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暗殺者  作者: 藍葉
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第6話 判断力は1人前である

グラート公国は敷地面積が広いだけでなく、その科学力や技術力にもかなりの定評がある。

人工的に雨を降らせる技術力もあれば、一部では高層マンションと会社を繋ぐ連絡橋が空高いところにある。


そんなものだから、そんな技術を欲しがる他国の人間は山ほどいる。国王はそれらに対し、寛大とも言えるような対応を取ってきた。そのおかげか、他国からかなり評判の高い国になっていた。そんな国だからか、技術を盗もうとする輩も少なからずいるのだが、厳重に処罰をしているため、国自体の安全は保たれているのだった。


さて、長々と話してしまったが、私は稲葉先輩に連れられグラート公国の城に来ていた。

今は王室の一角にてグラート王を待っているのだ。

グラート王はこのグラート公国の王であり、私を助けてくれた人の父親でもある。まぁ、それなりに感謝はしている人である。


「到着しました、稲葉様、キル様」


衛兵がそう伝えると二人で立ち上がり出迎える態勢を整える。

今日初めて稲葉先輩とグラート王が話すところを見るのだが……

ここでしか見られない真面目な稲葉先輩に思わず笑ってしまいそうだが必死にこらえた。


ガチャッ、とドアが開くとともに王ともう一人女性の方が入ってくる。


「来てくれてありがとう、稲葉。座りたまえ」


「恐縮です、国王」


緊張感が張り詰めていく。この空気がまた、二人の空気であることに私は思わず背筋を伸ばす。

私は一応グラート王には会ったことがあるが、そこまで緊張感はなかった。しかし、よく考えればわかることで、国王に対して普通はこんな感じになるのだと思った。


「お前……そんなキャラじゃないだろ」


「「…はい?」」


え?今、なんて?


「あっ、このキャラもうやめていいんすか国王」


「真面目なお前など寒気が走るわ」


………

つまり、である。


「私の反応を楽しんでたんですかぁ!?!?!?」


「おうキル悪いなぁ!やっぱお前をいじるの楽しくてよぉ!!」


「……後でしばく」


などと、私たちはくだらない言い合いをしていたのだが…


「このくそジジイ!!らしくない空気感作って!私に何の連絡もなしに!!」


「悪いなネル、これが王様のやり方なんだ」


「こんな王が許されていいの!?」


王の方もそんな言い合いをしていた。

というより、である。


「ネルちゃん!?」


「ん?あぁ!!キルちゃーん!!」


久々のネルちゃんに思わず抱擁を交わす。

ネルとは私を拾ってくれた大恩人であり、今も生活のためのお金を支えてくれている。私自身こうして働いているが、拾われた身であるからと心配し、ネルの権限の一部を行使し私に援助してくれている。

まさに、大親友とも呼べる存在である。


そして、そんなネルはとても可愛いのだ。紫色の髪でツインテール。童顔でありながらその紅く輝いた瞳。やや痩せ気味な体型であるが、それを全く感じさせない黒のTシャツに国の色を象徴する水色のカーディガン。また、清楚という言葉が似合うように白色のプリッツスカート。


可愛い。


その言葉しか出てこない程度にネルは女子力の塊なのだ。


そんな優しくて可愛い彼女は昔、複数人を引き連れて未開拓の土地を国の命令で探索していた。その中のリーダーがネルであり、戦闘の指揮官として選ばれたのが稲葉先輩であった。


そして、私の故郷…探索当時から既に荒野と化していた場所で、私を見つけたのが稲葉先輩であった。その時は警戒心むき出しで武器を構えたのを今でも覚えている。

が、状況もわからず右も左も分からない状態だったために、余計に警戒心が増していたのだろう。今では2人とも仕方ないものとして笑ってくれるし、私としても罪悪感はありながら、それを引っ張ることはしなかった。


今でこそネルに関しては皇女でありながら私の家にたまに来たりしては援助金を置いていってくれたり、そのついでにご飯を作ってくれたりする。

完全に女神である。


「大丈夫だった?稲葉のやつになんかやーなことされなかった?」


「お前なぁ?!いくら俺でもそこまでやる訳が」


「いやー実はねネルちゃん……稲葉先輩があんなことやこんなことを…」


「稲葉お前……」


「冤罪だ?!?!」


「冤罪吹っ掛けてみた」


「まぁたまにはね?稲葉だし」


「……お前らなぁ…一応謁見室なんだから静かにしろ」


「さっきアンタもコントしたじゃない!!」


「ウッ‥」


もうこの会話自体がコントである。完全にネタであることは勿論だが、こんなことを偉い人とやっている辺りがヤバい。それに乗る国王と皇女も。


私とグラート王は初対面のはずなのだが…まぁ、気にしないことにした。気にしたら負けである。



「それよりネル、アレをキルに渡しておきなさい」


と、真面目に王が切り出したのでネルも真面目モードに…


「はいはい分かってますよー。いこ、キルちゃん!」


なんて、まるで反抗期かのような返答をしながら私の手を握って王室を出ようとした。私も引っ張られるようにその場を後にする。


「キル、2時間後にロビー集合な」


という稲葉先輩の掛け声に返事をしようとしたものの扉がすでに閉じかけられていたため、その返事は頷いて返しておいた。


判断力は1人前である。


〜ネルの部屋〜


「はいこれ!今月分の支援金ね!」


そう言って手渡されたお金が入った封筒を受け取りつつ私は思ったことを素直に話した。


「毎月くれるのは嬉しいんだけど私ももうお金には困ってないよ??別に今の給料分で生きていけるし…」


実際、給料分で考えれば生きていける分はある。

遊ぶお金まであるかと言われると話が変わってくるが…まぁ、あまり興味が無いので関係ない。と思っていたのだが…


「いーや!キルには必要だよ!そんな女子力0みたいな格好で過ごすなんてダメです、私が許しません」


「いや私ネルちゃんみたいに可愛くないよ…?」


「キルちゃんは可愛いが?!もっと遊びとかそういうのに興味持てばもう立派な女の子だよ?!」


「別に私は立派な女の子になろうとしてないよ?!」


ネルちゃんの行動原理は意味が不明である。

まぁ確かに遊ぶ分に回すお金が少ないのは事実であるが…別にそれも、文句を言うほどではなかった。


「んもう……あ、そうだ」


ふと、少し真面目そうな表情になってネルは言葉を発する。


「稲葉のやつに、何もされてない?」


「いや……毎回言ってるじゃん、何もされてないって、心配しすぎだよ」


「心配にもなるよ、アイツが何考えてるか私にはわかんないもん」


ネルは毎回私にこのような心配をしてくる。

別にいやらしい事もされてないし、特に何か変わったことをさせられたわけでもない。

風俗街の巡回も……まぁ、巡回なので許容範囲だ。

稲葉先輩に何かあるというようにも見えないのだが…


「ネルの考えすぎじゃない?確かに稲葉先輩がなにかしていても気付きにくいかもしれないけど…」


「……まぁ、キルちゃんが何も無ければいいんだよ」


このように、ネルの心配を取り除けないでいた。

まぁ、毎回聞いてくるあたり私が何を言っても心配することになってしまうだろう。毎回何も無かった、と答えるだけだ。大した労力ではない。


その後は駄べりながら適当に集合時間まで時間を潰した。

やはりネルちゃんと話しているととても楽しく、時間を忘れてしまう。

また、帰り際には「今度お買い物行こーねー!」なんて言われた。一国の皇女がそんな事をしていてもいいのかと思ってしまうが、まぁ……アウトならそんな事しないだろうと納得した。


ちなみに。

帰りの車で稲葉先輩の方をチラチラと見たが怪しそうなところはひとつもなかった。念の為カバンの中も「興味がある」と言って見せてもらったが、特に何も無かった。


やはりネルちゃんは過剰に心配し過ぎだ、なんてそんなことを思うのだった…

ネルちゃんを絵で起こしてくれる人募集中……

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