始まり
デブリ国建国から丁度100年。世界の大陸に存在する6つの国の中で一番の若輩者。他の五つに比べて歴史は薄く産業もこれといってパッとしない。
右隣の友好国であるアカマル国であれば豊富な資源、畜産業が特色だ。痩せた土地の多いデブリ国の大半の食糧事情はアカマル国が握っており、他の国もデブリ国には負けるが依存している。
左隣には大きな山稜を挟む形でマルド国がある。魔の素養を持つものが多く魔道の追求の末、幾つもの便利な魔法や極悪な禁呪を開発しては闘争内紛を繰り返し発展してきた。古代の建築は観光地となり、城下はいつも人が溢れ、様々な貴重な品、美味い物が行き交い流通や流行りの中心でもある活気のある国だ。
隣国のことばかり持ち上げているがデブリ国には大国に飲まれないだけの理由がある。唯一、一つの産業。
迷宮
誰が流したか最初はただの噂話。国の中心から少し、崖の下にある人1人が潜れる小さな穴蔵。
「あそこの穴蔵には宝が眠っている」
半信半疑赴き、人が集まった。ある若者は輝く財宝があったと、あるドワーフは未だ見たことのない鉱物があったと、あるエルフ達は御伽噺の木の実を手に入れたと。不思議なことに1人また1人と宝を得る度に穴蔵は深く深く広がっていく。得られる宝物は多種多様であり、まるで願いを叶えるように本当に強く望んだ意思を汲んだものが得られた。
『病気の妹に薬を、どうか痛みが少しでも和らぐ様に』
『自分の全てを投げ打ってでも復讐できるだけの力をどうか』
『命を狙われるあの方が安心して健やかに過ごせるような品物を』
願いは叶えられた。
不治の病をも治す一度きりの奇跡の習得、握りしめると相手と自分の心臓を潰す人形、空想の世界の生き物小さな銀のドラゴン
人々は熱狂し穴蔵を中心として街を築き始めた。デブリ国の始まりである。主導者が生まれ少し経った時潜っただけでは何も宝を得られない事が出始めた。
そこから迷宮はおかしくなった。潜った一定の割合の人間が消えるのだ。忽然と。何か事故でもあったのか、中で仲違いでもして殺し合いになってしまって帰って来ないのか。日が経つにつれ段々と帰ってこないものが増えていく。調査の為に潜っても消えた人達の身につけていた物一つない。痕跡が全て消えてしまっている。原因がわからないまま時間が過ぎ、噂が広がった。
『迷宮が食事をしている』
意思を汲み、願いを叶え、成長する。まさに生きているようで。だが恐れはあっても人々は迷宮に入るのを辞めれなかった。成り立ちから迷宮に依存しているのだ。
人が50人ほど消えた後、迷宮から地響きが鳴った。宝が鎮座されるだけの深い洞窟には幻想の世界が広がり現実の世界とは思えない生態系が生まれていた。生きたまま燃える森、喋る人形の都、魔獣ひしめく大山稜、死なずの墓陵。迷宮の形造った生物のその殆どは敵対的であるが故に一般の立ち入りは禁じられた。