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03.全ては掌の上

「わたし、そんな事言いましたっけぇ?『排除すれば終わり』とは言いましたけどぉ、それがお義姉(ねえ)さまのことだとは一言も言ってませんよぉ?」

「なっ……!?そんな、話が違うだろう!?」

「違いませんよぉ?⸺私が言ったのは、『公爵家を守るために、そこに寄生しようとする醜悪な害虫は、排除すれば(・・・・・)終わり(・・・)』だって話ですもの」


 そこまで言って私は、男からスッと身を離した。もうこんなヤツ、一瞬たりとも触れていたくなんてない。


「なっ……お前、まさか、この僕をハメたのか!?」


「……ハッ。自分に都合のいい話を並べられて上機嫌になって、裏取りもしないまま鵜呑みにするような愚かな男を、公爵家に入れられるもんですか!」


「………なるほど。話はおおむね理解しましたわ」


 あらお義姉さま。具体的なことはまだ何ひとつ言ってないのに、もう理解(わか)ったんですか。さすが、学院一の才媛と謳われただけありますわ。


 私は手を伸ばしてくる乗っ取り犯のその手を振り払い、奴ともお義姉さまとも離れた位置に逃れた。


「この男は!自分が有能だと自惚れて公爵家に近付き、お義姉さま……いえ女公爵さまの将来の夫として振る舞いながらこの私に子を産ませ、その子を跡継ぎに据えて公爵家を乗っ取ろうとした大罪人!衛兵!直ちに捕らえなさい!」


 私の号令では会場警備の衛兵たちは動いていいものか迷っているようだった。それを見て取ってお義姉さまが「捕らえて」と一言言えば、彼らはすぐさま動いた。

 ええ、そうよね。私は没落した家の娘、つまり平民ですからね。仕方ないわ。


 そうして私は取り乱して暴れる男の捕物で騒然とするなか、会場を抜け出して逃げた。

 さあ、どこで死のうかしら。



「お待ちなさい。逃がすと思っていて?」


 だというのに、逃げ切る前に私もきっちり捕らえられた。

 まあそりゃそうか。奴の犯罪の共犯者だもんね。



 まあでもこれはこれで間違いなく処刑されるだろうし、それでもいいかな。

 とか思ってたのに、連れて行かれたのは王宮のどこかの応接室。あんまり広くないお部屋だから、多分私的な感じの会見に使われる部屋なのかな。

 中に待っていたのはお義姉さま。それとお義姉さまの侍女と、なぜか私付きの侍女、それに公爵家の護衛騎士がひとり。見慣れた顔の、いつものあの騎士だ。


「まあお座りなさい」


 私を連行してきた衛兵たちは敬礼して全員出て行ったけど、護衛の彼がいるのだから抵抗しても無駄だと悟った。だから言われるがままに大人しく、お義姉さまの向かいに腰を下ろす。


「貴女、どこまで知っているの?」

「お義姉さまこそ、どこまでご存知なの?」


 質問に質問で返したのに、お義姉さまは怒るでもなく答えてくれた。


「そうねぇ……。貴女が彼に手篭めにされて、その復讐をしようとして唆したこと、くらい?」


 ちょっとお義姉さま!?それ全部知ってるって言いません!?



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 結局、私はお義姉さまの掌の上で踊っていただけに過ぎなかった。


 あの日、彼に呼び出されてウキウキしながら出かけた私は、撒いたはずの公爵家の護衛騎士に尾行されていたらしい。

 それは彼の素行に疑念を持ったお義姉さまが、彼と私の関係を疑って見張らせていたから。そして何も知らない私は彼と会い、食事をして、彼の馬車にふたりで乗った。もうその時点で有罪(ギルティ)なのだけど、その馬車が向かった先が完全にアウトだった。

 だってそこは素行のよろしくない貴族やその子弟が逢引するための連れ込み邸。つまり不貞の何よりの証明だ。


 だけどその邸から帰った私は憔悴しきっていて、部屋に閉じこもった挙げ句に人知れず吐いた。そのことは私付きの侍女が見ていて、それも当然報告されていた。誰にも言うなとは言っておいたのだけれど、まあ報告するよね。



 私があの男との逢瀬を楽しんでいるようには見えなくて(そりゃそうだ)、お義姉さまは手を回してずっと監視していたのだそうだ。おかげで閨の中での会話どころか連れ込み邸のトイレでの呟きまで全部バッチリ知られていた。

 なんのことはない、あの邸は公爵家が他家の弱みを握るために密かに維持して運営していた建物だったそうだ。いや気になったんだよね、誰が維持してる誰の所有物件なんだろう、って。でもあの男も街の人も、誰も知らなかったのよね。


 まあそれで、私があの男に手篭めにされて復讐を企んでるって知って、それでお義姉さまは準備万端整えて待ち構えていたそうな。一応それとなく知らせとこうと思って、私も自分で調べた調査結果を匿名でお義姉さまに送ったりもしていたんだけど、その資料を目の前に出されて「これ、貴女でしょ?目晦ましが甘いわ」って苦笑されちゃったわ。

 参ったなあ、ホントに全部お見通しだったのか。


 お義姉さまが分からなかったのは、あの男を破滅させてから私がどうするのかということと、私がなぜお義姉さまの味方をする形であの男を破滅させるよう仕組んだのかということ。

 だって奴を公爵家から排除したいだけなら、小細工などしないでお義姉さまに手篭めにされたと訴えればそれで良かったわけだし。そうすれば私は奴に何度も犯される屈辱も受けずに済んだのに。


「だって、私は私で人生を壊されたのですもの。人の力を借りるんじゃなくて、自分自身で復讐したいじゃないですか」

「そうね、その気持ちはよく分かるわ」

「それに最初は、本当に喜んでしまったんです。お義姉さまではなく私を選んでくれたって。あんな美丈夫(イケメン)が、お義姉さまよりも私を可愛いって言ってくれて、嬉しかったんです。

なのにちゃんと婚約したい、閨事は婚姻が成立するまで待ってって何度もお願いしたのに、アイツは『お前の姉もそう言って、キスさえ許してくれないんだぞ。だから妹の君が代わって私を慰めるのが筋だろう』って。

そんな下らない、身勝手な理由で私の純潔を奪っておいて、『好きな男に捧げられて良かったじゃないか』なんて嘯く屑野郎だけは絶対にこの手で仕留め(・・・)()やる(・・)、って。そう誓ったんです」


「…………呆れたわ。本当に屑だったのねあの男」








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