お金と旅と、カイドとの同居
四日後。
カイドの両親は無事に戻ってきた。
会合も上手くいったらしく、とても機嫌が良かった。
人払いをして、四人で軽食を食べる。
ドミニクが、私の目の前のテーブルに小切手を置いた。
「カイドと話したんだが、リアナさんに褒賞を与えようという話になってな」
「そんな、仕事でしただけのことです」
遠慮するが、有無を言わせない視線を感じて、小切手を手に取る。
そこには、一年くらいは死ぬほど遊んで暮らしても生活できそうな金額が書かれていた。
(お金だよね? だとしたら多すぎ!)
「それをもって銀行に行き、口座を作りなさい。書いてある金額が振りこまれる」
「こんなに……もらえません」
「私たちの命は、こんなに安くない。これでも遠慮しているんだよ」
真剣な顔のドミニクに言われ、口をつぐむ。
よく分からないけど、お金持ちの世界は、これが安いのだろうか。
「えっと」
あんまり断るのは失礼だよね……。
「わ、わかりました」
「君の身分はガリレイが保証しよう。この度はよく頑張ってくれた」
「ありがとうございます」
でもこれで、当面の生活費は気にしなくていい。どこへだっていけそうだ。
「カイド様に罠師のお仕事をいただいたので、仕事をしただけなんですけど、仕事がなくなるので助かりました」
「えっ、仕事をやめるの?!」
カイドが驚いたようにこちらを見る。
「もう予言は回避したので、仕事がないじゃないですか。それに私、アゼアムに行きたいと思ってます」
「アゼアムに? なんで?」
「次の×印の予言がそこなんです。二か月後には行こうかと」
分かりやすく慌てるカイドを見ながら、詳しい説明をする。
三か月後に予言があるから、早めに一か月前に行って調べようと思っていた。
「また助けるの?」
「はい、見て見ぬふりはできないので」
私の話を聞きながら、カイドはなぜか渋い顔をする。
と、ドミニクがこちらを見て手を打った。
「アゼアムといえば……そうだ、カイド。商売をしてこないか?」
「え、と、どういうことです?」
突然の提案に、カイドはドミニクを見る。
「領地の仕事はもう全部できるようになっただろう。今度は商いだ。地面に転がす棘やガリレイで扱っているものを、アゼアムで売ってきなさい」
「それは……いいですけど」
淡々と話すドミニクに、カイドはこちらを見たりドミニクを見たりと慌てている。
「リアナさんも、うちが生活費を保証するので一緒にいなさい。そのほうが安全だ」
「カイド様と一緒に住むってことですか? それはカイド様に悪評がたちませんか?」
未婚の男女が住むっておかしいと思うんだけど。
カイドが言えないようなので、こちらから質問した。
「いや、うちの親戚がそこに住んでいるから、そこにどちらも間借りという形で」
二人きりじゃなければ問題ない気もするけど、どうなんだろう。
「森の中に住んでいるから、工具もあるし、騒音を立てても問題がないぞ。おそらく作業ができる小屋もあるだろう」
えっ、そんな魅力的な!
「お世話になります」
騒音を出していい環境がもらえるなんて、なかなかない。
生活費も出してもらえて破格の待遇!
別にカイドがいても、そんなに問題はないと思うし。
一ヶ月は住むんだから、やっぱり住む場所って大事だよね☆
「カイドはそれでいいかね」
「もちろん行きます」
キリっとした顔でカイドが頷く。
さっきの慌ててたのはなんだったんだ。
そんな訳で、なぜか二人でアゼアムに行くことになってしまった。
それからは、銀行で口座を作ったり、色々やることがあった。
罠師のお給料もかなり多く貰ったので、親に褒美をもらったからと少しわけた。
このくらいなら、親もおかしくならないと思っている。
しばらくして、二メートルほどもある、シカのようなよく分からない生物の頭の剝製ができた。
屋敷の広間に飾っても、角部分がかなり目立つ剥製だった。
頭自体はそんなに大きくないので、よくカイドが命中させられたと思う。
そして、私はシャーリーから身分が高い人への挨拶の仕方や基礎教養を教わっていた。
必要ないと思ったけれど、セウルに対する挨拶にも困ったことがあるので、しぶしぶ習う。
住まわせてもらっている上に、無料で教わることができて結果的に良かった。
そんなこんなで、二か月はあっという間に過ぎた。
本当にあっという間だった。