、どうしようと思いながら逆さにしてみる。
「ちょ、おかしい……」
目の前にいるモニラが呟くと、ぱたりと倒れる。
いつのまにか、ドリーも動かなくなった。
(え? なにがどうなって……)
窒息? と嘴を開いてみるが、宝石が出てくるはずがない。
と、突然ドリーの身体がどろりと溶けた。
「溶け……」
なにが起きてるのか、さっぱりわからない。
ただ、溶けたドリーはうねうねしながら大きくなって人型になった。
その姿は、まるでモニラのようだった。
「……うん?」
ぱちりとモニラのようなドリーのようなものは目を覚ました。
「あら、あらあら????」
そう言いながら、手で自分の頬を叩く。
「合体しちゃった?」
驚いた顔をしながら、呆然としていた。
「あの、モニラなの?」
「あら、リアナ」
こちらに気付くと、モニラは驚いた顔をしたまま、頬を赤くする。
挙動がおかしかった。
「? どうしたの?」
「これ、たぶん、この鳥、普通の鳥じゃなくて、たぶんオス?」
「普通の鳥だと思うけど、オスだよ」
「たぶん、普通の鳥じゃないし、リアナをメスとして認識してるわね」
そうなんだ。でも、別にどうでもいいような。
「へぇ……」
「なにその返事! そのせいでわたしまであなたに惚れてるのよ!!!! 困ったことに!!!!」
惚れてるの?!
鳥の感情に影響されてんの? それはお気の毒に。
「えぇ……それは。なんといえば」
とりあえず、人の感情に振り回される状態はよくないと思う。
「とりあえず、その体から出ていったほうがいいですよ……」
「そうね。そうするわ」
モニラはギュッと目を閉じて、その場に倒れる。
幽霊のモニラが外に出てきた。
「あ、惚れてるの治った」
「それは良かったです。なんか姿が薄くなってますけど」
「えっ、嘘! なんで!!」
床に倒れていたモニラだったものが、少しだけ姿を変えて目を覚ます。
「……え?」
モニラは自分に似た何かを見て、顔をひきつらせた。
モニラに似た何かは、こちらを見ると、微笑む。
「えーと、これは、誰?」
「たぶん、魂は鳥の方……かしら」
実体があるモニラ指をさして聞くと、幽霊のモニラが困った顔をしながら言った。
ドリーか。ドリーならまぁ。気心がしれたペットだから安心か。
「ドリーなの?」
顔を覗きこむと、無言で抱きしめられた。
「わぁ!」
驚いてその場に倒れこむ。
「うわー! なにやってんのよ! 私の姿で!!!」
ドリーは私の髪の毛を食べている。
鳥だ。これは鳥だ。抱きついてる以外は鳥だ。
コンコン
突然、ドアがノックされる音が聞こえた。
「リアナ、ご飯だって」
ドアの外からカイドの声が聞こえる。
ご飯は食べたい。食べたいけど、それどころじゃない。
「いま、たてこんでて、お食事できません!!」
ドリーに頭をスリスリされながら、答える。
姿が女性とはいえ、流石になんか恥ずかしい。
「えっ、大丈夫?」
「大丈夫……なのかなぁ」
ぜんぜん大丈夫な気がしない。
でも、解決方法を考える余裕がなかった。
「開けるよ?」
カイドがドアを開ける。
そして、その場で固まった。
「え、誰? な、なにやってんの?」
「これ、中身はドリーなんですよ。信じられないことに」
そう説明しながら身体を放そうとするが、上手くいかない。
「あつい~」
「離したいけど、力の加減が分からない」
カイドが私とドリーの間に手を入れて、引き放そうとする。
ドリーは、カイドを見つめると、モニョモニョと変化して、今度はカイドの顔になる。
「えっ、なんで!!」
カイドが顔を真っ赤にしたあと、真っ青になる。
そうだよね。自分の顔で、下が女の姿は流石に引くよね。
「ちょっ、カイド様は流石に不敬ですよ! ドリー戻って!!」
弱く頭をたたくと、顔が元に戻った。
「わたしは不敬じゃないっていうの?! ったくしょうがないわね」
そういうと、モニラはドリーの中に入っていった。
ドリーの身体が、ビクンと揺れる。
そして、身体が離れた。
「はい。とりあえずこれで食事に行けるでしょ」
汗だくになりながら、モニラは髪をかき上げながら言う。
美人は赤面すると色気があるんだなぁと思った。
こちらも汗はかいているが、モニラほどではない。
「なんか、すみません」
「謝らないで! これ以上惚れたら危険なんだから!!」
「えぇ……」
でも、お礼を言えなかったり、謝らない奴なんてゴミじゃないですか?
「あの。状況がよくわかってないけど、大変じゃない?」
カイドがこちらを守るように間に入りながら言う。
「よくわかりましたね。大変ですよ」
ため息をつきながら答えた。