主人
「こちらのお屋敷で働かせてください」
「断る」
「どうかお願いしますなんでもします」
ここでクロードに許可をもらわなければルナはこの世界で生きていけない
「魔力の持たないお前に何ができる」
コツコツと響く音が頭を下げたルナに近づいてくる
クロードはルナの顎に手を添えるとそっと前を向かせた
その柔らかな手つきに反して赤いルビーのような瞳は険しく地を這うような低い声に思わず肩がすくむ
「ああ、お前は"可愛い"な」
「無知で無力でこの虚弱な体を無防備に晒して」
反対側の手でルナの背中を撫で上げる
確かにルナはこの世界において未熟だった。
ネロの口ぶりでは物事のトリガーのほとんどに魔力が関係しているようだったし執事を雇うほどの主人であればクロードはどこかの貴族なのだろう。
そこに貴族社会のことも魔力のことも知らない自分が働けるなんてそんな自信はルナにもなかったがそんな状態の自分が屋敷の外で生きていける風に考えることもまた難しかった。
それなら面白がる方向ではあれど少しでも好意的でいてくれているネロのそばにいたかった。きっと洗濯や草抜きなどであれば魔力を使わなくても(他の方は魔力を使うかもしれないが)出来るのではと思ったのだ。
なのにこの状況はなんだろう。
言葉の不穏さに信じられないと眉を顰めるルナの反応はクロードを満足させてしまう
抗議の声を上げる間も無く意識は遠のき再び目を開けた時には柔らかな布の上に横たわっていた
部屋の向こうで次々に引き出しを開けて何やら準備するクロードの姿が見える
急いで起きあがろうとするも体が一定以上に上がらず寝具の上でルナはもがいた
「滑稽だな」
見下ろす冷たい瞳を睨み返しても動けない体は動かないままだった。




