セウルの正体
「なんで俺がセウルの肩になんて」
「こっちだって同じ思いだが」
二人がブツブツと言いながら、肩車をする。
結局、私は背が足りないとのことで、二人が肩車をすることになった。
カイドは壁の上から白いものを手にとる。
「リアナ。埃だらけだけど受け取って」
受け取った像は、先ほど本棚で見つかったものと同じような花の像だった。
「お二人とも、ありがとうございました」
像の埃をはたきながらお礼を言う。
女性の像に近づいて、穴と花の像についている円柱を見比べた。
(円柱についているでっぱりは中央に一か所。でも、横溝は一番下)
円柱のでっぱりを溝に合わせて差しこむ。
円柱は途中までしか入らなかった。
(でっぱりが中央についていたのと同じくらいの長さだから、押しこむのかも?)
ちょっと下に強く押すと、重いが下に動く気配がした。
「なにやってんの?」
「あ、これ、下に押したらハマりそうなんです」
だけど、ちょっと自分には重すぎる。
「ちょっと、二個あるので、お二人ともこれを下に押しこんでくれませんか」
「うん、分かった」
「対角線上だから、下に移動するなら、なにかの仕掛けがありそうだな」
セウルはそう言いながら、花が付いた円柱を受け取ると、溝に合わせて円柱をさしこんだ。
二人で円柱を押しこむ。
「いけそう。折れないか怖いな」
「石だから大丈夫だろう」
「ちゃんと最後まで差しこめたら、時計回りに回してください。横溝がそうなってるので」
グググ、と円柱が台座に飲みこまれていく。
ボコン、となにかが抜ける音がした。
台座だと思っていた部分の外側がストンと下に落ちて、中からもう一つの台座が出てくる。
その中央部は四角く開いていて、中にキラリと光る何かが入っていた。
「なんでしょう」
取り出して見ると、宝石のような血のような赤色の丸い石だった。
「宝石にしては隠す程でもないというか。小さいな」
セウルが言う通り、一センチほどの石だ。こんな大げさに隠すほどでもない。
「本来隠すものは、もうここには置いてないんじゃない? 記念に貰っとけば?」
いいのかな……。
でも放置もできないし、あとで鍵を戻すときにお城の持ち主に渡せばいいか。
ポケットからハンカチを取り出すと、石を包んでしまう。
「台座も元の姿とは変わったことも謝らなきゃいけませんね」
しょんぼりしながら花の像を台座から外した。
台座がどういう仕組みかは分からないが、なんとなく水の音がしたので、自然を利用した仕掛けかもしれない。
あとでお城の持ち主に聞かれるかもしれないので、見えにくい場所に花の像を置いておいた。
なんだか、けっこう疲れたかもしれない。
「帰りましょうか」
「もういいの?」
カイドの言葉に、うなずく。
そして、あることを思い出した。
「そういえば、セウル様はこのお城に用があるんですよね? 大丈夫なんですか?」
「ああ、それはリアナ嬢が心配だったから言っただけだ」
「へ?」
どういうことだろう。
「城に入るところを誰かに見られていて、狙って入られたら大変だろう。だから」
確かにそれは危ない。鍵を中からかけないとダメだったな。
「そんな恐ろしい状況、考えてなかったです」
「知らなかったということは、今まで平和だったということだから、良いことだ」
セウルはニコッと笑う。
また怒られると思っていたので安心したが、カイドが嫌そうな顔をしていた。
「ところで宿がなくて困ってるんだ。君たちが泊っているお宅にお世話になってもいいかな」
突然の申し出に、少し驚く。
「バーバラさんに聞かないと分からないですね」
「えっ、そんなの街で探せよ」
カイドは、私の肩を掴むと、玄関の入り口に向かって歩き出した。
セウルは私たちのあとについてきた。
「友達なのに冷たいな」
「噓くさすぎんだろ」
二人が揉めるのを見ながら、お城から出て、鍵をかける。
ドリーが一声鳴いて空に飛んでいった。
馬に乗ろうと振り向いた瞬間、白い女性の影がフッと横切る。
「……え?」
なにもいない。幻か。
改めて見上げた古城は、最初のイメージより良いイメージになっていた。
「セ、セウル・トリセラム様が、お泊りに……?」
家に戻って馬を馬小屋に戻してから玄関に行くと、バーバラさんとセウルが話をしていた。
「十分な報酬は払うので、お願いしたい」
「もちろん、皇族の方を泊めるのは栄誉あることですので」
えっ、皇族?
「セウル様って偉い人なんです?」
「リアナちゃん! セウル様はこの国の第三皇子よ」
「え……」
偉い人だと思ってたけど、そこまで偉い人とは思ってなかった。
「上二人が健在なので、大したものじゃない。他の者と同じように扱ってくれ」
確かにカイドがうちの領の領主を見に行った時に、セウルを連れて行った。
それなら、カイドよりセウルの方が立場が上だということだ。
カイドだってけっこう偉かったはずだから、皇族と言われてもおかしくはない。
(……とんでもない人に肩に乗らせてくれと言ってしまった)
そりゃあ乗せてくれないよ。乗るのはマントくらいだよ。
「そんな偉い人の肩に乗せてくれなんて言ってすみません」
深々と謝罪する。
「いや、違う。あれは淑女の足を触るのが良くないと思っただけで」
「そうだよ。あとスカートで肩に乗るのはだめだよ」
セウルが慌ててフォローする。
いつの間にか戻ってきたカイドが、話に加わった。
確かに、足が丸見えなのはダメか。やっぱりズボンがいるよね。
「リアナちゃん……」
バーバラさんが困ったような、哀れなものを見る目で私を見る。
朝から今まで、ちょっと女性の自覚というものが足りないらしい。
ちょっと考えたほうがいいかもしれないと反省しながら、部屋に戻った。
リアナ、私は大好きなんですが、糖度が低いせいかあまりになぜか初見でみんな去っていってしまうので、私自身に読者がつくまでは、寝かせるしかない?となっているのですが、あと二話くらいで突然逆ハーになっていくのがおもしろいなと思うので、書いてある20話くらいまではアップしていきます。