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燃やされた村と、秘密の手帳

蒸気機関が発明されて、街は景気に沸く時代。


夕焼けの中、私の家が、村が、燃えていた。

広い農地に家が十数軒しかない小さな村。

だけど私にとっては大切な村だった。


燃えてる家の間に点在する黒い影。

赤い、赤い、地獄のような光景だった。



「君!! 先に行っちゃいけない!!」

「放して!! あそこに私の家があるんです!! 親があそこに!!」


こげ茶色の髪を振り乱して叫ぶ。

騎士が、家に行きたい私の腕を掴んでいた。

振り払おうと腕を大きく振るが、その手は決して離れはしなかった。


「あそこにはもう生きている人間はいない! 確認した!」

「そんなっ……」


目の前が真っ暗になる。

生きている人間はいない?


そんな簡単に言えるのは、他人だからだろう。

自分の立場だったら、そう簡単に口にはできないはずだ。


「そんなわけない! 連絡したんだから!!」


カッとなりながら叫ぶ。


(嘘だ! 嘘だ!! 死んでいるはずがない)


「放してよ!!」


ああ、どうしてこの人は手を離してくれないのだろう。


「どうした?」


騎士たちの間から、細身の男性が向かってくる。

薄い茶色の短髪に、同色の瞳。服は高貴な生地で身分が高そうだと一目で理解した。


「カイド様、この子が村に侵入しようとして……」

「あそこは私の家があるんです!! あなた達には関係ないでしょう?!」

「少数の生き残りは、うちの領地にいるよ。そっちに行こう」


男性は、私の目の前に腰を下ろして目線を合わせてくれる。

優しそうで、造形がいい顔だった。

だけど、私にとってはどうでもいい。


「嫌です! 家に本当に家族がいないか確認できるまでは!!」


すぐそこに家がある。

助かっているなんて楽観的に考えられない。ちゃんと確認したい。

父と母、姉とその赤ちゃん。 誰かが倒れた何かに挟まれて苦しんでいるかもしれない。

だけど、調べることさえ許されなかった。


「だめだよ。知人の惨状なんて、女性や子供が見るものじゃないからね」


男性はそういうと、私の背中を見てから、抱きかかえた。


「やめて、放して!!」

「あの、こちらに渡していただければ、他の者と連れていきますが」


騎士が声をかける。


「いや、この子は私が連れていくよ」


そういって抱きかかえたまま、馬まで行くと乗るように指示された。


(ああ、もう自分の意見は通らないんだな)


どこの誰かかは知らないが、平民が逆らっても酷い目にあうだけだ。

いやいや馬に乗ると、後ろに男性が座り、馬を走らせる。

燃える村が、どんどん遠くなるたび、悔しさで景色が涙で滲んだ。


(何も、何も助けることができなかった)


胸を締め付けるのは、後悔と絶望だけだった。

馬は、まわりから離れて、先頭を走る。


「私の名前はカイド・ガリレイ。 名前を聞いても?」


突然、後ろの男性に話しかけられた。

ガリレイ……どこかで聞いた名前のような。


「リアナ・バーンズです」

「年齢は」

「今日、17歳になりました」

「どうして君は村の情報を知っていた?」


背後から聞かれて、ドキリとする。


「何の話でしょうか」

「先程、君は家族は死んではいない、連絡したのだからと叫んでいた」


ああ、しまった。

どうしても手を離してほしくて、つい言ってしまった。


「それに、君は背中にクロスボウを背負っているだろう。私にはわかる。大きな荷物もあとで確認させてほしい」


優しいが言い逃れはできそうもない口調に、覚悟を決める。

クロスボウに、荷物には毒液が入った瓶や武器が入っている。

どう考えても調べられたら私は危険人物確定だ。


「分かりました。お話しします。ただ、秘密にしたいことなので、人払いした誰もいない部屋でお願いできますか」


息をひそめて話す。

他の馬たちとは、かなり距離があるが、それでも聞かれたくはなかった。


「わかった。屋敷で話は聞くよ」


背後から聞こえる声は優しい。

話が通じそうで良かったと思いつつ、私は馬に揺られていた。








日がとっぷりと暮れてから、屋敷に到着した。

取り調べのようなものを受けるんだと覚悟していたが、普通のテーブルとソファがある立派な応接室のような場所に通された。

カイドは私にソファに座るように促してから、テーブルを挟んだ向かいのテーブルに座った。

テーブルの上に紅茶のカップを置くと、メイドが部屋を出ていく。

カイドと二人きりになった。


「それで、どうして村が燃やされることを知っていたんだ?」


カイドの言葉に、私はカバンから一冊の手帳を取り出す。

一見、本のようにも見える繊細な模様の装飾を施された美しい革製の手帳。


「今朝、私は首都で物を売ってたんですけど、真っ白なマントを着た女性がこれを落としたんです。この手帳が予言書でした」

「予言書? そんな馬鹿な」

「私もそう思いましたが、これを見てください」


カバンから新聞を取り出し、一面を開いてテーブルに置く。


「これは今朝、新聞売りから買ったものです」


手帳を開いて、ページを開くと、手帳はカイドに渡した。


「新聞にはラスタマーナ山の式典にて、王族が滑落死すると予言があり、それを防いだという内容ですが、これが手帳にも書いてあります」

「本当だ」


カイドは手帳を見ながら眉をひそめた。

この国には予言者がいる。誰かは知らないが、的中率がすごいというのは国中の誰もが知っているほどだ。


「そのすぐその下に、今日の日付でうちの村がギギ虫大量発生して二次被害の火事で壊滅と書いてあります」


ギギ虫は、子犬ほどの大きさで、高く飛び跳ねる肉食の虫だ。見た目はクモと甲虫の間くらいで色は黒い。

噛まれたら肉を食われるが、数は少ないし警戒心が強い虫なので、農地の村まで近寄ってくることはないはずだ。

昨日家を出た時も、ギギ虫が現れる様子は全くなかった。


「なるほど。だから知っていたのか」

「はい。予言が夕方だったので、飼ってる鳥……ドリーっていうんですけど、その足に手紙を入れた筒をつけて先に連絡しました」

「首都からなら、機関車に乗っても半日くらいかかるもんな。鳥って青い鳥?」

「はい。なんで知って……生きてるんですか?」

「ああ。大きい青い鳥を連れた家族がいた。呼んでこよう」


そう言うと、カイドは手帳を置いて席を立つ。

カツカツと歩いて、ドアから外に出ていった。

ぬか喜びをするとガッカリするから喜んじゃいけないと思いながらも、少しだけ胸が高鳴る。

手帳を手に取って開くと、汚い字で書かれた沢山の文字と日付が書いてあり地図が挟んであった。


(字が汚すぎてわかりにくいけど、一年前から、五年後くらいまでのスケジュールみたいだし、やっぱり予言書だよね)


家族が生きているようで少しだけ安心はしたが、沢山の人が死んだことには変わりない。

武器や毒液を買って、30分で買い物を済ませて、蒸気機関車に乗ったのに、間に合わなかった。


機関車に乗った時間は正午前で、夕方と言われる時間の前には到着するはずだった。

そう。到着するはずだったのだ。

蒸気機関車が、故障をしなければ。


「悔しい……」


やはり運命には逆らえないとでもいうのだろうか。

けれど、新聞に書かれていた予言は防げている事実を思うと、悔しくてたまらなかった。







一回なろうにアップして、あまりに最初に切れる人が多かったのでボツにしたのですが、読み直したらおもろかったので、他一本書いてみて勝ち残ったので、最初の無駄な部分は削って弄って、こちらを連載することにしました。前回読んでいただいた方は申し訳ないです。ありがとうございます。神~!。

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