06.ずっと、一緒に
「ちょっと殿下!ダメですよお義姉さまは色恋に鈍いんですから、もっと直接的に行かないと!」
「いやだが、しかしなあ。こんな歳上の男から言い寄られても彼女だって戸惑うだろう?」
「関係ありませんよ愛の前には歳の差なんて!私と婚約者だって8歳差ですよ!?」
「し、しかしだな」
「せっかく根回しも済ませて、陛下にも王弟殿下にも内々に認諾頂いてるのに、今さら何を躊躇ってるんですか!男ならグイッと!ほらグイッと!」
「……ふふ。君には本当に敵わないなあ」
王弟家の第三王子殿下は、そう言って苦笑なさった。
「君が義姉の婚約者候補を探して王弟家に辿り着き、私を婚約者に推したいって陛下に直訴したって聞いた時には無鉄砲なお嬢さんだと思ったものだが、私ももう少し見習うべきなんだろうな」
そう。私はお義姉さまにもどうしても幸せになって頂きたくて、まだ婚約者のいない殿方で最上の物件を探したのだ。そして不敬と思いつつも、目をつけたのがこの方。王位継承権こそ持つものの王位とは縁遠く、それでいて筆頭公爵家に釣り合う家格と身分と能力を持つ御方。しかも美丈夫!
おそらくは先々のことを考えて、政略のためにいろんな意味で宙に浮いているのだろうけど、そんなこと構うもんですか。筆頭公爵家の安寧を図ることだって立派な政略なんですから、空いているのなら貰ってしまえばいいのよ!
そうしてダメ元で殿下に謁見を願い出て、不躾にもお願いしたら「悪くはないな」と前向きのご様子だったから、陛下にも奏上してご検討頂いたのよね。だって筆頭公爵家が二代続けて乗っ取り男に荒らされそうになったのですもの。それを陛下も憂慮されて話が進むことになったの。
私が話を持ってきて以来、殿下はお義姉さまのことをそれとなく意識するようになって。それ以来公の場や夜会などでお義姉さまとお言葉を交わされるようになり、順調に親しくされているようだったけれど、その割にじれったかったから私の婚約式にお呼びしたのよ。なのに殿下ったら遠慮してちっともグイグイ行かないんだもの。見ててヤキモキするわ!
「殿下は素晴らしい御方ですわ。女公爵さまの公配として、殿下以上に相応しい方などおりません。せっかくここまで苦労してお膳立てして差し上げたのですから、あとは殿下がお義姉さまを口説き落とせばそれで丸く収まるのです!ですから是非とも、頑張って頂かないと!」
「……分かったよ。私も腹を括らなければね」
「その意気ですわ!さあ!お義姉さまの所へ戻りましょう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、一転してグイグイ行くようになった殿下に女公爵さまが陥落するまで、半年もかかりませんでした。殿下の隣で顔を赤らめるお義姉さまのお顔を見て、私もようやく肩の荷が下りたというか何というか。
「君の努力も、ようやく実ったようだね」
「全くだわ。もう、本当に世話の焼ける方なんだものお義姉さまって」
「だがこれで、全部丸く収まったのだから頑張った甲斐があったというものだろう?⸺それに君も、晴れて女伯爵として認められたことだしな」
そう。私は筆頭公爵家の乗っ取りを阻止したことを嘉されて、陛下から旧伯爵家の再興を認めて頂けたの!今は婚約者として私を限りない愛で包んで癒やしてくれる元護衛騎士の彼も、女伯爵の夫になるの!もう婚姻の日取りも決まって、私たちはその準備で毎日忙しくしているわ。
ただ爵位は復活したけれど、旧領は辞退したわ。領地経営のノウハウなんて持ってないし、旧領はもうすでに他の貴族家へ分配されてるからそれを動かすとなるとまた色々と面倒になるしね。今は公爵家の傘下に入って、その広い領地の一地方の代官兼公爵邸の警備責任者候補として、彼ともども教育を受けているところ。
女伯爵で、女公爵の養妹で、筆頭公爵家からも王家からも王弟家からも信任厚い私と婚約者のことを謗る人なんて、もう誰もいないわ。
これもみんなお義姉さまのおかげ。それと婚約者と、お義姉さまの殿下のおかげ。
私は今、とっても幸せ。カレはイケメンというより無骨な感じだけど、今の私にとってはそのゴツくて不器用で逞しく、そして優しいカレがこの世で一番の偉丈夫よ!
「ふふ。貴女、幸せそうね?」
「そう仰るお義姉さまもね?」
「⸺ええ、そうね。全部貴女のおかげよ」
「それを言ったら私の幸せだってお義姉さまのおかげです!」
「ねえ。ずっと、側にいてね?」
「もちろんですともお義姉さま!だって私たちはたったふたりの姉妹なんですから!」
お読み頂き、ありがとうございました。
姉と義妹って何かと敵同士にされがちですけど、たまにはこんな仲良し義姉妹もアリかな、っていう。それだけのお話でした。