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緋色の剣姫と救国の軍師  作者: 今川幸乃
序章 七年前
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決意

 そんな生活を始めてから二週間ぐらい経った頃だろうか。


「大変だ、大変だ!」


 一人の男がこちらへ走ってくる。目を血走らせて全身擦り傷だらけになって走ってくるから誰かと思ったが、最初に俺たちをここへ案内してくれた男である。エリヤは彼を見ると何かを悟ったのか、すっと本から顔を上げた。ちなみに俺が話しかけてもエリヤはなかなか本から顔をあげることはなかった。俺の胸にもさっと緊張が走る。


「もしかして」

「そうだ、王都が落ちた!」


 男は万感の感情をこめて言った。悲しみ、怒り、無力さ、悲壮さ、申し訳なさ。そんな色々な感情が凝縮された一滴の涙が男の目から落ちる。


「陛下は」


 エリヤは短く尋ねる。真っ先に確認したのが父ではなく王の安否というあたりがエリヤらしかった。


「ご立派な最期でした」

「死んだ時点で王として立派とは言えないわ」


 王への手向けの言葉はエリヤらしく辛辣だった。ただ、後から考えると王族としてあえて気丈に振る舞っていたのだろう。一方の俺は単に呆然として声も出なかった。

それでもエリヤは黙祷を捧げる。俺もそれに倣わずを得ない。本当は家族の安否を確認したかったが。


「父ルイスは」


 しばしの黙祷の後、エリヤは尋ねる。


「奮戦の後血路を開いたようです」

「逃げたのね。普通逆じゃない? いいけど」


 確かに、王を守って死んでいくのが家来の定めだろうが、そこまで立派な覚悟を持った人物はそうそういない。


「彼の父は?」


 気を遣ってくれたのか、エリヤが尋ねる。すると使者は青い顔をした。


「別に分からなくても責めないけど」

「いえ……アーク殿は奮戦の末ご立派な最期を遂げられました」

「そうか……」


 俺たちはどちらからともなく黙祷を捧げる。とはいえ、状況が変わったとしても俺たちにどうするすべもない。逃げようにも俺たちにはどこが安全なのか分からない。結局俺たちは変わらない日々を過ごした。


 そしてそれからさらに数日後のことである。たまたま食糧を買いに変装して近くの村へ出ていた俺はとある光景を

見た。それは異様な光景だった。村の端に、一つの立て札が立ててあり、その隣に数本の木の棒が立っている。そして棒の先には人間の首が掲げられていた。そしてその中に、俺は例の女狩人の首を見つけた。立て札にはこう書いてあった。


『この者たちは帝国の統治に逆らった罪により処刑の上梟首された。いたずらに帝国に逆らうことなかれ』


 死んだ女狩人の目には怒りがあった。帝国兵士が何か非道なことをしたのだろうか。それとも単に侵略が許せなかったのか。いずれにせよ、彼女の目には怒りが籠っていた。


 それを見て俺は体が震えた。理屈ではない熱さが体の中を駆け巡って目がくらくらした。なぜこのようなことが起こってしまったのか。どうして世の中はこんなに不条理なのか。ああ。


 身体の中を熱いものが巡り終えたとき、俺は一つの結論に達した。強くなりたい。そして、願わくばこの手で帝国を葬りたい。

 その日から、俺は今まで何の興味もなかった政治や外交の勉強をした。エリヤは元よりもさらに冷たい表情で俺に色々なことを教え、そして本を読んだ。




王暦九十三年

 新式小銃の大量生産に成功した隣国アガスティア帝国は突如アルリス王国に侵攻した。圧倒的火力の前に王国はなすすべもなく敗北。一年も持たずに王都アルスブルグを失った。

 圧倒的武力の前に周辺国は相次いで帝国に降り、帝国は世界の頂点に立った。




王暦百年

 隆盛を誇った帝国にて民衆叛乱が勃発する。反乱は燎原の火のように帝国中に広がった。王国駐留軍は大半が帰還、もしくは離散。

 それを見て機会をうかがっていた王弟ルイスと辺境伯ガウゼルは挙兵。

 ガウゼルは帝国の援軍を打ち破り、ルイス軍は王都を奪還した。

 ここにルイス王と新生アルリス王国が誕生する。

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